山南像
「じゃあ、今日はありがとな」
「おう、気をつけて帰えよ」
土方がそう言って上り框から腰を上げると、その次に西郷が後ろから声をかけた。
歴史上では敵対していた者同士だとは思えないそのやり取りに、かなたは思わず口元を緩めてしまう。
「まあでも、その懐んもんでやり合わんでよかったです」
桐野の澄ました物言いに、土方・山南・かなたの三人は口を閉ざし、どきりと冷や汗をかいた。
「…気づいてたのか?」
「はっはっはっ! 気づかんかったと思っちょったか? 筒袖に慣れちょらんだろう。頭を下げっ時に丸見えじゃったわい」
大口を開けて笑う西郷に、土方は苦笑まじりにため息をつく。
「はは……そりゃ悪かったな。こっちは丸腰なもんで、念の為に持たされたんだ」
「まあ気にせんでよか。桐野は少々気が荒いが……おいは敵対するつもりはなかけん」
「そう言ってもらえるとありがてぇ」
「ですね」
西郷と土方のやり取りに場を和ませるように、山南が笑った。
彼は自分がそういう役割だと分かっているのだろう。
かなたは、最後まで何とかなったという事実にほっと息をつく。
そして西郷と桐野に別れを告げ、三人は屯所までの道のりを黙々と歩いていた。
「それにしても、何とかなってよかったが……」
そう言いかけた土方に目を向けると、なぜか彼は目を細めるようにこちらを見ている。
次に隣の山南へ視線を向けると、彼もまた、どこか哀れむような目をかなたへ向けていた。
「お前、西郷が犬好きだって知ってたのか?」
土方にそう問われ、かなたはそういえばそんな話をしたなと思い出す。
緊張をほぐす為にと口にした話題だったが、その後のやり取りに気を取られすぎて、すっかり忘れていた。
「そうですね! 未来だと有名なので……」
「西郷が犬好きってのが有名なのか?!」
「まあ……はい?」
「もしかして、その曖昧な感じで言ったんじゃねぇだろうな」
かなたの微妙な返答に、土方はつくづく呆れたように額を押さえる。
すると、山南が微笑みを崩さないまま小さく笑った。
「あの時は本当に驚きましたからね」
「そうだぞ。西郷が許してくれなかったら、今頃どうなってたか……」
「すみません……でも、未来では西郷さんの銅像や絵の隣に犬がいたりするので、犬が好きなんだと思って」
「銅像って……そんなもん出来んのか……」
「あ、安心してください! 土方さんのもありますよ!」
「別にその心配はしてねぇんだよ」
すかさず突っ込む土方に、山南はにっこりと微笑む。
その一方で、自分はどうなのだろうと気になっているばかりだった。




