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『時間を止める大鎚と、消えていく私』クロノ・クロスフィア 〜Invisible pains〜  作者: 猫娘


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第16話「修学旅行編【前編】『古都の華やぎと、揺らぐ日常の足音』〜はんなり京都と爆走なにわ大作戦〜」

※この作品はダークな展開やシリアスな描写、ちょっと過激なスキンシップなどが含まれます

「――ただいまより、鳳凰学園二年生修学旅行列車の出発となりまーす!」


 新幹線の車内にアナウンスが響き渡ると同時に、車内全体から「うおぉぉぉっ!」「修学旅行だぁぁっ!」と歓声が巻き起こった。今回の修学旅行は、日中の移動や見学はクラスごとの行動が基本で、二日目は部屋割り行動だ。


 二年B組の車内では、座席をボックス状に向かい合わせにし、時子と理子がクラスメイトたちとトランプ大会に興じていた。


「よしっ、次はウチの番や!トランプで全員なぎ倒したる!」


 気合十分の理子。しかし、対面でカードを配っていた時子が「ふぇっ!?」と声を上げた。


「あうぅっ!?手がすべっちゃった〜っ!」


ポロッ、バササッ!


 時子のドジっ子スキルが炸裂し、配りかけたカードが通路へ盛大に飛び散っていく。


「ちょっと男子ー! 時子ちゃんのカード拾うの手伝ってあげなさいよー!」


「大丈夫!? 時子ちゃん怪我ない!? (カードで怪我はしないけど!)」


 二Bのクラスメイトたちが一斉に座席から乗り出し、全自動でカード回収に取り掛かる。時子は顔を真っ赤にして「えへへ……ごめんなさい、みんな……」とペコリと頭を下げた。その愛されオーラに車内が和む中、理子が茶髪ボブを揺らしてすかさず割り込んできた。


「はいそこまで!ここでウチの爆爆笑ギャグが一発! 『新幹線だけに、進行(新高)感あるな!』……って、誰が上手いこと言えと! ほら時子、カードまとめたで!」


 セルフツッコミを入れて時子にカードを手渡す理子。男子生徒たちから「理子、ギャグのキレが新幹線の速度に追いついてないぞ!」と全自動ツッコミが飛ぶ。


「なんやとー!ウチの本場・関西に向かってんねんから、ウォーミングアップや!」


 一方、隣の二年A組の車両では、座席を向かい合わせにした女子たちが、色とりどりのお菓子のパッケージを広げてはしゃいでいた。


「ねえ火燐ちゃん、京都に着いたら絶対あのお抹茶パフェ食べに行こうよ!」


「あー、あの老舗のやつね! もちろん行く行く。アタシ、朝から新幹線の中で食べる分お腹空かせてきたし!」


 クラスメイトの女子たちに囲まれた火燐が、太陽のように屈託のない笑顔で笑う。その明るさに釣られて、周囲の席からも次々と楽しげな声が上がった。


「水琴ちゃんはどうする?行きたいお寺とかある?」


「私は……そうですね、定番ですが清水の舞台は見ておきたいです。建築様式としても非常に興味深いですし」


 窓際に座っていた水琴が、眼鏡のブリッジを軽く指で押し上げながら理路整然と答える。だが、ふと彼女の視線が手元のカバンへと落ち、その動きがピタリと止まった。


 視界の隅で、まるでテレビの走査線が乱れたかのように空間が一瞬だけジジッと左右にズレる。


「……あれ?」


「ん? どうしたの水琴」


「いえ……今回の旅行の、日程が書かれた紙……なんと言いましたっけ。ええと……」


 水琴は眉をひそめ、宙を見つめて指を空中で泳がせた。あまりにも当たり前の、誰もが知っているはずの単語。それが、脳内のデータベースからバグのようにすっぽりと抜け落ちてしまっていた。


「日程が書かれた紙? しおりだろ?」


「ああ……そうです、しおり。しおりです。少し、朝が早くて寝ぼけているのかもしれません」


 火燐が笑って突っ込むと、水琴は小さく息を吐いて取り繕った。周囲の女子たちも「水琴ちゃんでもうっかりすることあるんだね」と微笑ましく笑い合っている。


 ほんの些細な度忘れ。誰もが気にも留めないその一瞬の空白を、水琴自身もまた、旅行前の疲労のせいだと自分に言い聞かせていた。


 京都駅に降り立ち、指定された風情ある老舗旅館へと向かった二年生一同。広々とした和室の扉を開けた瞬間、火燐は目を丸くして歓声を上げた。


「うそっ、やったあ!時子と理子も同じ部屋じゃん!」


 そこには、B組であるはずの時子と理子の姿があった。どうやらクラスごとの人数調整の都合で、この四人が偶然にも同じ相部屋に割り当てられたらしい。


「ふふっ、明日も一緒だね、火燐ちゃん!」


「もー、修学旅行の部屋割りまでこのメンツとか、腐れ縁にも程があるやろ」


 理子が呆れたように肩をすくめるが、その口元は嬉しそうに緩んでいる。


「ひゃっほう! これはもう、一生残る思い出にするしかないでしょ!」


 テンションが最高潮に達した火燐は、荷物を放り出すなり『セクハラ獣』と化して畳の上を跳躍した。


「うわっ、ちょっと火燐!」


「へへへーっ、まずは理子の発育チェックからだー!」


 抵抗する理子に背後から抱きつき、有無を言わさず胸元へと両手を伸ばして揉みしだく。


「あんたなあ、着いて早々何してん!離しや、このアホ火燐!」


 顔を真っ赤にした理子が、火燐の頭に鋭いツッコミのチョップを振り下ろそうと右手を高く振り上げた。


――その瞬間。


 理子の右手が空中でビクリと痙攣し、まるで彫像のように硬直した。世界が一瞬、モノクロの写真のように色を失い、静止する。


「……え?」


 振り下ろされるはずの衝撃が来ないことに火燐がきょとんとして顔を上げる。理子のチョップは、火燐の頭頂部からわずか数センチのところで不自然に止まり、ピクピクと震えていた。


「ど、どうしたの理子?急に寸止めなんて」


「あ……いや……ごめん、ちょっと重い荷物持ちすぎたせいか、腕つってしもて……」


 理子は慌てて硬直した右手を左手で押さえ込み、誤魔化すように苦笑いを浮かべる。ほんの数秒のことだったが、その指先はまるで血の気が引いたように白く強張っていた。


(理子ちゃん……?)


 時子は一瞬、理子の右手の指先が空気のノイズに溶けるようにブレたのを見逃さなかった。だが理子が「大丈夫」と笑うので、その不安をぎゅっと胸の奥に押し込めた。


「なーんだ、荷物の持ちすぎかー!びびらせんなよな理子!」


 火燐が豪快に笑い飛ばすと、タイミングよく時子のお腹が「ぐぅぅ〜……」と可愛らしい音を立てて鳴り響いた。


「ふぇっ!?あ、あはは……朝からドタバタしてたら、お腹すいちゃって……」


 顔を赤くする時子に、一同からどっと温かい笑いがこぼれる。


「ちょうどええ時間やし、まずは腹ごしらえと行きますか!京都最初のご飯は、老舗の京料理やで!」

 旅館の広間に用意されていたのは、見た目にも美しい京懐石だった。色鮮やかな京野菜の炊き合わせに、出来立ての生湯葉のお造り、サクサクの天ぷらが豪華に並んでいる。


「ふむ……出汁の引き方、イノシン酸とグルタミン酸の相乗効果が完璧な黄金比率です。栄養学的にもタンパク質が非常に豊富で……」


 水琴が眼鏡のブリッジをクイッと押し上げながら、お椀を手に真面目な顔で早口に解説を始める。すると、時子がパッと目を輝かせて、アツアツの生湯葉を箸でつまんで水琴の口元へ突き出した。


「はい、水琴ちゃん!あーん!」


「ふぇっ!? と、時子さん……! 自立した高校生同士でそのような子供っぽい行為は……っ!」


「ええ〜、ダメ?美味しいから食べてほしいのに……」


 時子が少ししゅんとして首をかしげると、水琴は「うっ……」と言葉を詰まらせ、耳まで真っ赤にして観念したようにパクッと頬張った。


「……ひ、非常に美味です……。満足度が計測不能数値を記録しました……」


「あははっ、水琴ちゃん顔真っ赤ー!素直でかわいい!」


 笑う時子の横で、今度は火燐がニシシと八重歯を覗かせ、水琴の豊満な胸元をじーっと見つめてニヤリと笑った。


「へぇ〜、タンパク質豊富ねぇ。だから水琴のそこは、そんなにすくすく育って爆発的なボリュームになってんのかねぇ?」


「なっ……!?な、何を言っているのですか火燐さんっ!?」


 水琴がバッと自分の胸元を隠すように両腕をクロスさせるが、火燐は意地悪そうに忍び寄る。


「だってさぁ!明日着物着るって時に、帯の上に乗っからんばかりの圧倒的存在感だろ!」


「ほんまやな」とお茶を飲んでいた理子もニヤニヤしながら追撃する。「着物着る時、補正しても絶対隠しきれへんボリューム感あるもんなぁ。帯締めしたら、上にはみ出て大変そうやで?」


「理子さんまで何を言っているのですかーっ!?私はいたって標準的なプロポーションの範囲内です!統計データ的にも……っ!」


「どこが標準やねん!完全に平均値を大幅に上方オーバーシュートしとるわ!」


 理子のコテコテのツッコミに、時子も「うんっ、水琴さんの胸、すっごく柔らかそうで魅力的だよ!」と無自覚に純粋な笑顔で追い打ちをかける。


「時子さんまで追い打ちをかけないでくださいっ!ぁ、もう……!早くご飯を食べて散策に行きますよっ!!」


 顔から火が出るほど真っ赤になり、恥ずかしさのあまりお味噌汁をハフハフと勢いよく啜る水琴。その不憫かわいすぎるリアクションに広間は大爆笑に包まれ、先ほど理子の手に走った嫌な緊張感は綺麗サッパリ吹き飛んでいくのだった。


 二日目。

 着物レンタル店に立ち寄った四人は、それぞれのお気に入りの一着へとお召し替え。


「うわっ……時子、帯締めるのそんな力任せに引っ張ったらあかんって!」


「ふぇぇ……だって理子ちゃん、背中の結び目が解けちゃいそうで……っ!」


 試着室のカーテン越しに、衣飾が擦れる衣紋(えもん)の音と少女たちの賑やかな声が漏れ聞こえる。真っ先に着替えを終えて出てきたのは水琴だった。


 藍色のグラデーションが美しい落ち着いた正統派の着物姿。だが、普段の制服姿以上にそのプロポーションは隠しきれていなかった。和装ブラでの補正を試みたものの、豊満すぎる胸元は帯の上にどっしりと乗っかり、襟元がわずかに押し広げられて白い肌とうなじが艶めかしく覗いている。


「ふぅ……やはり和装というのは帯の締め付けで横隔膜が圧迫され、呼吸の浅さを感じざるを得ませんね……」


 眼鏡のブリッジをクイッと押し上げる水琴。そこへ、暖簾をくぐって出てきた火燐がニシシと八重歯を覗かせた。


 火燐は朱色の矢絣(やがすり)の着物にからし色の袴を合わせ、袖をタスキでキュッと結んだ元気いっぱいの『ハイカラさんスタイル』。タスキ掛けによって胸元がぐっと強調され、健康的な肩口と脇のラインが見え隠れしている。


「おいおい水琴!補正用の晒(さらし)巻いたって聞いてたけど、全然収まり切ってねぇじゃん!帯の上からあふれ出そうになってるぞ!」


「なっ……!?か、火燐さん、声を大にして言わないでください!これでも和装アナリストの指示通り最大限に抑え込んだ結果です……っ!」


「どれどれ〜?ほんとに抑え込めてるのかぁ〜?」


 火燐が意地悪な笑みを浮かべて忍び寄り、帯の上の盛り上がりに指先をツンツンと突き立てる。


「ひゃうっ!?ちょ、火燐さんっ、着崩れますから触らないでください……っ!ぁ、帯が弛んで……っ」


 そこへ、桃色地に華やかな梅柄の着物を着た時子と、緑を基調とした粋で男前な小紋姿の理子が試着室から出てきた。時子は少し着物の丈が余ってしまい、おはしょりのあたりを理子に直してもらいながら「あはは……理子ちゃん、帯締めがくすぐったいよぅ」と頬を染めている。


「時子、動いたら仕付け糸結べへんやろ。……って、そこの二人は着替えで早々何やってんねん!」


 理子の鋭いツッコミが飛ぶ中、四人の華やかな着物姿が出揃ったのだった。


 着物屋をあとにした四人は午後の個別行動として嵐山へ向かった。歴史ある寺社仏閣を巡り、おみくじを引き、食べ歩きを満喫する。四人の笑い声は絶えることなく、スマートフォンには「一生残る思い出」となる写真が何枚も保存されていった。


「はー!焼きたてのみたらし団子、めちゃくちゃ美味いな!」


 竹林の小径で理子が美味しそうにお団子を頬張る横で、時子も口元にうっすらときな粉をつけながら「うんっ!もちもちしててすごく美味しい〜!」と満面の笑顔を咲かせていた。


「時子、子供みたいにタレが口についてるで」と、理子が優しくおしぼりで拭いてやる。


 そんな和やかな食べ歩きの最中、少し人通りの少ない神社の裏手を歩いていたときのことだ。


「ミャー、ミャー……」


 頭上から聞こえる心細い鳴き声に四人が見上げると、高い木の枝で一匹の仔猫が震えていた。降りられなくなってしまったらしい。


「おっしゃっ!」


 火燐は迷うことなく木に飛びつき、身軽な猿のようにスルスルと登っていく。あっという間に仔猫を抱きかかえ、見事な着地を決めてみせた。


「はい、もう大丈夫だぞ」


 仔猫を優しく地面に下ろした火燐に、時子たちが駆け寄る。


「さすが火燐ちゃん、かっこいい!」


「……火燐さん。腕、出血していますよ」


 水琴の鋭い指摘に、火燐は自分の左腕を見下ろした。木登りの際に枝に擦れたのか、以前から抱えている『治らない傷』の表面がわずかに裂け、包帯越しに赤黒い血が滲み出していた。


「あー、ほんとだ。ちょっと擦りむいちゃったかも」


 火燐はあっけらかんと笑うが、水琴は無言で救急ポーチを取り出し、手際よく傷口を消毒して新しいガーゼを当てていく。


「無理は禁物です。修学旅行中なのですから、少しは自重してください」


「ごめんごめん! でも猫ちゃん助けられてよかったし、これも思い出ってことで!」


 傷が塞がらないという事実を明るさで覆い隠す火燐に、水琴は小さくため息をつきながらも、その処置をする手つきはどこまでも優しかった。


「よしっ、怪我も治った(?)ところでストレス発散だ!」と、土産屋の店頭で木刀を見つけた火燐は一目散に木刀を手に取る。


「う、うおぉぉぉっ……!見ろ水琴!『新撰組・誠』って彫られた木刀だぞ!!超カッコいい!!」


「火燐さん……どこに持っていく気ですか。手荷物検査で没収されるのがオチです」


 水琴が呆れ顔でバインダーを叩くと、火燐は「ちくしょー!アタシの武士の心が……! なら、コッチでストレス発散だ!」と叫び、隣にいた水琴の肩をガバッと抱き寄せた。


 熱気そのままに、着物の上から水琴の豊かな胸を両手でモミッと鷲掴みにした!


(わしわし!モミモミ!)


「どうだ水琴!着物でキュッと帯締めされた胸も、手触りが最高だぜぇ!」


「ひゃうんっ……!?あんっ、は、火燐さんっ……!?人が大勢いる境内で、何を揉んでいるんですかぁ……っ♡ ぁ、だめっ、そんな強くわしわしされたら、帯が……帯締めが解けちゃっ……!んぁぁっ……!」


 激しく揉みしだかれた反動で、水琴の着物の帯留めが緩み、整えられていた胸元がバサッと大きくはだけた。


 補正用の薄い布越しに、豊満で柔らかな膨らみと谷間が露わになり、透き通るような白いうなじから鎖骨にかけてのラインが白日のもとに晒される。


「うおっ!?ほんとに帯解けそうになってんじゃん! サービスショットいただき!」


「見ないでくださいーっ!!ぁ、もう……! 火燐さんのバカバカバカっ!!」


 水琴が真っ赤になって慌てて胸元を両手で押し隠すが、着物の袖が捲れ上がってしなやかな白い二の腕まで見えてしまっている。通りかかった他校の男子修学旅行生たちが「ぐはっ……!」「京都の神社でなんというご利益……!」「はだけ着物美少女……最高……!」と鼻血を噴き出してバタバタと倒れていった。


「あーあ、和服の胸元はだけさせるとか、火燐あんたほんま無茶苦茶やな」


 今度は左手がしっかり動いた理子のハリセンチョップが炸裂し、「暴走すな!」と一喝。水琴は時子に手伝ってもらいながら、顔を真っ赤にしてはだけた着物を直すのだった。

最後までお読みいただき、ありがとうございました!

高校生活のメインイベントである修学旅行回なので前編後編でお送りしますです。

みんなには青春を謳歌していただいて一生残る思い出として心に刻まれることを切に願います。

魔法少女たちの運命が今後どうなっていくのか、ぜひ見届けていただけると幸いです!


【読者のみなさまへのお願い】

もし「面白い!」「続きが気になる!」と思っていただけたら、ページ下部の【ブックマーク登録】や【評価(★★★★★)】をいただけますと、執筆の大きな励みになります!

感想やレビューもお気軽に残していただけると嬉しいです!

次回、第17話もどうぞよろしくお願いいたします。

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