決戦!絶望へと誘う黒の支配者⑥
「……というわけなのよ」
私レイラ・ユリウスはセリエがここに来た経緯を聞いていた。
……。
ん?ちょっと待って?
「いやいや……」
「え?何よ?」
不思議そうにセリエは首をかしげる。
「いやいや!な、何してくれてんですかぁ!!」
「え?」
「え?じゃないよ!ぬ、抜け出したぁ!?さすがにその状況じゃセリエが不利すぎるよぉ!?」
「い、いやー……だって、いくら何でも黒鳥が出現したって聞いて、まずいと思って向かわざるを得ないと思って……」
普段から自信満々のセリエも少し気まずそうにしている。
「それはありがとう!!!めちゃくちゃ感謝しております!確かに黒鳥が現れたせいで万年筆の当初の案が使えなくなったけど……いや、待てよ。当初の案が使えないという時点で詰んだようなものだけど……ものだけど!な、なんだろう!言葉でうまく表現できないけど、すごく突っ込みたい気分です!」
「なんなのよそれ」
「んああああああ!いや、大丈夫!来てくれてありがとう!」
セリエの問題はどうにかしないといけない。
けど、今は目の前の問題をどうにか片付けないといけない。
「協力して!セリエ!こいつを私だけで倒し切るのは難しいかもしれない!けど、ここで止めれば援軍が来る時間を稼げるかもしれない」
そう私は宣言する。
イリスがどうなったかは分からない。
心配だけど、今はきっと大丈夫だろうと信じるしかない。
「……。」
セリエには、レイラに隠していることが二つあった。
一つ目は、女王ユグドシアが軍を向かわせるのを止めており、援軍が来るのは絶望的であること。
二つ目は、魔法研究省移転の契約書にサインしてしまったこと。
言えなかった理由は、レイラを心配させるかもしれないと思ったこと。
そして、あっさりサインしてしまっただなんて情けなくて、言うのが恥ずかしかったからだ
(大丈夫。きっと大丈夫。この戦いが終わった後に、契約通り、魔法研究省に移動すればいいだけ……大丈夫、きっと大丈夫……だから……!)
セリエは敵を見つめて、宣言する。
「……分かった!けど、ここで止めるんじゃない!ここで勝って見せる!」
「まぁ、無理すんなよ~」
そう私は別に言わなくてもいい一言を挟んでおく。
それを聞いたセリエは、完全に停止し、歯切れの悪そうな表情を浮かべる。
「……いや!あんたも戦うのよこのバカァ!!」
セリエはそう叫び、魔法の発動に取り掛かった。
セリエは左手で振り払うような動作をする。
すると、セリエの周囲には水の集まりのようなものが浮き出てくる。
もう片方の右手を、黒鳥に向かって突き立てた。
その右手は小指と薬指が折り曲げられ、中指、人差し指は正面を、親指は上へと向けられていた。
「レスポイズン!!」
そう唱えた直後、周囲の水の集まりのようなものから、水でできた魚が3匹生成される。
水の魚はくねくねと、水で軌道を描きながら、黒鳥に向かって突撃していく。
地面に着地し、こちらを睨んでいる黒鳥は、水の魚たちが迫るのを許さなかった。
黒鳥は、くちばしを開く、するとそこから風の刃が出現。
小さな水の魚たちを、全て撃ち落とす。
「へぇ、なかなかやるじゃない。じゃあ、これはどうなの!?」
セリエは手のひらと全指を下へと向けて、手を上へと動かした。
「メデューズ」
今度は、大きな傘の様なものを持ち、その下には多くの触手が生えた生物。
水のクラゲが形作られる。
水のクラゲは触手を操り、黒鳥へと襲い掛かる。
しかし。
キィィィィィィィィィン!!
と金属が擦れるような音が鳴り響く。
いや、それはまるで高圧電流が空気を引き裂くような高音でもあった。
「っ?!」
セリエは目を丸くする。
それもそうだろう。
黒鳥が嘴を開いたその刹那、雷光が水のクラゲを貫いたからだ。
突如として流された電流に耐え切れず、水のクラゲはただの水滴に戻り、霧散した。
その水滴は、雨のように地面へと降り注いだ。
「ただではやられないってわけね……」
セリエは苦虫を嚙み潰したような表情となるが、不敵に微笑む。
「こちらに攻撃すらさせてくれないなんてなかなかやるじゃない!レイラ!」
「は、はい!」
突然の声掛けに動揺し、私は素っ頓狂な声をあげてしまう。
「足引っ張んじゃないわよ!」
セリエからの呼びかけに思わず笑みが零れる。
「そっちこそ!」
私は片手に持っていた剣を携え、黒鳥に向かって走る。
それと同時に……
「クラブ」
セリエは右手と左手を重ね合わせる。横からは親指を覗いた両4本指、上からは両親指が見えるようになっていた。
そしてセリエの詠唱と同じくして、水でできたカニが生成される。
私はニッと笑う。
セリエがやって欲しいことが理解できたからだ。
私はカードを取り出し、唱える。
「地を這う的を射よ!炎矢 (フレイムシューター)!」
すると炎を纏った矢が放たれる。
矢が命中した先は黒鳥……ではなく、セリエにより生成された水のカニだった。
ドバッシャァァァァン!
水のカニは炎の矢が当たると、その輪郭を崩す。
そして、焙られた水は蒸発して、水蒸気へと形を変えた。
その水蒸気は黒鳥の視界を遮った。
『!!』
驚く黒鳥。
そして、それに合わせるように、セリエが次の魔法を発動した。
セリエは両方の手のひらを合わせ、親指と残りの4本指を開くようにする。
それはまるで何かに嚙みつこうとする口のようだった。
「ミューヘン!」
セリエがそうつぶやくと、水滴が集まる。
形作られたのは、黄色と黒に彩られた毒々しい体表を持ち、体は長く、開いた口からは鋭い牙が見える。
ウツボだ。
ウツボは三匹ほど集まり、鋭い牙のある口を開き、水蒸気の中へと入っていく。
そして、水蒸気により、視界を奪われた黒鳥の顔の右側に嚙みついた。
「わぉ!すっごく痛そう……だ!ね!」
そう言うと、私はウツボが嚙みついていない、顔の左側へと剣を突き刺した。
黒鳥は頭はぶんぶんと振り回した。
そして、双頭両方のくちばしから炎を噴出した。
「ぬおっと!」
私は跳ぶように後ろへ下がり、炎から逃げる。
セリエのいるところまで下がった私は笑う。
「意外とこの作戦良いかもよ」
「……私だけの海洋魔法じゃ限界があるけど、魔法の組み合わせ次第で新たなる効果を生み出すことができる。」
「合わせ技ってことね!面白い!」
ん?合わせ技ってことはこんなこともできるんじゃないだろうか?
「セリエ!」
「何よ?」
私はセリエに対して考えたある案を伝える。
それを聞いたセリエは笑いだす。
「なるほどね……その提案、乗ってあげる!」
セリエは両方の手のひらを合わせ、親指を交互に交わらせる形を作る。
まるで水底を不気味に泳ぐ背ビレを、その両手で形作るかのように。
「ルカン!」
すると、水滴が地中へと集まり始める。
地面から姿を見せるは、トレンドマークと言っても差し支えない背ヒレ、そして左右には胸ヒレ、尾には上下三角形のヒレがついており、紡錘型の体で、その下は白く、そしてノコギリのようなギザギザの歯を無数に持った生き物。
サメだ。
「来たか!」
私はそう叫ぶと同時に、水でできたサメに向かって走り出す。
このサメは、セリエと初めて対峙した時に、私に繰り出したものだ。
あの時は、槍で受け止めるのが精いっぱいだったっけ。
けど今度は……。
「錬成変形!」
手に持っていた剣にカードを当て、呪文を唱える。
すると、剣は光り輝き、みるみると細長いものへと変化していく。
先端は3つに分かれており、そこは鉄で出来ていた。
とある神話で、神が持っていたされる武器。
「トライデント!!」
私は走り出し、地面にそれを突き立て、棒高跳びのように高く飛び上がる。
そして、私は水でできたサメに飛び乗った。
サメが地面を泳ぎ、黒鳥に近づいていく。
サメに乗った私も黒鳥に近づき、手にしたトライデントを構える。
すると、黒鳥は双頭の嘴を開く。
ヒュオオオと空気が吸い込まれる音が聞こえる。
すると……
「!?」
何かが発射されるような音が聞こえる。
それは空気を圧縮し、弾のように放った音だった。
そう理解した瞬間、その弾が私の額に直撃した。
額に痛みが走り、落ちそうになる。
「……っ!!威力がお粗末!」
黒鳥も体力の限界からか、魔法の威力が明らかに落ちている。
額の切れた部分から血が流れる。
だけど所詮、この程度。かすり傷になる程度で、威力は大したことない!
「ぐああああ!」
私は叫び声をあげ、サメの背中を跳び上がる。
そして落下の勢いをそのままに、トライデントを黒鳥の頭に突き刺した。
けど、それで終わりじゃない。
パチンッと指を鳴らす。
するとトライデントが膨張し、爆砕。
黒鳥の双頭の左頭の額を弾き飛ばした。
『キエエエエエエエエ!!!』
と黒鳥は再び声にならない叫びをあげた。
私がそうすると同時に、セリエは手印を結んでいた。
両手の甲を上にして、手首の近くでピタッと合わせていた。
人差し指、中指、薬指の3本をすぼめて、前方に突き出しており、小指だけを左右に大きく開いていた。
両方の親指は下に向けて重ね合わせていた。
セリエが詠唱を唱える。
「レェ……」
水滴が集まり、それは地面から泳ぐように飛び出した。
それは、全体的に平べったい体をしており、細長くムチのような尾を持っていた。
そう、エイだ。
エイは黒鳥の周囲を泳いでいた。
そして、私が黒鳥の左頭の額を吹き飛ばし、怯んだ隙にその尾を突き刺した。
エイの尾は鋸歯状の形をしていた。
その尾にはある特徴がある。
その尾には毒があり、毒針としての役目もあるのだ。
『……っ!!』
黒鳥はまるで電気に感電したかのように、動かなくなった。
エイの毒による、傷口が焼け焦げるような激痛に、動くことすら困難となったのだ。
「セリエが敵じゃなくて良かったって、今、心から思ってるよ!」
「そいつはどうも!けど、これで終わりじゃない……レイラ下ってて!」
セリエの呼びかけに、私はすぐさま黒鳥から距離を取った。
セリエは叫ぶ。
「レイラ!よく見てなさい!魔法には、普段の魔法とは違う、大技があるの!それがこれ!」
セリエは騎士団の制服のポケットから杖を取り出す。
杖を黒鳥に向けると同時に、地面から水がぶくぶくと湧き出てくる。
「……!これは!」
私は驚く。
水が湧きだす範囲があからさまに広い。
まるで池ができたかのような範囲の広さだ。
一方、セリエは杖を構え、思いを巡らせていた。
(私はきっとレイラのようになることなんてできない)
(本当は、私じゃレイラの傍にいられないって分かってる)
(この戦いが終わった後は、魔法研究省に行かなくちゃいけない……)
(もしかしたら、レイラと会うことすら難しくなるかもしれない)
(けど!だからって!今この戦いで出し切らないでどうするってのよ!)
「……諦められっかああああああああ!!」
地面を叩き割り、それは跳び出してきた。
それは今までのものとは比較にならないほど巨体だった。
それは流線型の体を持ち、首のくびれがない、まるで全体がひとつの弾丸のような体を持っていた。
そして体の後ろには巨大な尾びれを持っていた。
史上最大の生物であり、その雄大さゆえに、地上のあらゆる者から憧れ、羨まれた神聖な存在。
まるで、暗い水底から光に満ちた天へと焦がれるように。
「バレーヌ・ブリーチング!!」
地面から優雅に飛び跳ねて、姿を現したのはクジラだった。
セリエは杖を下から上へと一気に跳ね上げるように動かす。
それに連動するように、魔法のクジラも跳ね上がっていた。
そしてクジラは、地面から動けない黒鳥へと、その強大な質量を持ったまま落下していった。
ドギャアアアアアアアン!!
クジラが落下した箇所の地面は叩き割られ、水しぶきが上がっていた。
「……すごい」
思わず、私は感嘆の声が漏れる。
いたはずの黒鳥は崖に叩き落されたのか、姿を消していた。
倒せたかまでは分からない。
けど、確実に痛手を負わせた。
やった!
つ、いに……やっ、た……んだ……
(……あ、あれ……ここは……)
その頃、ある少女は暗闇の中で目を覚ましていた。
その少女は、短い白髪のショートヘアで、サファイアのような青い瞳を持っていた。
少女の名は、イリス・ユア・ツゥヴァリネ。
フランシィ王国 唯一にして、世界に5人しかいない魔女の一人だった。
やっと書き終わった……。
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