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神の骰子は万能ではない。  作者: 嶺上 三元
3/7

イジメ、ダメ。ゼッタイ。


 校庭の片隅にあるベンチに座りながら、僕はましろから差し出されたカツサンドを口にしつつ、ましろから借りたハンドタオルで頭を拭いていた。

 柔軟剤のフローラルな香りと石鹸の匂いのお陰で、頭にこびりついた牛乳の匂いが取れた気がする。

 そうして、ましろから借りたハンドタオルを返しながら、僕はましろに忠告した。


「……ましろ、もういい加減に僕に絡むの止めろ。お前もイジメられんぞ」


「お前なぁ、人の心配していられるタマかよ。今イジメられているのは、お前の方だろ。大体、何でお前は昼休みなのに昼飯食ってなかったんだよ?」


 ましろその質問に、僕は答えることができなかった。

 すると、そんな僕の心を読んだようにましろはため息をついた。


「当ててやろうか?金、盗られたんだろ。まーた、風早たちのカツアゲにあったんだろ?犯されるーとか言われて」


 ましろの指摘は正しかった。僕は確かに、あいつらに絡まれて金を巻き上げられた。

 クラスの連中の前で連れ出しておきながら、僕に呼び出されたとか、どの面下げて言ってんだ。って感じだが、成績優秀、眉目秀麗、文武両道のスクールカーストトップのお嬢様はどんな無茶でも通せて偉いもんだ。


「言っとくけど、イジメって言うのは犯罪なんだからな?普通に犯罪で、普通に悪い事。それを黙って見ているわけにはいかねえよ」


 ましろはそう言って人差し指を突きつけてくるが、僕はその手を叩いた。


「普通に犯罪だから、巻き込まれたら酷い目に遭うんだろ。良いんだよ、お前は僕のことなんか気にしなくて」


 そう言って僕はましろから奢られたカツサンドの残りを口に放り込んで立ち上がろうとしたが、ましろはそんな僕の前に立ちはだかって鼻を鳴らした。


「別に私はお前のことを心配して声をかけているわけじゃない。お前は一応、我が鎮鋒ちんぽう流剣法の門弟だからな。門弟なのに女にいじめられていて、手も足も出ません!なんて言われてみろ、こっちの商売上がったりだぞ?だーかーらー、お前のいじめをどうにかしたいの」


 そう言って胸を張るましろに、僕は思わず半目になった。


「……下ネタ止めろよ。恥ずかしいだろ」


「なんだよー!お前だって鎮鋒流の門弟の一人じゃないかー」


「だから嫌なんだろうが。なんでこんな下ネタ剣道の弟子になったのやら。ったく、師匠もいい加減、門弟増やしたきゃ道場の名前変えろって話なのによ」


「あー!私たちが一番気にしていることを言ったなー!!そんな事言ってたって、じいちゃんに言ってやろう!」


「おい!やめろよ、マジで?!師匠にしごかれるの僕なんだからな?!」


 そうして、僕とましろがくだらない話をだべっていると、不意にそんな僕たちに横槍を入れる声が聞こえてきた。


「うーわ、キッモ!ロリコンがいるー。こんなところで小さい女の子相手に欲情するとか、サイテー」


「本当にキモーい。生きてるだけでもキモいのに、ロリコンとか、マジキモい」


 そう言ってケラケラと笑う風早と春崎がいた。どうでもいいけど、こいつらキモい以外の語彙力ないのな。その語彙力でどうやって学年首位を維持しているんだろう。

 そんな僕の疑問をよそに、二人は俺とましろの座るベンチを取り囲み、ニヤニヤと笑い顔を浮かべていた。

 すると、そんな風早と春崎に対して、ましろは目を怒らせながら二人の前に立った。


「待てよ!こいつから巻き上げた金を今すぐ返せよ!」


「は?こいつが私らに渡した金は、勝手に私に渡してきただけなんですけど?まるで私たちが悪い事してるみたいな言い方、やめてくれます?」


 ましろに対して、風早はいけしゃあしゃあと滅茶苦茶なことを言ってのけた。まぁ、でもあいつらにとっては、実際にそう言う感覚なんだろうと思う。

 何しろ、昼休みになるたびに金を巻き上げられるから、もう今では昼に顔を合わせるとか僕の方から金を差し出しているからな。

 毎度金を巻き上げられて思うんだけど、こいつら僕から金を巻き上げなきゃ飯も買えないとか、どんだけ貧乏なんだろうか。

 そう考えると、僕が金を巻き上げられているのは、貧乏人を少しでも助ける慈善事業なのかもしれないたなあ。

 そんなしょうもないことを考えているのと、不意にましろが僕を振り返った。


「おい!コロお前も何か言い返せよ!お前が直接迷惑を伝えない限り、こいつらなんでもしてくるぞ?!」


「あ。悪い。聞いてなかった。風早に金を恵んでいるのがなんだって?」

 

 唐突に話を割り振られた僕は、咄嗟に頭の中の言葉をそのまま口にしたが、それを聞いた風早の反応は劇的だった。

 風早は、耳まで真っ赤にして黙り込み、今までに観たことがない表情で僕を睨みつけた。


「は?わあんた、私が貧乏だとか思ってんの?」


「え?違うの?」


 思わずナチュラルに聞き返すと、風早は目に涙を溜めて僕を睨みつけた。

 そうして、風早は暫く俺を睨み続けていたが、やがてそのまま走り去るように俺の前から逃げ出した。


 そうして残った春崎の方は、少しだけ気まずい表情で僕を睨みつけると、風早を追いかけてその後を追って行った。

 そんな二人の後ろ姿を、僕とましろは呆然と眺めながらその場に残ることしかできなかった。


「……なんだったんだ?あれ」


 そんな中、呆れたようにましろはそう呟き、僕はさあ?と首を傾げた。


「……家が本当に貧乏とか、そんなんなんじゃねえの?まあ、そうだったら貧乏人がイキがってんじゃねえよ、って話だけどな」


「……お前今、全世界の大半の人間を敵に回したぞ?」


 ましろの言葉を僕は鼻で笑い飛ばすと、ベンチを立ち上がって伸びをした。


「別に世界中の人間に合う予定があるわけでもないし、それで良いよ、僕は」


 そう言う僕に、ましろは呆れたようにため息をついた。


「コロって、メンタル異常に強いよな。ちょっとは私にもそのメンタルの強さを分けてくれよ」


 ましろの言葉を僕は鼻で笑うと、 午後の授業に備えて教室に向かった。


 
















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