第二十一話:抜いたあと、寄り添ってほしい
「今回は、あえて“抜いた”」
誠司は、3話目の原稿ファイルを閉じながら呟いた。
連載では珍しく、起承転結の「承」だけで終わる構成にした。
事件も恋も伏線も、“入れない”。ただ、“流れに寄り添うだけ”。
「俺は“寄り添う作品”も書けるんだぞ……って、見せたかったんだよな……」
が、案の定、読者感想が荒れていた。
【なんか今日はヌルかったです】
【いやむしろ、この“抜けた感”がエモい】
【モッコリ感はどこいった】
【おい、今日だけ“名前入れたっぽい”雰囲気なに!?】
「ちょっと待って!?読者の読み方の癖が強い!!」
誠司は軽くパニックになりながら、
ファン感想フォームを見ていた。
その中に、気になる一文があった。
【過去作の『もっこり大戦争』と、
今の作品の“距離感”が好きです。
“あのとき笑って、今は泣ける”って、
作家として一番信頼できる流れだと思いました】
「……信頼、か」
あの“パンツ星の亡霊”がうるさく喚いていた頃。
毎日、自分が何を書いてるのか分からなくなる夜。
“二発目”を出すまでの苦しみ。
それが今、
“抜いたあとに寄り添える存在”として、
少しだけ受け入れられている。
三ツ谷から、夜に短いLINEが来た。
【抜いたあとの余韻、よかったです】
【……次は、ちゃんと“挿れ”にいきましょう】
「どっちだよこの人はァァァァァ!!」
つづく