第二十三話:ちょっとだけ、先っちょから
「これって……完全に、三ツ谷さんのこと書いてないか?」
誠司は書きかけの文章を見つめていた。
彼が今、連載中の物語に追加しようとしているのは、
**“編集者の女性と作家の男が、物語を通して惹かれ合っていく”**というエピソードだった。
『彼女はいつも冷静だった。
でも原稿を受け取るときだけ、ほんの少しだけ、指が震えていた。』
「……これ、完全に“三ツ谷成分”抽出してるじゃねえか……!」
だが、不思議なことに――
それが、嘘じゃないように思えて仕方なかった。
三ツ谷のことを深く知っているわけではない。
ただ、あのとき。
カフェで彼女が言った言葉。
「“誰にも読まれなかった物語”って、悲しいですよね」
そのひと言が、妙に残っていた。
三ツ谷から連絡が来る。
【次の回、そろそろ“入れて”きましたね】
【でも、ちょっと“先っちょ”だけ感あります】
【私は……“全部、読ませてもらえる日”を待ってます】
誠司は机に突っ伏した。
「……お前は、どこまで踏み込んでくるんだよ……」
その夜、誠司は夢を見る。
三ツ谷が、机の前で原稿を読んでいる。
指が震え、唇が少しだけ動く。
「これは……私の話ですか?」
つづく




