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人殺しの助手  作者: レア
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「基本戦闘行為は禁止されているが緊急時に於いては殺さない程度の武力行使は容認されている。このまま引き下がるのであれば見逃してやるがどうしても試したいというなら相手をしてやる。選べ」


挑発するような物言い、しかしこれが助手のいつもの調子。

今しがた見せられた人間離れした身のこなしに顔を青くしていた男達も馬鹿にするような言葉に尊厳を傷つけられ再び顔は赤みを取り戻す。

とんでもない動きを見せられても相手は女、よく見てみると華奢な身体で男から見れば勝てそうな相手でおまけに数的優位もある、敗北する可能性はほぼゼロに近い。

絶対に勝てる戦いにしか挑まない男達は足りない頭で考え絶対に相手にしてはいけない少女に挑んだ。

結果はというと散々なもの。もはや勝負にすらなっていない。

赤子の手をひねるように一人また一人と地面に沈んでいく。そして最後、残されたリーダー格の男があろう事か刃物を持ち出したりもしたが助手は全く動じず手を捻り上げ刃物を奪いしなやかに動く足が顎を直撃、そのまま意識を失った。

大立ち回りを見せた助手は何事も無かったかのようにアリアの方に向かって来て感情の読めない無表情のままこちらを見つめる。

お礼を求めてるのかな、なんて思って「ありがとう」と感謝を告げたアリアを待っていたのは鋭い視線。


「何故こんな場所にいる?」


いつもの平坦な口調、なのに今回はどこか違って聞こえる。


「‥‥助手を探して」


「何故探す?」


「心配だったから」


「心配? 私はアリアよりも強い、心配してもらう必要はないし仮に何かあったとして私で対処出来ない事態に私よりも弱いアリアが来たところでどうする事も出来ない、つまりアリアの行動は無意味だ」


滔々と流れて行く正論になす術もなく打たれ続けるしか出来ない。

助手の事だからどうせその中に嫌味といった不純物は混じっておらずただありのままの事実を述べているに違いない。

言われていることに間違いは無い、現実としてアリアの行いは余計な危機を招いただけ。考えなしの自分を助けようとしてくれた無関係の人まで巻き込んだ。


「あんた言い過ぎだろ」


アリアを助けた勇敢な女性があれほどの立ち回りを見せた助手にも臆する事なくその眼前に立つ。


「その子はあんたを心配して探しに出た、結果として危ない目にあったかもしれないけどさそんな言い方はないだろ。それにそもそも心配させる様な事をしたあんたにだって非があるんじゃないの?」


「それは危ない目にあったで済んでるから言える事だ、下手をすれば命を落としていた可能性だってある。心配という行為を否定する気は無い、ただ、私には不要だ」


「不要かどうかを決めるのは助手じゃないと思う」


今回やらかしてしまったのだから最後まで黙っていようかと思ったがついつい口を出してしまっていた。


「助手はとっても強いからどんな危険も自分でなんとかできるのも知ってる、でもそれでも心配する事をやめられないの。どうしてか分かる?」


助手は首を傾げる。


「それはね、助手が私の友達だからよ!」


正直、今現在の助手とアリアの関係が友達と呼べるものなのかは不明。

出会い方だって一般的な友人関係構築の礎になる様なものでは無く不法侵入から始まっている。地盤はグラグラな上にその後には殺されかけてもいて出来上がっているのは違法建築ばりの不確かな何か。

しかし始まりが問題だらけだったとしてもやっていけないことはない、少しずつ補強していけば良いだけ。

少し早とちりかもしれない、一方的かもしれないがアリアはこの関係を友達と呼びたいから勇気を振り絞って堂々宣言してみたのだが当の助手は真顔で聞いて来た。


「友達?」


聞いたこともない言葉を聞いたかのような返し。

助手の特殊な事情を少しだけ知っているアリアにとっては許容範囲のその反応も一般の人にとっては違う、助手の反応に恩人は目を丸くしている。友達とは当然のように通うこととなる学校、学院で作る事を強要される。社会性を身に付ける為の必須行動、幼い頃より試され上手くこなせないと弾かれる苦痛を味わう。

昔のアリアは一応周囲に溶け込んでいたが今は言葉の意味を知っているだけだ。

友達とは作らなければ大変だと子供の頃より刷り込まれている誰でも知っているべき言葉。

それを知らないなんてのはあり得ない。


「友達くらい知ってるだろ?」


「漠然と知ってはいる。しかしどういう状況、条件で成り立つのかが分からない。私とアリアは出会ってから時間もそう経っていない、関係として適切なものがあるとすれば顔見知り、または同僚と言った方が正しいと思っていたが」


友達の条件なんてアリアも知らない、強いて言うなら心がそう訴えていたから、なんて言ったら真面目な助手の眉間に深い皺が刻まれるだろう。


「まあそんな気はしてたけど‥‥」


この助手という人物が「私達は友達だ」なんて言って握手を求めてきてもそれはそれでおかしく感じる。

こういう世間知らずみたいなとこがあってこそ助手なんだしそこをアリアは好きになったのだ。焦る必要は無い、いつか助手が友達と思ってくれる日を気長に待てば良い。


「あんた‥‥」


問いかけるような切り出し。

恩人が訝しげな表情で助手を見つめている。

そんな顔をするのも仕方ない。あれほどの立ち回りを見せた挙句友達なんてありふれた言葉に変な反応を示したのだ、一体どんな人生を歩んだのか気になっても当然だろう。

しかし恩人は少々おかしな事を口にする。


「普通の人間か?」


普通に聞けば少々失礼な質問ではあるがそこは助手、全く気にしていない様子で答える。


「いや、普通とは言えないだろう。しかし、過去については語れない、禁止されている」


バカ真面目な顔してバカ正直に答える。

適当にお茶を濁すという事をしないどころか意味深な言葉を付け加えて余計興味を引いていく。

こんな窮地を救うのが友達である自分の役割。


「この子ちょっとそういう時期なの」


自分を特別視したり過去に何かを抱えているような(実際抱えているのだろうけど)そんな振る舞いをしてしまう病にかかる時期。年齢的にもおかしくないだろう。

とはいえこれでは特別な身体能力の説明にはならないので付け加える。


「ついでに昔少し武術を齧った事があるの」


少々無理があるかもしれないが押し通そうとしたのに真面目な助手が私のフォローを無駄にしようとする。


「そんな過去は無い、私が得たのは人をこ━━━━」


おそらく殺すと口にしようとする口を慌てて塞ぐ。

過去について語るのは禁止では無かったのか!?


「人を転ばせる技術よね! どんな悪漢だってあっという間に地面にひれ伏す、凄い護身術よね、ね!!」


助手の口を塞いだ手からもごもごしているのを感じる。

どうやらアリアの配慮も虚しく今頃必死で訂正しているのだろう、もはやこの手を離すわけにはいかないと決意したのだがそんな決意が助手の力に及ぶはずもなくあっさり手を外された。

しかし多少の時差が生じたせいかもごもご訂正して満足したのか助手の興味は他に移っていた。


「お前こそ普通の人間か?」


「‥‥‥普通だけど、何?」


「そうか‥‥まあ私には関係ない事か」


すっかり興味を無くしたのか助手はアリアに向き直る。


「そいつを依頼人に届ける。アリアも一緒に来い」


アリアの腕の中でうとうとする猫を指差した。時間も時間だが一刻も早く発見報告をした方が依頼人も安心して眠れるだろう。


「それじゃああなたも一緒に、もう夜遅いし家まで送っていくから」


助手という最強の護衛を味方につけたアリアに怖いものは無い、どんなところだって行けちゃう。


「いやいいよ、一人で帰れるから」


「でも命を救って貰ってこのままっていうのも‥‥」


「‥‥‥‥じゃあさ今度あんたの家でお茶でもご馳走してよ、それでチャラ‥‥‥どう?」


「それくらいで良いならいつでも!」


アリアは住所を書いた紙を恩人さんに手渡すと同時に忘れていた自己紹介も一緒にする。


「私アリアって言うの、いつでも来てくれていいから。もし家に居なかったら近くの便利屋に寄って貰えれば大抵そこにいるはずだから」


「分かった」


「じゃあ気を付けて帰ってね」


「大丈夫だよ、あんたみたいなお嬢様が一緒じゃなきゃどうとでもなる」


確かにさっきは走る速さも合わせてくれていたみたいだし足手まといがいなければ問題無いのかもしれない。

けれどやっぱり一人でなんて行かせられない、せめて家の近くまでと言いかけたところで恩人は「じゃあ」と走り出し行ってしまった。

残されたアリアと助手は猫を届けるべく歩き出す。


「ごめんね」


道すがら謝罪を口にする。

結局アリアの行動は余計な仕事を増やしただけ、帰れと言われたんだから大人しく家でじっとしてれば良かった。


「反省するのはいい事だ。次似た状況に陥った時どうすればいいかしっかり頭で想定出来ていれば混乱からの迂闊な行動を避けられる。失敗してそれでも生きていられたのならしっかり反省する事だ」


「そうね、下手したら死んでたかもだし。だから私もう助手の邪魔はしない」


猫探しだって自分と一緒じゃなきゃ助手はもっと素早く手広く調べられていた、そうすればこんなに遅くまで掛からなかったかもしれない。限界までアリアの我儘に付き合ってくれた助手の「帰れ」に怒ってしまった自分がみっともない。


「邪魔? アリアがいつ私の邪魔をした」


「えっ? だってあの時帰れって‥‥邪魔だからそう言ったんでしょ。ついさっきだって迷惑かけちゃったし」


「私が帰れと言ったのはアリアの身の安全に配慮した結果だ。日が暮れれば面倒な連中も顔を出し始める、そういうのは大抵夜行性だからな。こういった危険から遠ざける為に帰らしたのだが私の想定が甘かった。アリアが突拍子も無い行動を起こすのは知っていたのだから対策を講じるべきだった」


確かに助手の前では色々やらかしてしまっているのは事実だが助手に問題児みたいに言われるのはなんか複雑だがそれは置いておいて。


「じゃあ邪魔ってわけじゃなかった?」


「人からの情報収集に関してはアリアの方が優れていた、アリアが集めた情報のおかげである程度の予測も立てられたからな」


散々空回ってばかりいたけど自分という存在でも何かの役に立てた。すっかり見失っていた自分の価値に、暗がりに包まれている自分のこれからに僅かに光が灯った気がする。

するとついさっきの恐怖もすっかり忘れて何だか心が弾んできた。


「私、役に立った?」


「役に立った」


「私がいて良かった?」


「助かった」


「私が必要?」


「しつこい」


調子に乗ったら最後は冷たくあしらわれた。

それだけ浮かれていた。ちょっと褒められた程度のことだけど今のアリアにとっては久々に外の世界とのつながりを実感したから。

怖い目にもあったが一歩踏み出せたような心地に浸り少しだけ軽くなった足で友達と一緒に初仕事を終えに向かった。



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