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セリエの覚悟

 セリエは窓に全体重を預けていた。

 そして窓が開くと同時に、私の体は空中へと投げ出されていた。

 外の空気を肌で感じる。

 それは、先ほどまでの堅苦しい場所での空気感と違い、気持ちよかった。


「ぐっ!」


 私の背中に衝撃が走る。

 背中から落ちた先にあったのは、地面ではなく、木だった。

 この窓の先には、植えられている樹木があった。

 怪我はするだろうが、骨折や死ぬような怪我をすることはないだろうと私は判断した。


 バキバキッ!と枝が折れる音がする。

 葉っぱがクッションになって優しく私を受け止めてくれる。

 だが、枝などは容赦なく私の肌に突き刺さってくる。


「あ!ああああ!!」


 痛みで思わず、声をあげてしまう。

 あまりの痛みに先程、麻痺毒で朦朧としていた意識が強制的に目覚めていく。

 枝を折りながら落ちていく私の体。

 途中で引っかかることなく、下へ下へと落ちていく。

 そして……。


「うっ!」


 背中に衝撃が走る。

 枝たちを抜け、ついに地面に落下したのだ。

 木によって、衝撃を殺していたので、背中を打つ程度で終わることができた。


「はぁ!はぁ!」


 必死で呼吸を整える。

 怪我は?……擦り傷はある。だけどそれ以外は大丈夫!

 歩ける!

 私は身体を引きずるようによろけながら、ある場所へ向かう。


 ……書いてしまったサインはもうどうしようもない。

 けど、早く!早くレイラのとこに向かわないと!


 キイィィ……。

 ドアの開く音が鳴り響く。

 目的の場所にたどり着いた。

 場所は騎士団長の執務室。

 今は謹慎を受けている騎士団長のエーデルワイスに変わり、ある人が騎士団長の代理に就任している。

 その人物は……


「は、はぁい……。って!わわっ!セリエさん!?ど、どうしちゃったんですか?!その怪我!」


 慌てるその姿、弱弱しい声音。

 ぼさぼさの紫色の長い髪をして、眼鏡をかけているその少女。

 猫背で姿勢もあまり良くない。

 しかし、そのなんとも頼りがたい姿とは裏腹に、彼女はきっちりと騎士団の制服を着ている。

 彼女こそが、騎士団長代理。シズ=フェルタ。


「と、とにかく治療薬と解毒剤を頂戴……」


 私はそう申し出ると、シズは大慌てで


「は、はぁい!!」


 と言い、大慌てで薬品棚へと向かう。

 私は壁に背中を預け、シズから貰った解毒剤と治療薬を飲む。

 すると、朦朧としていた意識が鮮明になり、体のだるさもなくなっていく。

 傷の出血は止まり、痛みはなくなる。


「そ、それでどうしちゃったんですか?」


 シズからの問いに私はことの経緯を説明する。

 シズは私の話を聞いて、驚きの表情を浮かべて、愕然としていた。


「そ、そんな!あの忌々しいリーシア一派に嵌められたなんて!じゃあセリエさんは魔法研究省に移転しちゃうってことですか?!びゃああああ!そんなの嫌です!セリエさぁーん!」


 シズは泣き喚いて、私の体にしがみつく。


「ちょ!ちょっとぉ!?シズ!?」


 まさか、シズにここまで泣かれるとは思っていなかった……。

 そこまで泣かれるとこっちまで動揺するのでやめて欲しい……。

 いや、魔法研究省に移動する羽目になったのはシズじゃなくて私!泣きたいのはこっちの方じゃい!!


「てか、離しなさいよ!」


「嫌です!話しません!魔法研究省の移転を阻止するまで私はぁぁぁ!!」


 あぁ、もう!厄介だな!

 てか、こんなことをしてる暇じゃない!だって私はレイラに……。

 そうだ!レイラのとこに向かわなきゃじゃん!

 こんなとこで道草を食ってる暇じゃない!


「シズ!」


「……?はぁい?」


 シズは涙目でこちらを見つめてくる。

 そのシズに私は言う。

 ここに来た一番の目的!薬剤を受け取ることではない、もう一つの目的が私にはあるのだ。


「協力して!」


「……はぁい?」


 シズは弱弱しい声音で返答する。


「黒鳥のこと聞いたわよね!」


「黒鳥のことは聞きました……。そこから女王ユグドシア様のいる王族派を中心に、魔法研究省、騎士団それぞれが協力し、黒鳥への対処を検討していましたぁ……」


(女王ユグドシア様が直々に動いておられたか!なら、話は早い!)


「それじゃあ!黒鳥討伐に向けて、軍を向かわせてるってことでいいのよね!!」


 王国の軍が向かっている、もしそうならば、レイラ達は何とか生き延びてさえくれれば助けてもらえるはずだ!


「いえ……女王ユグドシア様は結成した軍に対して、待機を命じています……」


「は……ちょ、ちょっと待ってよ!レイラは!?」


 シズは不思議そうに首をかしげる。


「そのレイラ……?ってのは良く知らないですけど。ユグドシア様が言うには、黒鳥が出現した渓谷には魔女イリスがいるからと……。魔女が死んだら、軍を動かし、黒鳥を迎え撃つ。ですので、それまで待機と……」


「……は。……はぁ!どういうことよ、それ!?じゃあ、ユグドシア様はイリス達を見殺しにするって言うの?!」


「見殺しにするってわけじゃないですぅ。ただ、イリスが本当に魔女としての力があるのかを見るためって言ってましたぁ……」


「なんなのよ、それ!」


 じゃあ、レイラは助けもなく、孤立無援で戦ってるってこと!?

 そんなのあまりに無謀すぎる!


 ……けど、状況は理解した。

 もし、レイラが一人ぼっちで戦ってるって言うんなら私は!


「……分かった。……分かったわ。」


 私は覚悟を決め、シズの瞳を見つめ、ある一言を言う。


「……私を渓谷まで飛ばして」


 シズは私の言葉を聞き、ポカンとした後、慌てふためく。


「セリエさんを渓谷に?!そ、そんなのできません!」


 当然、シズはそういうだろう。

 だが、それを分かったうえで言葉を紡ぐ。


「お願い!その渓谷には『親友』がいるの!もしかしたら、たった今!黒鳥に孤立無援で戦っているのかもしれない!だから、私はすぐそこに向かわないといけないの!」


「で、でも!」


 シズは反対する。

 だが、私は口を開くのをやめない。

 だって……!


「だってその『親友』が大切なんだもん!助けないといけない!いますぐ、向かって助けることができなきゃ……私は……!」


 きっといつまでもレールの上から抜け出すことはできない。

 それは楽な生き方だ……。

 けど私は……。

 それとは違う景色を見てみたくなってしまった。

 レイラの見ている景色を、私も見たいと思ってしまった……。


「戻ってきたらどんな罰でも受けます……。だから……だから協力して欲しいんです!お願いします!」


 プライドをかなぐり捨てて、頭を下げ、懇願する。


 私はそう言い切ると、シズは言葉を失い、静かな時間が流れる。


「……分かりました」


 その沈黙を先に破ったのはシズだった。

 シズは先ほどの様子とは打って変わって、真剣な面持ちになる。


「あなたを、私の魔法で渓谷に飛ばしてあげます」


 シズは真っすぐな瞳で私を見つめてくる。

 空気が張り詰める。

 私は思わず、怖気づきそうになる。

 しかし


「お願いします」


 私はそう返答する。


 シズ=フェルタの魔法は『空間転移魔法(マジー・ドゥ・トランスフェール)』。

 物を指定した座標に移動させる魔法だ。

 発動条件は二つある。

 一つ目は、移動させる物は、新しく作って召喚させることはできず、既にある物でなければ転移することはできないというもの。

 二つ目は、移動させたいものが人間といった生き物である場合は、肩など体の一部分に触れなければ発動させることはできないというもの。


 シズは私の肩にそっと手を置く。


「準備はできていますか?」


 シズからの問いかけに私は返す。


「当ったり前よ!」


「分かりました……空間転送(トランスフェール)!!」


 すると、私はまばゆい光に包まれ、次の瞬間には視界が真っ白に染まっていた。



 戦況は崩れかけ、味方は押されている。

 撤退は不可能。

 状況は最高。


 これより攻撃する。

リアクション、評価やブックマークをして頂けるとすごく嬉しいです!


次回も読んでいただけますと幸いです!

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