決着
魔女の結界が崩壊し、元に戻ったイリスと私は地上に舞い降りる。
イリスの方はまだ涙と鼻水でぐじゅぐじゅにしてる辺り彼女もまだ子どもらしい一面あるのだなと実感する。
「えーっと、大丈夫?」
「う、うゆ。ズビッ、大丈夫だヨ。グスッ」
本当に大丈夫なのかこれ。
そうしてると前方から拍手の音が聞こえてくる。
「いやー、素晴らしいね。ちょっと感動しちゃったよ」
拍手の主は赤髪の単発に騎士団の赤い服を纏った人物。現騎士団長エーデルワイスだった。
「イリスがあんな力を秘めていたこと。そしてあの暴走状態から君が元に戻して見せたこと。結界内の様子は私には分からなかったがあの状態から戻してみせるとは、君一体何者だね?」
「庶民出身のよくいる平凡な人間ですよ」
「誤魔化すなよ。平凡な人間ってのは何も成さないただその場にいるだけの人物のことだ。君名前はなんという?」
「レイラ=ユリウスです」
「レイラ=ユリウス……良い名じゃないか。レイちゃんって呼んでもいいかい?」
「え、嫌です」
「照れるなよ」
なんだか想像と違う人物だな。
やけにヘラヘラしている。
「今のを見て思ったことがある。やはりイリス、お前は魔女の力を制御できさえすればこの国で最強になれることは間違いないだろうさ。どうだ?その力、国のために役立ててみないか?」
今までのイリスならすぐ断っただろう。
だから今回も断るはず……だけど。
「………………考えとく」
予想と違う回答に私もエーデルワイスも目を丸くしてしまう。
「てっきり断られると思ったが、これはちょっと予想外だったな。どういう心境の変化だ?」
「まぁちょっと色々とね」
「詳しく聞きたいところだけどこっちも仕事でここまで来てるんでね。申し訳ないがとりあえず大人しく捕らえられてくれないか?」
「悪いけどそれに大人しく従うつもりはないよ」
「ま、そうなるか。どうせさっきの時に装置は壊されお前は元の魔法を使えるようになったんだ。だったらやることは一つしかないだろう?」
「待ってください団長!いくらなんでもその怪我では!」
それに対し口を挟んだのは私でもなくイリスでもなくセリエだった。
確かにセリエの言う通り、エーデルワイスは酷い怪我していた。
ところどころ服が破けその箇所から血が滲み、足は立っているのがやっとのようで、左目は開いてすらいない。
「心配無いよ。これくらいの怪我、後でいくらでも治せる。それに今はイリスと決着をつけることの方が大事だ」
「でも……」
「あとでなんとでも責めていいから。今はこっちを優先させて。さて、力づくでいかせてもらうぞ」
「させると思う?」
私はそういうと両手を平げイリスを守るように立ち塞がった。
エーデルワイスは酷い怪我を負っていても、本気でイリスと戦うつもりだ。
それを見たエーデルワイスはなんだか納得したような表情をしていた。
「どういう心境の変化かと思ったらそういうことか……。レイラ、君がどうしようと勝手だが、邪魔しようっていうなら容赦はしないぞ」
「レイラ……」
イリスの不安そうな声が後ろから聞こえてくる。
私のこの行動はただのわがままだって分かってる。
それでも今ここでイリスを守れなくてどうする。
「イリス、今私にできることなんて少ないかもしれない。けどこの状況をみすみす見逃すだなんて、私にはできないよ」
私はイリスと向き合うそう語りかける。
イリスは少し黙りこみ考えた様子を見せると、彼女は私の目を見つめこう言った。
「分かった。協力して!」
「……!うん!」
「地の底で眠りし炎龍よ!その力を持って邪魔者を塵へと返せ!」
エーデルワイスの詠唱後、地上から炎が沸き上がり空中で龍の姿へ変わる。
それは先の戦闘でイリスを打ち破った大魔法だった。
「今は魔女の魔法を使いこなせてないことに感謝だな」
「……レイラ」
想像以上の大魔法に唖然とする私に、イリスは優しく語りかけてくる。
「助けに来てくれてありがとう。レイラがいたから前を向いて生きてもいいかな、なんて思うことが出来たんだ。だから責任取ってよ。私を一度否定したこの世界を変えてみせてよ。そして信じさせて欲しい。この世界は楽しくて本当はもっと生きやすいものなんだって」
イリスは両手を前に出し唱えた。
「錬成 風魔剣」
するとイリスの手に一つの剣が錬成された。
その剣先は光の白く光り輝いていた。
「だからまずは目先の戦いに勝つ」
「分かった!」
私はカードを一枚取りだし詠唱をさせる。
それを見たエーデルワイスは阻止するかのように炎の龍をこちらに向かわせてくる。
「させるかぁ!」
「天天から舞い降りた力は哀れな人間にその身を捧げる」
私がそう言うとカードは光の粒子となりイリスの持つ剣先へと吸い込まれる。
すると剣先はより光白くより大きく変化する。
「レイラ……手を」
イリスが左手を私に差し出してくる。
それを私は右手で指を交じらわせるようにしてその手を握った。
そしてイリスが右手で、私は左手で剣柄を握り、勢いよく振り上げる。
剣先がより一層長く、大きく変化する。
目の前には炎の龍がその口を大きく開け、すぐ目前まで迫っている。
「「はあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」」
その龍に向け私とイリスは剣を勢いよく振り下ろす。
長く伸びた剣先は龍を真っ二つにするように切り裂いた。
剣の軌跡は光の斬撃となって、龍全体を真っ二つに切り裂くと、その炎をかき消していった。
その斬撃は龍だけでなく術者本人であるエーデルワイスまで届いた。
「…………っ!」
目の前は白く光り輝やき何も見えなくなる。
そんな視界の中で斬撃が地にぶつかったのだろう轟音が鳴り響いた。
明滅する視界の中、左手で握っていた剣の感触が消える。
大方、力を使い果たし霧散したのだろう。
分かるのはイリスと繋いでる手の感触だけ。
視界が戻ると剣を振り下ろした部分から直線に地面が切り裂かれており、その先でエーデルワイスがまだ立っているのが見えた。
「……お前の勝ちだイリス」
そう言うとエーデルワイスはふらいた後、倒れ伏した。
「はぁ……はぁ……」
荒い呼吸を整える。
何とか勝てた。
それを実感しイリスと喜びを分かち合おうとした時。
「イリス!エーデルワイス!」
後ろから二人を呼ぶ声が聞こえてきた。
声の主はカモミールさんで、ここまで走って来たのだろう呼吸が荒れていた。
「カモミール……?」
「なんだそっちから来てくれたのか……」
イリスとエーデルワイスがそっと呟くのが分かった。
カモミールさんはというと、二人の様子を交互に眺めると泣きそうな顔をしながら叫んだ。
「馬鹿!二人して酷い怪我をするまで本気でやり合うなんて!」
カモミールとイリスとエーデルワイスの三人は先代の魔女に育てられ、今は三人別々になってしまっていた。
そしていざ再会したらその内二人が本気でやり合ったのだ、カモミールさんが本気で心配するのも頷ける。
「えっと……」
イリスはそれを受け、気まずそうに目を逸らした。
エーデルワイスはのろのろと立ち上がると少し申し訳なさそうに言った。
「……悪かったよ」
カモミールさんは歯を食いしばると、涙目で続ける。
「あれ以降イリスもエーデルワイスも自分ものことばっか!もう二度と元の関係に戻ることなんてなく、離れ離れなんじゃないかって怖かった!」
「ごめん、カモミール」
そう呟いたのはイリス。
申し訳なさそうにそっぽを向いていた。
「まぁいいよ。お互い憂いが晴れてすっきりしたみたいだし……イリスがずっと苦しんでいたこと私知ってるから……」
お互い遠慮し深く踏み込まずにいたイリスとカモミール。
でも今見た感じ、それが解消されるのも近そうだ。
カモミールさんはエーデルワイスへと向きを変えると、目の前まで歩み寄った。
「エーデルワイスも……ずっと頑張っていたこと……私は知ってるから、だから!」
「ありがとう。……ねぇ元の関係に戻るってそれはイリスとのだけでなく、私たちのも入ってるのか?」
「……っ!当たり前でしょ!ずっとずっと寂しかったんだから!」
お互いそれぞれの道のために別れたカモミールとエーデルワイス、二人の関係も元に戻りそうだ。
本気でやり合ったイリスとエーデルワイスもきっと大丈夫。
これできっと私がカモミールさんと約束した三人が元の関係に戻る手助けをするという約束は果たせそうだ。
「……カモミール」
「……エーデルワイス」
二人は仲睦まじく互いの名前を呼び合い手を取ると、顔を近づけそのまま口づけをした。
「…………ん?」
「…………え?」
「…………な!」
私とイリスとセリエはその光景にそれぞれを声を上げてしまう。
え、元の関係に戻るってそっち?
「ふ、二人って付き合ってたの!?」
イリスは指をさしながら驚きで声を上げると、カモミールさんとエーデルワイスは恥ずかしそうにしながら言った。
「えっと……うん」
すれ違っていた三人はまた元の関係に戻るべく、一歩踏み出し始めた。
当然イリスの手伝いをすると約束した私はまだまだ一緒にいるわけだけども。
きっと歩みを進めればイリスがこの国に認められる日も近いはずだ。
と、とりあえず一件落着ってことで!




