騒動も落ち着いたことですし
私、レイラ=ユリウスはつい最近この村に越してきたまだまだ新参の女の子!
その村で魔女である少女、イリス=ユア=ツゥヴァリネと出会った。
どうやらその子は騎士団から狙われているらしく、しかもそれを一人で解決しようとするくらい強気な少女でもあった訳だ。
しかし、とても一人では解決の出来ようがなく、結果魔女の力を暴走させてしまう。
それを何とか解決させてみせ、元のイリスに戻してみせ尚且つ騎士団の問題も解決して見せた。
そして私はイリスをこの国が認めるよう助けることと、昔仲良くいた三人がまた仲良くできるよう手助けすることを約束した訳だ。
その事件から数日経ち、新しい物語が幕を開けようとしていた。
私は朝に強い人間だと正直思う。
まず朝日が差し込み小鳥が囀り鳴いているタイミングで目を覚ますし、朝食は絶対食べるようにしている。
そして朝日に照らされた街並みを見ることも欠かさない。
ベッドから起き、まずすることはカーテンを開け朝日を浴びること。
私の部屋が2階にあるということもあって、窓から見るババロン村の景色はとても壮観だ。
建ち並んでいる家々に朝日という名のスポットライトが浴びせられ様々な色をした屋根が明るく、なにより綺麗に輝いている。
私は寝巻きのまま1階へと下り、ある人に挨拶をする。
「おはようございます」
「おはよう。もう起きてきたんだ。早いね」
私が挨拶をした人はブロンド色の髪を腰あたりまで下ろし、長袖の白いブラウスと茶色のロングスカート、そして黒いエプロンをつけていた。
そんな服装が似合ってると言わざるを得ないくらいには高身長でスタイル良いの女性、カモミール=ブラウンだ。
彼女は1階の喫茶店のオーナーであり、私がここで働く代わりに住み込むことを許可してくれている。
「カモミールさんほどじゃないですよ」
「私は色々準備があるし、これくらい普通だよ。レイラちゃんこそ、もっと寝ててもいいのに」
「私は大体この時間に目が覚めてしまうというか……いわゆる習慣みたいなやつでして」
ブラウンの長髪をゆらゆらと揺らしながらカモミールさんは口元に手を当てクスクスと笑う。
「まぁ早起きは三文の徳とも言うし、いい事だと思うよ」
その後はカモミールさんが作った朝食食べ、いつも通りにカフェ店の店員として一日中働いた。
シフトに入ってる日は別に毎日って訳ではなく、暇な時は一日OFFだったりする。
またそこまで忙しい訳では無いので比較的楽な仕事なのではないかと思う。
今日もカモミールさんやお客さんと他愛のない話をしていたらあっという間に時間が過ぎてしまった。
そんな私だが毎日、気にかけてる人物が一人いる。
それは……
カフェが閉店し、今日はこれで仕事が終わりとなる。
閉店後の片付けを終えると、カモミールさんは私に言う。
「これでお仕事は終わりだけど……この後、今日もイリスの所に行くの?」
そう、イリス=ユア=ツゥヴァリネ。
このフランシィ王国に住まう魔女であり、人知を超えた力を扱い国に様々な影響を及ぼす者。
そんな彼女だが人前にあまり姿を見せない得体の知れなさに恐れる人々や、先代の魔女の跡継ぎとして認めないもの達によって迫害の対象となってしまっている。
「はい。彼女をほっとくなって私には出来ませんから」
私はカフェ店を飛び出すと作った料理の入ったバスケットを片手に村を出て森へと入る。
村の外にある森へと入りずっと奥へ行くと紫色の壁に黒い屋根、そして数多ある窓にはカーテンが閉ざされ、人が十人ほどは住めるであろう巨大な洋館が見えてくる。
そこはイリスが住まう魔女の洋館。
人との関わりが少ない彼女にはぴったりな薄着み悪く人の寄らない空間だ。
そんな洋館の屋根に一人の影が見えた。
「……?」
屋根腰を下ろしている人物は黒い外套でその身を包んでおり、体は愚か顔すら見ることは叶わない。
しかし小さな背丈に可愛らしい風貌と声からそれが少女であることが分かる。
その少女は私が来たことに気づいたのか月灯りを背にこちらの方へと振り向いてくる。
外套から覗いた顔は病的なまでに真っ白な肌をしており、時折隙間から白銀色のした髪がチラチラとみえている。どこがあどけなくも端正な顔つき。そしてなんといってもその特徴はサファイアのように美しい青色をした瞳であった。
「レイラ?」
彼女はそう呟く。
彼女こそ、この国に住まう魔女であり全世界に5人がいる魔女が一人、イリス=ユア=ツゥヴァリネである。
私はイリスの美しい顔つき。それが月あかりに照らされより際立ったことにより、目を奪われしばらく呆けてしまっていた。
「……はっ!」
しばらくしてこのままではいけないと、慌てて意識を取り戻す。
「こんばんは!夕ご飯持ってきたんだけど、一緒にどう?」
「……!」
そう言うとイリスは少し目を輝やかせ、屋根から飛び降りる。
地面に着地する手前落ちる速度が遅くなったことから魔法を使ったことが窺える。
そんな訳でイリスと洋館に入り、一緒に夕食を食べる。
「美味しいね、これ」
イリスは持ってきたチキンを頬張りながらそう言う。
夕食を食べることは目的の一つだが、それ以外にも目的はひとつある。
「ねぇ、私とデートしない?」
「でーと?それまたなんで」
「イリスって外のこととかあまり知らないでしょ?だからそれを知るついでに遊びに行けたらいいなって思って」
まぁ、本当はそれ以外にも目的はある。
それは私がイリスについて詳しく知りたいと思ったこと。
人間に対しての信頼がないイリスが、どれほど社会のことを知ってるのか気になったのだ。
「私、外は好きじゃないんだよね。別に遊ぶくらいなら家でも出来るでしょ」
さては完全なインドア派だな。
まぁイリスが外へ積極的に出るイメージは無いので、当然といえば当然であるが。
だがこの回答は想定内。ここからの説得方法は考えてある。
「そっか隣町にあるイチゴがたくさん乗った特製パフェのあるお店に行こうしたんだけど、しょうがないね」
「………………!?!?!?」
私がそう言うと、イリスは血相を変えて私に飛びついてきた。
「別に行かないとは言ってない!」
私がここまでイリスと関わってきて知ったこと。それは彼女が美味しいものを食べることが大好きということだ。
「行こう!いつ行く?私は明日でもいつでもいいけど!」
だが、まさかここまで分かりやすく食いついてくるとは思わなかったが……。
「えっと、じゃあ明日行く?」
「分かった!準備しておく!」
こうして私はイリスとのデートの約束を取り付けたのだった。
デート編がついに始まる!!