表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
続・紅の挽歌 ~佐久間警部の鎮魂歌~(2024年編集)  作者: 佐久間元三
警視庁の攻防
PR
29/45

それぞれの思惑(2024年編集)

猿島については、物語上、キャンプや宿泊施設が出てきますが、作品上のフィクションです。

横須賀市の条例や、「猿島公園管理要領」により、宿泊は出来ませんし、BBQの持込、海水浴期間以外の遊泳、プレジャーボートによる乗り入れ、ドローン飛行など、細かい制限があります。

 ~ 十一月一日、九時三十分。猿島 ~


(やって来ました、猿島へ)


 ミステリー作家の鈴木淳一郎は、神奈川県横須賀港から、定期船で、猿島へ現地入りした。猿島は、東京湾に浮かぶ、唯一の自然島で、湾内最大の無人島である。


 明治十四年~昭和二十年までは、民間人の立入が禁止されていた為、日の目を浴びなかったが、平成十九年に、国から神奈川県横須賀市に、無償譲渡されてからは、原初からの自然が売りの、人気の秘境スポットとして、脚光を浴びている。


 島の特徴としては、東京湾を守る為の、日本軍時代の防空壕施設、自然を活かしたトンネルなどが存在し、謎も多い。猿島桟橋から、五分もあるけば、要塞エリアであり、兵舎や砲台など、歴史を感じる事が出来る。フランス積みと呼ばれる方式で、積み上げられた、レンガ建造物は、日本に数箇所しか存在しない、貴重なもので、これを目当てに訪れる客も多い。


 鈴木自身、猿島の神秘的な雰囲気を、雑誌で読んだ事があり、以前から、取材してみたいと思っていた。そこへ、あすなろ物産の芝山からの、甘い誘惑も手伝って、上陸となったのである。


(長い桟橋だな、ん?ウエルカムボードか。洒落てるじゃないか)


 鈴木は、桟橋を過ぎて、管理棟の前まで来ると、地図を広げる。秘境探索よりも、夜の事が、楽しみで仕方が無い。歴史的な建造物も大事だが、今は、芝山が手配した、女性の事しか考えられない。


(捜索は、明日以降で良い。今日は、まず、島の雰囲気を掴む事だ。確か、コテージだったな、…あっちの方か?)


 管理棟から、ハイキングコース用に整備された道を、十五分程、進んでいくと、宿泊施設に辿り着いた。道中、レンガ造りのトンネルを通過するたび、日本兵たちが、どんな想いで、ここを歩いたのか、感慨深いものもあるが、気持ちが、別の方に、向かってしまう。


(ダメだ、どうしても、気持ちが持ってかれる)


 鈴木は、五棟あるコテージの中から、ドアノブに、『鈴木淳一郎さま』と書かれた、札を見つけた。


(……ここだな。夜までは時間もあるし、暇だから、時間潰し程度に、周囲を歩いてみるか)


 ドアを開け、コテージの入口に、荷物を置く。


(------!)


 部屋の中央に設置された、二人掛けのソファーで、美女が寛いでいる。


(おおおおおおおおお!!)


 美女は、微笑みながら、ゆっくりと、こちらに向かってくる。髪をかき上げる仕草が、妖しい色気を放ち、匂いまで、美味である。


「鈴木淳一郎さんですか?」


「はっ、はい。鈴木です。もしかして、あなたが?」


「はい!ご指名ありがとうございます♪私でも、大丈夫ですか?」


(ドストライク!!)


「いやあ、写真以上に美しい。お名前は?失礼ですが、顔だけで即決したので」


「アケミです。明日の朝まで、可愛がってくださいね。その、良かったら、朝以降も、指名して欲しいかなって。今日は、頑張ります♪」


(もろ、好みだ!芝山に、後で礼を言わなきゃ)


 アケミは、肌白く、しなやかな手で、鈴木の手を取ると、自分の右胸を触らせた。


(------!)


(うひょおおお)


 この瞬間、鈴木の脳裏から、全てが消え、本能が剥き出しになった。アケミは、その様子を、楽しむように、お約束の言葉を口にする。誰もが、夢見る、あの一言を。


「今から、何をします?…お食事ですか?…お風呂ですか?……それとも?」


(------!)


「わ・た・し♪」


 鈴木は、迷わず、アケミの唇に、しゃぶり付く。アケミは、されるがまま、二十秒程、接吻を許すと、優しく両腕を、鈴木の背に回し、耳元で囁いた。


「ふふふ、まだ、お昼前ですが、味見しますか?私も、欲しいかも」


(------!)


「うん、するする、味見する!」


「嬉しい。…でも、お仕事は、大丈夫?」


「そんな事は、どうでも良いさ。…ゆっくり休もう。ねっ、ねっ」


「分かりました。では、たんと、召し上がれ♪」


(------!)


 二人は、熱い接吻を交わしながら、ベッドルームに向かう。アケミは、焦らすように、一枚一枚、身につけた衣服を脱いでいく。上下の下着だけになったアケミが、ベッドに腰掛け、両手を広げる。


「来て♪」


(ふぉおおおお)


 鈴木は、恍惚に導かれ、胸に飛び込むと、『桃源郷』に旅立った。


(………)


(………)


(お楽しみが、始まったね)


 コテージの裏に隠れ、室内を覗く竹中は、芝山へ、報告を入れる。


「旦那、あっしです。…まず、一人目、簡単に堕ちました。これなら、明日まで、外へ出ないでしょう。熊谷雄一郎の方も、上手くやります。道に迷いそうなら、案内します」


「分かった、宜しく頼む」


(第一段階、完了。次まで、三時間以上あるし、ビーチに行って、優雅な昼飯でも食べるか。……それにしても、勢い良く、腰を振りすぎだ。今から、そのペースでは、夜まで保たんぞ?まあ、アケミには、精力増強剤を渡してあるし、要らぬお世話か)


 竹中は、次の獲物である、熊谷雄一郎が到着するのを、静かに待つ事にした。



 ~ 十一月一日、十四時。猿島 ~


 熊谷雄一郎も、同じく定期船にて、猿島に上陸した。朝一の便で来たかったが、芝山から、時間指定されたので、仕方が無い。


(海と、砂浜と、森林か。孤島だな、おい)


 熊谷は、秘境探索には、関心が無かった。あるとすれば、芝山が勧める、民宿の美人女将だけである。


 自称、売れっ子の辛口評論家で、金銭的には、困っていない。『取材期間中に、未亡人を、口説き落とせれば良い』とだけ、考えていた。


(まずは、女将に会いたい。気が向いたら、仕事をしても良い。俺の力で、あすなろ物産など、どうにでもなる。…最悪、辞退したって、問題ない)


 熊谷は、景色に目もくれず、真っ直ぐ、目的地の民宿を探した。


(こんな所に、コテージがあるぞ。まあ、ここには、女将はいないからな)


 コテージを過ぎ、奥地へ進む。二十分が過ぎた。


(どこまで行くんだ。……ん?あれじゃないのか?)


 要塞エリアの端まで来ると、芝山が指定した民宿が見えてくる。


(思ったよりも、遠かったぞ。まあ、こんな場所に宿があるとは、普通は思わんよ。正直、商売になってないんじゃないか。場合によっては、助けてやるかな、女将次第だが。どれどれ、どんな顔をしてるか、拝もうじゃないか)


 熊谷は、期待に胸を踊らせながら、民宿の玄関を跨いだ。


「あのー、ごめんください」


「お待ちしておりました、熊谷さん。…会いたかったですわ。…予想通り、素敵なお方♪」


(------!)


 この瞬間、熊谷は、容易く恋に落ちた。


 第一印象で、運命の女神だと確信した。


(今直ぐ、抱きつきたい)


 欲望のまま口説こうか、しばし様子見で、紳士的に振る舞った方が、正解なのか?


(芝山は、金の力で、忖度しておくと、言っていたな。なら、抱きついても、問題ないんじゃないか?満更でもない、表情をしているし。……でも、待てよ。良い歳した大人が、性欲まみれの成年の様に、秒で、迫るってのも、どうかと思うな。うーん、どちらが正解なんだ、この場合は)


(………?)


 熊谷は、心の葛藤が働き、玄関で立ち止まってしまった。その様子に、女将は、首を傾げつつも、案内する事にした。


「さあさあ、お上がりください。まずは、奥の部屋で、(くつろ)いでくださいな。直ぐに、お茶をお持ちしますわ」


(------!)


(そうだよな、俺は、分別のある大人だ。時間はたっぷりとあるし、何を焦っているんだ)


「ああ、そうですね。ありがとう。いえね、思った以上に、綺麗だから、緊張してしまって。どうも、すみません」


(………)


 熊谷の仕草で、心の内が分かった女将は、『何とも可愛らしい』と、女心をくすぐられた。


(ふふふ、そんなに、私が欲しいの?…それなら、分かりやすい方が良いわね)


 女将は、満面の笑みを浮かべ、熊谷の手を取ると、恋人繋ぎをしてみせた。


(------!)


 びっくりして、女将を見ると、つぶらな瞳が、接吻を待っている。


(いける!!)


 熊谷は、思い切って、軽い口づけをした。女将は、それを、すんなりと受け入れると、両腕を、腰に回し、情熱的に舌を絡ませてくる。


(------!)


(マジかよ、そっちも、やる気満々じゃないか。もう、我慢出来ない!!)


 雄の本能が、その場で、女将を押し倒す。


(………)

(………)


「……もう、せっかちさんね。夜まで、我慢出来ないの?」


 女将の口調が、妖しくなる。その言葉に、熊谷も、酔った。


「…我慢なんか、出来る訳がない。こんなに、君を求めているんだ。分かるだろう?」


 熊谷は、熱く、固くなったものを、女将に触らせた。


「……まだ、明るいわ。…私、未亡人で、若くないし。見られるの、少し恥ずかしいわ」


「…俺だって、オッサンだよ。…大丈夫、全てを見せてくれ。…なっ?優しくするからさ」


(………)

(………)


「……うん、良いよ。ゆっくり、お願いね」


「ああ、大丈夫。直ぐに、気持ち良くなる」


 こうして熊谷も、鈴木同様に、快楽を(むさぼ)り始めた。廊下の盗撮カメラで、熊谷の堕ちる様を、別室で確認する竹中は、芝山に報告を入れる。


「おっ、待っていたぞ。首尾はどうだ?」


「旦那、二人目も、簡単に堕ちました。第二段階、完了です。…しかし、この二人、まるで猿ですな。評論家が、聞いて呆れますわ。女将も女将です。ぱっと見、淑女なんですが、こうも、情熱的とは。人は、見かけでは、分かりません」


「そんなに、盛りがついているのか?」


「ええ、見てるこっちが、恥ずかしくなりますよ。廊下で押し倒して、そのまま、行為に入りました。二人とも、下だけ脱いで、前戯もそこそこ、もう腰振ってまっせ。女将だって、もう少し、前戯して欲しかろうに。開始五分で、もう本番です。もう少し、雰囲気を楽しめば良いのに」


(プッ!!)


 芝山は、大笑いした。


「二人とも、ご無沙汰なんだろう。性欲に飢えてりゃ、そうなるわな。…まあ、好きなだけ、やらせてやれ。残り少ない、命なんだから」


 二人とも、思惑通り、手中に堕ちた。あとは、明日の昼間に、粛清するだけである。


 芝山のシナリオは、順調に、事を運んでいく。



 ~ 一方その頃、猿島海岸 キャンプ場の一角 ~


「おい、配置がずれているぞ。そこじゃない、ちゃんと覚えろよ」


 山川は、二日前から、多くの捜査官を投入し、現地指揮を執っている。


 猿島全体を、隈無く散策したうえで、定期船発着場、廃墟、要塞、砲台跡地、森林内部の要所を押さえると、小型カメラを設置。テントの中で、モニター越しに指示を出せる、緊急態勢を組んだ。


(今日、歩いた限りでは、不審人物はいない。やはり、現れるのは、当日のみか。どこに現れる?)


 人相が分かるのならば、そこまで苦労はしない。模倣犯、参加者の特徴が無い中では、経験と勘で勝負するしかない。


(相手は、こちらの事を知っている。こちらは、相手の顔を知らない。これだけでも、戦局は不利と言えよう)


 佐久間の顔は、模倣犯に割れている為、見つかれば、即座に逃走されるだろう。その点を考慮し、佐久間から、『捜査本部にて、別の作業をする』と、指揮を任された。長年、佐久間と共に、大舞台での捜査は、経験している山川であるが、大局を占う戦場で、指揮を執る事は初めてであり、肩に力が入ってしまう。


(初めて自分に、白羽の矢が立った。明日は、獅子奮迅の働きで、一気に事件を終わらせやる)


 山川は、『佐久間なら、どの様な罠を仕掛け、相手を追い詰めるか』を、何度も思案し、明日を待つ。現場責任者の、重責に押し潰されそうであるが、何度も、自分を奮い立たせた。



 ~ 東京都、警視庁捜査一課 ~


 佐久間は、捜査ニ課と連携して、過去十年間の、不起訴処分となった者を抽出したうえで、不起訴に至った事件背景を、重点的に調べている。


 一連の犯行は、全て、東京都内の事件、かつ、不起訴処分者だからである。


 捜査ニ課の前田は、一通りの確認作業を終えると、佐久間の元へやって来た。


「佐久間警部、ようやく終わりました。ご確認ください。上から四名は、佐久間警部の情報通りでした。その為、変更点はありません。北原と佐野は、過去の事件で、共犯者でした。そして、最後の鹿井は、まだ被害を受けていないので、今回、事件関係者(マルタイ)になる可能性が高いです」


「助かるよ、では、確認してみよう」


○櫻井英信、四十三歳、独身。

  五年前、東京都墨田区老女刺殺容疑で逮捕されたが、

  証拠不十分により、不起訴処分

  九階の滝を調査する目的で、秋田県入りし、

  八幡平付近で、転落死(秋田県警察本部情報)


 ○河端健次郎、四十歳、バツ二。

  三年前、東京都大田区幼女絞殺容疑で逮捕されたが、

  証拠不十分により、不起訴処分

  九階の滝を調査する目的で、秋田県入りし、

  秋田焼山付近で、転落死(秋田県警察本部情報)


 ○船平貴明、二十五歳、独身。

  四年前、東京都渋谷区婦女暴行容疑で逮捕されたが、

  証拠不十分により、不起訴処分

  東尋坊を調査する目的で、福井県入りし、

  東尋坊の岸辺で、転落死(福井県警察本部情報)


 ○神田裕之、四十三歳、独身。

  四年前、東京都八王子市婦女暴行容疑で逮捕されたが、

  証拠不十分により、不起訴処分

  吹割の滝を調査する目的で、群馬県入りし、

  吹割の滝から、九キロメートル上流の沢で、溺死

   (群馬県警察情報)


 ○北原朋和、四十五歳、独身。

  三年前、東京都江東区パーラー大有強盗殺人容疑で、

  逮捕されたが、証拠不十分により、不起訴処分

  上高地を調査する目的で、長野県入りしたが、

  宿泊施設にて、毒殺(長野県安曇野警察署情報)


 ○佐野徳行、四十一歳、独身。

  三年前、東京都江東区パーラー大有強盗殺人容疑で、

  逮捕されたが、証拠不十分により、不起訴処分

  上高地を調査する目的で、長野県入りしたが、

  宿泊施設にて、毒殺されそうになったが、一命を

  取り留めた。しかし、搬送先の病院で、模倣犯により、

  襲撃され、暴行死(長野県安曇野警察署情報)


 ○鹿井健一、三十四歳、独身。

  六年前、東京都江戸川区幼女誘拐容疑で、逮捕されたが、

  証拠不十分により、不起訴処分

  秘境探索ツアーに参加している可能性あり


「こうやって整理すると、一目瞭然だな。結果論だが、これが分かっていれば、救えたかもしれん。今のところ、六名死亡で、あと一名。ん?…一、二、三、……七名?模倣犯は、十名くらい、粛清すると言っていた。数が合わないな、という事は、警視庁管轄ではない者なのか?」


「そこまでは、流石に分からないですね。残り一名の、現住所を調べておきましょうか?」


(………)


「いや、それには及ばないよ。捜査一課(うち)で調べるから、大丈夫だ。それより、これらの事件(ヤマ)は、どの判事が担当していたのかを、至急洗ってくれないか?」


「判事ですか?他組織なので、検察に聞いた方が宜しいかと。正式に照会をかけますか?」


(………)


「いや、検察への照会は避けてくれ。少し、思うところがあって、知られたくはない」


「分かりました、では、裁判記録から、追ってみましょう」


「悪いね、今度、美味いものでも奢るよ」


「佐久間警部の馴染みは、どこも美味いから、期待してます。では、少々、お待ちください」


 前田は、捜査二課に戻っていった。


(………)


(…三名、数が合わない。鹿井の写真は、早速、山さんに送ろう。だが、たった一名を殺すのに、あんなに広い、無人島が舞台になるのか、甚だ疑問だ。もし、鹿井ではなく、このリストに載っていない三名ならば、慎重な対応が求められる。……山さんは、臨機応変に対応出来るだろうか?)


 嫌な予感がする。


 佐久間が、猿島の方に目をやると、ドンヨリとした雲が広がっている。


 まるで、今後の結末を示唆している様だった。




 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ