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続・紅の挽歌 ~佐久間警部の鎮魂歌~(2024年編集)  作者: 佐久間元三
佐久間の反撃
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国民全員の総意(2024年編集)

 ~ 東京都、警視庁大会議室 ~


 師走に入ると、警視庁は、報道機関に対して、一連の事件について、緊急記者会見を開いた。但し、録画は認めるが、生放送は行わない条件をつける、異例の手法を取った。


 記者クラブをはじめ、多数の報道陣が殺到し、予定していた会場では入りきれない為、もう一回り大きな会場での、会見を余儀なくされた。会見が始まると、想定通り、情報封鎖した事への、怒号が飛び交う。


「何故、今まで、公表しなかったのですか?」

「政治的な関係がありますか?政府から、箝口令を敷かれたとか?」

「犯人の目星は、ついているんですか?」

「今まで被害に遭った人の、氏名や年齢は?因果関係は?」

「快楽殺人なのか、計画殺人なのか?」


 安藤は、まずは、毒を吐かせようと、質問が落ち着くまで、静観の姿勢を見せる。頃合いだと、口火を切った。


「では、佐久間警部より、説明します。まずは、黙って聞いてください」


 安藤が説明しない事に対して、野次が続く。


「何故、部下に話させるんですか?」

「一体、何人死んだんだ?」

「さっきから、質問しているのに、無視はダメでしょう」

「これが、警視庁のやり方ですか?」


(………)

(………)


 安藤と佐久間は、あえて何も語らず、場の収束を待った。報道陣も、毒気を抜かれ、口を開く者がいなくなると、佐久間がマイクを握る。


「警視庁捜査一課の、佐久間です。質問は、適宜で結構ですが、一方的に遮るのは、遠慮してください。今回の発表は、いつもとは、少々、趣向が異なります。まずは、経緯を説明したうえで、この場にいる、全ての参加者に、力をお借りしたい。最後尾で、カメラを構えている、あなたにも、助けて貰いたい」


(------!)


(おっ、俺?)


「そうです。今、驚いている、あなたにもです。全員が、捜査に関わる気持ちで、聞いてください」


(………?)

(………?)

(………?)


(おい、どういう意味だろ?)

(分からんが、力を貸してと言っているぞ)

(静かにしろよ、経緯を聞こうじゃないか)


 定例の会見とは違い、妙な空気が漂っている。報道陣も、緊張した面持ちになった。


「まず、今回の事件は、延べ九名が死亡している、大量殺人事件です。二年前に起きた、ミステリー作家関連の事件と、連動しています。『紅の挽歌』という、九条大河の遺作を巡り、全国展開までなった事件で、多くの被害が出ましたが、最終的には、犯人を逮捕しました。二年の時を経て、『紅の挽歌』の結末に、不満を露わにした模倣犯が、警視庁捜査一課に対して、犯行声明を出した事が、発端です。ここまでは、大丈夫ですか?」


「九条大河って、都内のホテルで、緊急記者会見をした、あの九条大河ですか?」


「そうです」


「最期の作品は、…確か、お蔵入りしたのでは?」


「仰る通りです。普通ならば、読む事は出来ませんが、模倣犯は、最期の作品を読んだようです。この点については、警察組織の範疇外なので、お答え出来ません。事情をご理解ください。では、話を続けて、大丈夫ですか?」


 会場の空気は、大丈夫だと告げている。


「では、続きを話します。何故、公にしなかったか、箝口令を敷いていたのかの問いですが、模倣犯の目星が無い中で、公表すると、二次被害を出す懸念と、捜査に支障をきたすからです」


「二次被害とは、何ですか?」


「良い質問です、お答えします。犯行予告を精査していくと、犯行場所が、観光名所の秘境が対象でした。公にした場合、当然ながら、集客数が減少し、観光名所にも負担が掛かります。風評被害も起こるでしょう。模倣犯は、秘境といっても、一般人を巻き込まず、対象者のみを狙う事が分かっていた点と、大勢の観光客を、混乱させない為の、配慮だったからです。…そこのあなた?お名前は?」


「サンクラブの山内です」


「山内さん、あなたなら、どうします?人というのは、結果に対しては、文句や反論を言いやすい。私の発言は、客観的に、おかしいですか?」


(------!)

(------!)

(------!)


 山内や、他の報道陣は、面喰らった。


 卑下する事は簡単だが、今、口を開けは、逆に問われてしまう。他の報道陣が黙る中、指名された山内は、しばし考えて、答えを口にした。


「…正直、難しいです。人命は、当然優先されなければならない。でも、そこで生計を立てている人の、補償問題にも発展しかねない」


「率直な意見を、ありがとうございます。警察組織(我々)も、悩みに悩みました。報道機関に対して、情報操作する事は、報道の自由を、否定する事にもなりかねない。しかし、その危険を冒してでも、模倣犯を特定したかった」


(------!)

(------!)

(------!)


 会場が、響めいた。


「あの、佐久間警部。もしかして、犯人の特定が出来たのですか?」


「ええ。模倣犯は、芝﨑直人、四十一歳。数年前から、千葉刑務所で服役していましたが、今年の一月五日に、肺がんにより、死亡が確認された人間です」


(------!)

(------!)

(------!)


「死んでいる?」


「死亡した人間が、どうやって、犯行を?」


「簡単な事です。警察病院は、刑務所に比べると、監視は緩い。替え玉を使い、抜け出したのでしょう」


「脱獄を報道すると、警視庁は、法務省に睨まれますよ?服役者を、法務省は見過ごした事になり、責任問題になります。報道機関は、言葉が悪いですが、組織同士の対決を、面白おかしく書きますよ。これ程、金になる話は無いですから」


「どうぞ。好きなように、書けば良いです」


(------!)

(------!)

(------!)


 佐久間は、即答して見せた。


「先ほど、申し上げたはずだ。警察組織は、本来ならば、開示しない捜査情報を、口にしている。そして、本気で、報道機関の力を借りようと、説明している」


 口を開いた者に、周囲から非難が上がる。


「…空気を読めよ。きちんと、最後まで話を聞いてから、総合的に判断すれば良いじゃないか?」

「警部の目を見ろよ。本気だぞ?」

「逮捕前の情報を流す事は、余程の事なんだぞ?」

「助けてくれと、言っているんだぞ、分かれよ」


 会場は、佐久間の発言を待った。


「お願いする為には、芝﨑直人の事を、まず語る必要があります。芝﨑直人の特定に至った経緯は、長くなるので、端的に申しますと、以前、私が逮捕した者です。元東京高等検察庁の検察官で、正義感がある者でしたが、殺人教唆の罪で、収監されました。当時、騒がれなかったのは、逮捕前に、辞職しており、公務員ではなかった為です、これについては、既に決着がついた話ですので、話題からは外してください」


「知ってるか?」

「俺は、知っていたぞ。当時、世間は知らなかったけど、検察庁は大騒ぎだった」

「法務省が、箝口令を敷かなかったか?」

「良いんじゃないか?収監されてたんだから、一応、禊ぎは済んでいる」


「ご理解、感謝します。特定に至った、経緯の続きですが、殺人の計画性と実行性、途中過程の思考が、私の知る者と似ており、捜査を重ねて、辿り着きました。冒頭の通り、芝﨑は、九条大河の作品を、こよなく愛していました。遺作となった『紅の挽歌』を巡り、どうしても、結末に納得がいかなかった芝﨑は、二年前の事件を調べ、犯行声明から、当時を彷彿させる手法を取った。事件の構成も、それに近いもので、ミステリー作家仕立てに、詩に準え、自身が葬りたい者たちを、対象者にした。犯行声明には、十名程度が死ぬと書かれていて、残り一名となりました。最後の対象者は、警察組織が先回りして、護衛しています」


「そんな経緯が?」

「ある意味、狂信者だな」

「二年前の事件の続きを、引き継いだんだ」

「公表出来ない訳だ、闇が深すぎる」

「納得出来ないって、逆恨みも甚だしいだろ」


(誠意をもって、説明すれば、分かって貰えるものだな)


「ここからは、報道機関の助力を頼みたい部分です。皆さんには、テレビ、ラジオ、ネットなどの、あらゆる報道番組で、一連の連続殺人事件を、大々的に発表して頂き、『犯人が、芝﨑直人であると警視庁は特定し、全国に指名手配をかけた』と、お願いします。法務省が、警視庁に対して、苦言を呈する事は、避けられませんが、そんな事は、どうでも良い。大事の前では、苦言など、小事です」


「組織同士の面子争いは、凄まじいものがある」

「司法を司る同士の、争いになるな」

「高等検察庁も黙っていまい、蒸し返されるのを嫌うだろう」

「報道機関にも、圧力が掛かるかもしれないぞ」


 佐久間の決意は、痛いほど理解出来るが、警視庁捜査一課が行おうとする事は、自殺行為に近いものであると、報道陣は考え、言葉を飲んだ。自分達にも、火の粉が飛んできそうだからだ。


 数十秒、会場内が静寂の気配に包まれる。


(………)

(………)

(………)


 サンクラブの山内が、意を決して、佐久間に尋ねた。


「報道の協力は、可否だけを考えると、可能です。ただ、その後の展開が読めません。普通に考えると、警視庁捜査一課は、周囲から、集中砲火を浴び、孤立する危険性もあります。この先については、更なる捜査情報になるので、聞いてはいけない、禁断の質問ですか?無礼なら謝罪します。ただ、これだけは言わせて欲しい。警察組織の肩を持つと、世間から疑義が掛かれば、それは、電波法の第一条にも抵触するし、公平性を失う危険性もあります。だから、それなりの確証が欲しいのです」


「忌憚ない意見、ありがとうございます。あなたこそ、本当の報道記者(ジャーナリスト)だ。協力を仰ぐ以上、警察組織は、誠意をもって、お答えします。報道後の展開ですが、皆さんの力を借りて、芝﨑直人に罠を掛けます」


(------!)

(------!)

(------!)


「こう、報道してください。警視庁は、『芝﨑直人が、十二月二十四日、クリスマス・イヴに、最後の犯行を、二箇所で行う事を察しており、当日は、直接対決のうえで、必ず身柄を確保する』と、声明を発表した。これで十分、効果が期待出来ます」


(------!)

(------!)

(------!)


 会場が、再び、響めいた。


「本気で言っているのですか?犯人は、絶対に、テレビを観てますよ。手の内を明かしては、まずいんじゃないですか?私が犯人なら、この日以外に、変更しますよ?」


 佐久間は、ほくそ笑む。


「その点なら、大丈夫です。芝﨑直人には、自分なりの大義があって、この日を避ける事はしません。それよりも、今から、もっと、大事な事を話します。最後尾の方、施錠をしてください。皆さんにも、一芝居打つ手伝いを、お願いしたい。一緒に、この難事件を解決するんです」


 佐久間は、会場にいる全ての者を、近くに呼んだ。


 報道陣は、カメラやマイクを座席に置き、佐久間の周囲を取り囲む。


「良いですか、皆さん。超重要機密事項(トップシークレット)を話します。耳を澄ませて、声に出さない様に」


「ボソボソボソボソ」


(------!)

(------!)

(------!)


 会場が、三度、響めいた。


「たまげたな、佐久間警部の思惑通り、期待出来るぞ」

「いやあ、深いね。生の捜査は、こうでなくては。ドラマの様な、展開になるぞ」

「本当だな。報道陣が事件を解決するんだ、世間は驚くぞ」

「これこそ、官民一体の施策じゃないのか」

「こういう展開があるから、報道を辞められないんだ」


 会場の雰囲気が、一体化していく。


「ご理解頂けましたか?この作戦は、報道機関でしか、出来ない手法です。警察組織の力だけでは、これは望めません。事件解決の為、国民の為、何とぞ、報道機関の力を貸してください」


 佐久間は、発言を終えると、突然、床に額を擦り付け、懇願した。


(------!)

(------!)

(------!)


 誰もが驚き、安藤も、あまりの出来事に、腰を上げる。


「佐久間警部、顔を上げてください。あなたの熱い気持ち、確かに、受け取りました」


「そうですよ。我々にも、自尊心(プライド)がある。そこまで率直に頼まれたら、嫌とは言えませんよ。編集長(デスク)を説得してでも、明日の特番枠を、空けてみせます」


「皆さん、ここは、どの局も連携して、盛り立てようじゃありませんか!」


「賛成!!」


「全国ネットの報道局が連携して、取り上げるのは、初じゃないか?ある意味、報道元年だぞ」


「ペンは、剣よりも強い事を、証明しましょう!」


「組織同士のいざこざなんて、興味なし!純粋に、この事件の行く末を、見守りますよ。そして、犯人確保に尽力すると、お約束します!」


(皆、ありがとう。これで、芝﨑直人に勝てる)


「皆さん、どうか、よろしくお願いします。この作戦に、被害者の未来が懸かっている。何としても、完全決着しましょう!!!」


「えい、えい、おー!」

「えい、えい、おー!」

「えい、えい、おー!」


 心を一つにした報道陣は、記者会見の締めを宣言しなくても、各局が、その場で、報道の時間帯、放送内容、見出しの言葉など、細かい議論を開始する。佐久間は、場の空気を壊さぬ様、静かに、安藤の元へ戻った。


「上手くいって良かったな。土下座した時は、びっくりしたぞ」


「申し訳ありません、誠意を見せたくて」


「だが、ちゃんと伝わった。この景色を、全課員に見せたかったな。日本も、まだ捨てたもんじゃない。これだけの熱量で、正しい未来にする為に、自分たちの出来る事を、調整してくれている」


「そうですね。職種は違えど、犯罪を防ぐ事は、国民全員の総意です。報道陣(彼ら)は、その代表です。警察組織は、司法警察職員として、その権限を司り、行使するだけです」


「……良い会見だった。そして、最後は、警察組織の番だ。絶対に失敗は許されないぞ」


「重々、承知しています。報道陣の期待を、全部背負って、対峙します」


 背水の陣で臨んだ緊急記者会見は、大成功に終わり、報道する側にとっても、新たな風が吹いた。佐久間の駆け引きが本格化し、熾烈な師走になっていく。最終決戦の幕開けである。



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