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破滅確定の妹を救うため、ガラスの靴を履くのを阻止することにしました  作者: kkkkk


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1.灰まみれのエラ

「……ごめんなさい」


 アナスタシアの視線の先には牢の中で横たわる妹のエラ。ぴくりとも動かない。きっと、アナスタシアの言葉はエラに届いていないだろう。


 十年前、ジュリアーノに見初められたエラを「おめでとう」と笑顔で送り出した。仲睦まじい二人の結婚を国民は祝福した。しかし、幸せな結婚生活は長く続かなかった。


 ルビアン王国の王位を継承したジュリアーノは、最大派閥であるホフマン侯爵派に有利な政策を推し進めた。ジュリアーノはホフマン侯爵の操り人形だった。ジュリアーノの政策は、貴族を優遇し、平民から搾取した。国民は圧政に耐え切れず、各地で反乱を起こした。

 国民との関係を改善しようと王妃のエラは動いた。しかし、ホフマン侯爵の策略にはまり、エラは内乱罪で捕らえられた。エラは王妃の地位を剥奪され、城の牢に幽閉された。

 その後、ジュリアーノはホフマン侯爵の娘ハンナを妃に迎えた。そして、ホフマン侯爵の影響力は国王であるジュリアーノを凌ぎ、ルビアン王国を支配するようになった。


 そもそも、あの奇妙な行動を怪しむべきだった。ジュリアーノは結婚相手を見つけるために、王国中の女性にガラスの靴を履かせた。この奇行は、ホフマン侯爵が仕組んだことだった。


 先代のルビアン国王は身分社会に不満を持つ国民への対応に苦慮していた。

 宰相であったホフマン侯爵は、ジュリアーノの妃を広く国内から選ぶことを、ルビアン国王に進言した。妃を貴族令嬢に限定しないことで、機会は平等に与えられていると国民に周知できる。

 ルビアン国王が具体的な選定方法を尋ねたところ、「ガラスの靴がぴったり合う女性をジュリアーノ王子の妃とするのはいかがでしょう」とホフマン侯爵は答えた。

 ホフマン侯爵の提案によれば、妃は家柄に関係なく王国内から公平に選ばれる。そして、ルビアン王国の派閥の調整も不要だ。ルビアン国王はホフマン侯爵の提案に賛成した。


 もちろん、ホフマン侯爵の狙いは別にあった。娘ハンナの足にぴったり合うガラスの靴を製作し、妃として選ばせることだった。

 従前の選定方法を踏襲すれば、ジュリアーノの妃候補はハンナを入れて五人いた。ハンナの容姿、器量は他の令嬢には劣らないものの、妃として選ばれる確証はない。ホフマン侯爵は娘を王子の妃とするため、奇策を講じたのだった。


 しかし、ホフマン侯爵の計画はもろくも崩れ去った。なぜなら、ジュリアーノの妃を選ぶ舞踏会で、ハンナよりも先にエラがガラスの靴を履いたからだ。

 ホフマン侯爵は「主役は最後にやってくる」と運命的な出会いを演出するため、ハンナに最後にガラスの靴を履くように指示していた。それが裏目に出た。

 何も言えず立ち尽くすホフマン侯爵を横目に、エラがジュリアーノの妃として選ばれた。


 ジュリアーノと結婚したエラは幸せだった。その幸せをアナスタシアは守ろうとした。しかし、ティロル子爵家だけでは役不足だった。エラを守り切れなかった。


 美しかったエラ。牢の中で埃にまみれ、今は見る影もない。


灰まみれのエラ(シンデレラ)。エラをこんな姿にしたホフマン侯爵を許さない」


 ホフマン侯爵への怒りで体が震えた。アナスタシアは力を込めて鉄格子を揺らした。せめて、エラを牢の外に出してあげたかった。アナスタシアがどれだけ揺らしても、鉄格子は開かなかった。


「もう亡くなっていますよ」


 後ろから声がした。この牢には訪問者がいないはずなのに。

 アナスタシアが振り返ると、灰色のローブを纏った老婆が立っていた。


「あなた、誰?」


 老婆はアナスタシアの乱れた髪を眺めて、笑みを浮かべた。


「私はクリスティーナ。そのお嬢さんを舞踏会にお連れした魔女、と補足したほうがいいかしら」


 クリスティーナのことはエラから聞いたことがあった。

 エラが舞踏会に向かう途中、土砂崩れに遭った。馬車は壊れ、ドレスは泥にまみれた。そこに現れたクリスティーナが、エラに馬車とドレスを与えた。舞踏会に着いたエラはガラスの靴を履いて、ジュリアーノと結ばれた。

 エラからは、クリスティーナが魔女だとは聞いていなかったのだが。


「なぜここにいるの?」


 矢継ぎ早に質問するアナスタシアに、クリスティーナは長いため息をついた。


「そのお嬢さんに、お別れを言いにきたのです」


 なんて無責任な……アナスタシアの眉が吊り上がった。


「帰って! エラをこんな目に遭わせたのは、あなたでしょ!」

「私が?」


 クリスティーナは首をすくめた。


「あなたが馬車とドレスを用意しなければ、エラは舞踏会に行かなかった。ジュリアーノ王子と結婚しなかった。こんな惨めな死に方をしなかった。そうでしょ?」

「それは言いがかりです。私は善意で馬車とドレスを用意しただけです。こんな結果になるとは想像できませんでした」

「いいえ、エラを殺したのはあなたよ!」


 クリスティーナは唇をかんだ。


「誰かを責めたい気持ちは分かります。でも、私を責めても、お嬢さんは生き返りません。魔女にもできないことはあるのです」


 アナスタシアはぼんやりと牢の中のエラを見た。

 クリスティーナはエラを生き返らせることはできない。でも、魔女にはできることがあるはずだ。


「ねえ、エラを生き返らせる以外に何ができるの?」


 クリスティーナは目を丸くした。アナスタシアの質問の意図を図りかねていた。


「エラを生き返らせられないけれど、他の何かはできるのでしょう?」

「まあ、そうですね」

「例えば?」


 アナスタシアの意図を理解したクリスティーナは苦笑いした。


「時間を二人が出会う前に戻すことなら」


 エラが舞踏会に行かなければジュリアーノ王子と出会うことはない。エラがガラスの靴を履かなければ妃になることはない。

 アナスタシアに迷いはなかった。


「じゃあ、戻して!」


ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

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