第二十四話:奥まで、読んでほしい
「俺は……お前の物語を、ちゃんと最後まで読んでみたいんだよ」
執筆の手を止め、誠司は自分の中から出た言葉に驚いていた。
三ツ谷の影が、連載のヒロインにどんどん重なっていく。
それは単なる“モチーフ”じゃない。
三ツ谷自身の“未完の物語”が、誠司の原稿の奥から染み出していた。
翌日。
三ツ谷から編集メモが届いた。
【今回のヒロイン描写、すごく好きです】
【特に“誰にも読まれなかったページに栞を挟んでくれる人”って一文】
【……先生って、優しい人なんですね】
その文を見た瞬間、
誠司の指先が止まった。
「これ……読まれてるのは、俺の方なのか……?」
夜。
誠司はふと、ある疑問に取り憑かれる。
「三ツ谷さんって……作家だったこと、あるのかな?」
気になって、昔の作家検索サイトを漁る。
“ミツヤ”名義の一次投稿作品。
商業化されなかった連載企画の痕跡。
評価ゼロのレビュー欄。
そして――
【作品タイトル:『空っぽの心に花を挿して』】
読者数:3人。
最終話:未完。
誠司は、そのページを開いたまま、しばらく言葉を失っていた。
「これは……彼女の“奥にしまってた物語”なんじゃないか……?」
「俺が今、書いてる物語が……
もし、彼女の続きを書いてるんだとしたら――」
誠司は、そっと手を合わせるようにPCを開いた。
キーボードに指を乗せる。
いつもよりも、優しく、深く。
「ちゃんと、奥まで読ませてもらうからな。
それが……“愛する”ってことだろ?」
つづく




