第二十話:ずっと“入れっぱなし”だと疲れます
「っっつぁああああああああ!!」
朝8時。
誠司、自宅の床に倒れていた。
連載2話目を書き終えたのは、夜中の4時。
昨日のファミレス打ち合わせで
「もっとじわっと入れて」と言われたせいで、
構成に6回、書き直しに8回、自己否定に37回かかった。
「まさか“入れるタイミング”がここまで難しいとは……」
疲労が脳にきている。
カフェインが効かない。
昼過ぎ、三ツ谷からメッセージが届いた。
【先生、1話より2話の方がキツそうな感じ、伝わってきました】
【“ずっと入れっぱなしで筆が抜けない”感じ、嫌いじゃないです】
「感想が全部いやらしく聞こえるんですけど!!!」
カタスミ書房のカウンターで、誠司はうなだれていた。
そこへ、コーヒー片手に三ツ谷がやってくる。
「来ちゃいました」
「……僕の脳、今たぶん自動変換で“来ちゃった”に変わってますよ」
「連載って、**“愛され続ける地味な苦行”**ですからね」
三ツ谷はPCの画面を覗き込みながら言う。
「先生、ずっと入れてたら……読者も疲れますよ。
一回抜いて、**余韻で焦らすくらいがちょうどいいんです」
「編集って……こんなに卑猥でしたっけ?」
「“愛される”って、ずっと挿れてることじゃなくて、
出し入れしながら、相手のリズムをちゃんと見ることなんです」
その瞬間、
誠司はほんの少しだけ――ドキッとした。
そして三ツ谷が、少しだけ声のトーンを落とす。
「……先生。
次、3話目は“引く回”にしましょう。
入れるばかりじゃ、愛され続けるのは無理ですよ。」
誠司は、自分の心拍数が速くなるのを感じながら頷いた。
「わかった。次は、“抜きどころ”を……ちゃんと見つける」
つづく