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神の骰子は万能ではない。  作者: 嶺上 三元
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今日、今が確かなら

 さて、ここで軽く鎮鋒ちんぽう流剣法について説明したい。

 そもそも、鎮鋒流剣法は意外にも歴史の古い剣術だ。

 

 その興りは、今から約八百年近く前、鎌倉幕府の元寇を契機に発生した流派だと言う。

 日本史上でも初となる海外からの侵略により、当時の鎌倉武士は今までの日本にはない新しい武器の洗礼を受けることになった。

 つまりは、てつはうや石弓と言った強力な飛び道具や、従来の日本には存在しなかった様々な

 ただまぁ随分とヤバイ流派だとは聞く。


 その後は、主に関東の片隅で脈々と受け継がれ、特に戦国時代に大きく活躍し、発展した。

 織田信長の一向一揆制圧や、徳川幕府による島原の乱の制圧、さらには幕末期の鳥羽伏見の戦いをはじめとする新政府軍と幕府軍の戦い、西南戦争など、日本史の大きな転換となる戦争で大いに活躍したとされる。


 しかし、明治期に入って以降、銃火器による戦闘が戦場の主役となったことで鎮鋒流剣法は歴史から姿を消し、現在三ツ門町にごく僅かにその存在を残すだけとなっている。


 僕が鎮鋒流剣法の道場に通うようになったのは、幼稚園の頃からだ。

 だから都合にしておよそ10年ほど、この古武術を習っていることになる。


 僕がこの古武術を習い始めるようになったきっかけは、これもまた僕のじいちゃんが理由だ。というか、少なくとも現状では僕の人生の八割はじいちゃんが作ったと言っても過言ではない。そういう意味では、僕もじいちゃんの研究品や実験品の一部なのかもしれない。


 まぁ、それはさておき、何故じいちゃんが原因で僕が古武術を習い始めたのかというの、僕の師匠がじいちゃんの友達だったからだ。

 それも、かなり古くから付き合いのある仲で、嘘か本当か中学時代に二人してヤクザを潰したことがきっかけで仲良くなってしまったという。

 まぁ、そんな二人の付き合いの流れから、色々あって僕とましろは出会い、その縁でじいちゃんは僕を道場に入れさせた。

 以来、僕はなし崩し的に週に三回、火、水、木の三日間、師匠に鎮鋒流剣法を習っている。


 そんな僕の生活に馴染み深い道場の中に入ると、そこには頭頂部の禿げた白髪の爺さんが一人で木刀を振っている姿があった。

 ましろの祖父にして、僕の武術の師匠である石動・唐獅子。天下無敵のハゲジジイだ。

 白い道着に白い袴を穿いて木刀を振るっている姿は、如何にも超越した達人じみた風格を感じさせ、実際にその強さは折り紙付きだ。

 そんなハゲジジイは、僕に気づくと素振りを止めて、木刀を壁にかけた。


「よう来た。とりあえず今日の稽古は無しだ。人まず座れ」


「言われなくても、する気はないですよ。休みの日に稽古だなんてバカじゃないんだから」


「相変わらず口の減らんガキだのう。ジジイのご機嫌取れない様な奴が、社会で楽に生きていけると思うなよ?」


「最悪な脅しだなあ。そんなこと言ってるジジイが年金もらえると思うなよ?」


 僕がそう言うと、師匠は鼻で笑うと僕の頭にチョップをかました。いや、師匠は軽くやったつもりかもしれないけど、結構痛いんだけど?

 しかし、そんな僕の無言の抗議に気を止めることなく、師匠は僕の目の前に座り込んだ。


「早速本題に入るが、例年の夏祭り、知っとるだろう?くるくる祭りだ。今年は、儂があれのオオネギを務める事になった。あと、ましろもヒメに選ばれた。その事を教えとこうと思っての」


 僕の目の前に座るなり、そう本題を切り出した師匠に、僕は思わず小首を傾げた。


「そうですか。ってかそんなこと言う為にわざわざ僕を呼び出したんですか?」


 例年の夏祭り。それはきっと、三ツ門町の初夏の風物詩とも言える、通称、「くるくる祭り」のことだろう。

 大正時代から続くその祭りは、一年に一度、町内の誰かが名目上の主催者であるオオネギ、漢字では大禰宜と書く役職と、ヒメと呼ばれる役職に選ばれる、

 とは言うものの、実際にオオネギやヒメになったからと言って、何か大きな仕事をする訳ではない。

 単に祭りの終わりと始まりの合図を出すのがオオネギで、祭りの神輿が担がれる際にその先頭に立って合図を出すのがヒメだ。ちなみに、オオネギは必ずそこそこの年を食った爺さんが選ばれるのが、ヒメに関しては男女や年齢ではなく、単に候補に選ばれた人間の中からくじ引きで選ばれる。

 まあ、要は、二人とも祭りの飾り役だ。とは言え、祭りの中でも最も盛り上がる開始と終了の合図を出し、神輿の先頭に立つ役目ということで祭りの顔とも言える重大な役目でもある。

 そんなオオネギとヒメに師匠と幼馴染が選ばれたと言うことで、僕は素直に褒め称えた。

 すると師匠は、「何ん他人事のような面をしておる」と、呆れた様に大きく溜息を吐いた。


「無論、お前にも祭りの手伝いと、あと、神輿担ぎをしてもらうからのう」


「ええ?何でわざわざそんな面倒臭いことをしてなきゃならないんですか?」


「そもそも儂がオオネギに選ばれたのはお前のせいでもあるんだからな?何を面倒臭そうな顔をしておる?」


 師匠が呆れた顔で顔を横に振ったが、僕にはまるで心当たりがない。


「そもそもオオネギに選ばれるのは、その前年にくるくる祭りに関わりのある神社に最も大きな寄進を行ったものに限られる。お前は去年、儂を巻き込んでくるくる様の祠を直したじゃろう?」


「ああ……確かに僕も祠作りましたけど……、あれはじいちゃんが実験で作った車を祠に突っませたから、仕方なくであって」


「ああ、儂も一族揃って罰当たりな連中だから、そもそも祭りに関わらせるなと言っといたんだが、だったら尚更アンタがどうにかしろと凄まれてな。仕方なく、受け入れることにした」


「罰当たりな一族って……、まあ事実だけど。じゃあ、僕も参加しなけりゃいけないってことですか?」


「そうなるな。という訳で、当面の間は稽古はつけられなくなるし、暫くの間は祭りの準備に追われることになるだろう。だから、いっそのこと祭りが終わるまでは休館日にすることにした」


「マジで?やったねー。夏の暑苦しい中、ジジイと顔を突き合わせ続けるのはキツいと思ってたんだ」


「よう言うた。そこまで言うなら、今この場で最後に稽古つけてやるわ。そこに直れい!!!」


 思わず本音をぶちまけた僕に、師匠はキレて手にした木刀を振りかぶって僕に襲い掛かってきた。

 そうして、そのまま僕は師匠にボコボコにされてから道場を出て行った。

 いや、マジであのジジイ強すぎるだろ。少しは耄碌しろよ。

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