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その後、アレン編


(やることが多すぎる‥)


クロードのお目付役として城を出てからそれなりの年月が経っている。その間誰かしらがガレオの世話を焼いていたはずだ。それなのに執務室の机には未処理の書類が山のように置かれている。

今まではどうしていたのかと問えば宰相のミルが最重要の項目だけピックアップしてこなしていたそうだ。この山からそれを見つけ出す能力はあるのに何故他のものは処理できないのか。

私は思わずため息をこぼした。


ガレオの元を離れ、今まで仕事で悩殺されて出来なかった魔道具の研究、開発に没頭していた。合間合間でクロードが起こした問題の処理に追われることもあったがそれでもひとり、城で働いていた時より圧倒的に時間があったからだ。


(既にあの頃が懐かしい‥)


食事や寝る時間、店に来る人もほとんど居なかったし格好に気を使う必要もなく自分の好きなように出来たあの時間はまさに至福だった。だけど同時に城が心配だったのも事実で、結果案の定この有様だった。


「嘆いていても仕方がない‥やりますか。」


ミルは仕事ができないわけではない。一見乱雑に置かれている書類もよく見れば分類、日付毎に分かれている。

私はそれを古いものから手に取ると手早くさらに細分化していく。

必要なものには簡単な指示を書き出し各部署へと届けさせる。

作業を始め2時間経ったくらいで静かに扉が開きこっそりとミルが入ってきた。私はそちらを見ることもなく声をかける。


「ミル、どこにいっていたんですか?」


私の言葉にビクリと肩を震わせポリポリと頭を掻くミル。見なくてもわかる、私は耳がいいので。それにいつも同じ動作ですしね。


「えっと‥お花を摘みに?」


「随分長いトイレですね。リリーに見てもらいますか?」


もちろん嫌味だ。

その言葉にミルはあははと苦笑いを浮かべると自分の机に着く。

入ってきてから初めてミルの方に目線を向けると言い訳を考えているのかうーんうーんと唸りながらくるくると跳ねた白い髪を揺らしていた。


「もういいですから仕事をしてください。」


ため息と共に吐き出した言葉にミルは反省なんて感じさせない軽い感じですみませーんと謝ると仕事に取り掛かった。


2人で黙々と書類を処理していると不意にノックの音が響く。


「どうぞ。」


促すと入ってきたのは意外なことにリリーだった。


「忙しいところ悪いわね。少しいいかしら?」


「えぇ、構いませんよ。どうかしましたか?」


私は一時手を止めた。ここぞとばかりに一緒に手を止めようとするミルに目線で仕事を続けるように促すとリリーをソファーに促し向かいに座った。


「これなんだけど、反応がおかしいのよ。」


そう言ってリリーが差し出したのは私が随分前に作った診断機だった。


「この前里香にこれを使ったら反応があったんだけど診察した感じ異常は感じられなくて。誤作動ならいいけど私にわからない部分を感知しているとしたらあまり楽観視はできないかなと思って。」


「なるほど。」


私は受け取った魔道具をくるくる回し要点を確認していく。


「特に異常はないですね。ちなみに反応した場所はどこですか?」


「心臓よ。」


この道具はいろんなパターンの人間から魔族まで多種多様なデータと照合し異常がないか判断するタイプの魔道具だ。

里香が異世界の人間だからこの世界の人間と構造が違うために反応したのか、はたまたもっと違う理由で反応したのか。


「…もう少し身体を詳しく調べる方法がないか調べてみます。それまで里香さんの経過観察をこまめにお願いできますか?」


「わかったわ。申し訳ないけどお願い。異常は感じなかったけど変な違和感を感じるのよ。」


感覚的なものだけどねとリリーは苦笑いを浮かべる。

一応詳しく魔道具の方も調べるために預かるとリリーは戻っていった。


「本当アレンさんは色んな仕事こなして凄いですよね〜。もっと手を抜けばいいのに。」


私が席に戻ったタイミングでミルが口を開く。


「貴方がきちんと仕事をしてくれれば手を抜くこともできるんですが‥」


「おーっと、大変!城の城壁が壊れてるから確認してくれって言われてたんだったー。行ってきまーす!」


ガタリと席から立ち上がるとミルは急いで部屋から飛び出していった。


「‥はぁ。」


本当に自由な奴が多すぎる‥。


誰もいなくなったので一度ペンを置いて酷くなった頭痛を和らげるようにこめかみを揉む。


城にいる人達からしたら私は生真面目な屁理屈の効かないお固い役人といったところだろうか。

しかしこうでもしないと本当に言うことは聞かないし自由で収拾が取れない。だから少し厳しい感じは意識しているし私みたいな役所が必要なのもまた事実だろう。


(しかしずっと気を張っているのも疲れる‥)


少なくともクロードやガレオ、後里香さんにもバレているか。あの辺りの前では気を張る必要はないので楽だった。


「私がクロードを恋しく思う日が来るとは思いませんでした‥」


最近のクロードは柔らかくなった。ひとえに里香さんのお陰だろう。それを喜ぶガレオの気持ちは分かるし私も正直嬉しい。

2人のやり取りを見ているだけで不思議と落ち着くのは私もまたいい意味で毒されていると言うことなんだろうか。


(また時間をみて会いに行きますか。)


その為には今目の前の仕事をこなさなくては。

私はペンを再び手に取ると書類仕事を再開した。




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