番外編2‐1 クリスマスは事件です
クリスマス。
昨日は皆のご尽力と言っていいのだろう。お陰様で大変良い一日を送る事ができた。
今日は朝から友達に…と言ってもいつもの3人、とお兄ちゃんにメールを送る予定でいる。
基本の文章に、それぞれに一言添えてと短いが連絡なので良いだろうと、下書きして準備しておく。
雅さんと会う事も予定しているので、ちょっと早いけどって…8時半って結構早いかな?ま、いっかと送信する。
もう出掛ける準備はできている。ケーキは午後から作るので今はもうすることがない。迎えが来るまで待つ。
一息吐こうと思っていると電話が鳴った。
『藤沢和維』と表示されている。
「もしもし、和維くん?」
『もしもし和維くんじゃねーよ。うわぁっ、ミヤ兄くんなっっ…あっ………プツッ』
ツーツーツー。~♪~♪~♪。
「もしもし、和維くん?」
『助けてっ、奈央ちゃんっっ。お願いっ、早く来てっ!あっ…プツッ』
ツーツーツー。
どうしたらいいんだろう?
「お母さーん。和維くんの所まで送って下さい」
「あら?雅くん迎えに来るんでしょ?」
「うん、そうなんだけど、和維くんが雅さんに襲われているみたい?」
通りかかった千里が「ブホッ」と噴いた。
「姉ちゃん、オレも行きたいっっ!」
お母さんは苦笑しつつエプロンを外すと車の鍵と上着を取りに行った。千里も上着と靴下を持って玄関に走ってきた。急いで履いている。
雅さんに掛けてみるが出ない。
行き違いにならないように、雅さんにメールを送っておく。
三人で車に乗っている。雪がちらついているが、これ位ならたいして積もらないだろう。
「藤沢家で何が起こっているんだろうね?」
千里とお母さんが呆れた顔して私をみた。前見て下さい、お母さん。
何?と返すと二人で口を揃えて、「信じられない」と答えてきた。
「だからさぁ、オレ昨日言ったじゃん。和維さんが可哀想だって」
「奈央?昨日、雅くんがあんなに盛大にヤキモチやいていたじゃない。それでも考えが至らないって、アンタも意外とバカだったのねぇ。
こんなでも千里が1番マトモなのかもしれないわ」
大きな溜息を吐かれてしまったが、返す言葉が見つからない。千里は今までの自分への評価の低さにショックを受けているようで、うわ~とかえーとか、ガ~ンとか言っているのが私の耳に届く。
「奈央、もしかして気付いていないかもしれないから一応言っておくわ。雅くんて、奈央のことに関してだけは別人のようになるから。あのコ物凄いヤキモチやきだから。
奈央が気をつけないと、周りに迷惑かけるから、よ〜〜〜っく覚えておきなさい。そして、よ〜〜〜っく注意しなさい。わかったわね?」
私は曖昧に頷いた。後ろの千里が「姉ちゃん絶対わかってねぇっ!」って言っているけど、うん、その通り。確かに少し嫉妬深い方だと思うけど、言うホドかなぁ?
「奈央!わかったらハイでしょ」
「はい…」
「わかってないわね。奈央が思っているのの10倍は激しいと思っておきなさい。
奈央がどう思おうと、十分に気をつけないと周りに被害が出るんだから」
「そうだぜ姉ちゃん。雅さん、一歩間違うとヤンデレだよ」
そこまで言われてしまうと、さすがにちょっと気をつけようと思う。数日前まで重症な中二病だった千里に『ヤンデレ』になりそうと言わせた雅さんて、実は変人なのかな…付き合いをちょっと見直した方が……なんて思ったら、背中がザワリとした。クワバラクワバラ。
もうすぐ和維くん家だ。試しに掛けてみる。
『奈央?おはよう。これ、和維の携帯だよ?』
和維くんが心配で和維くんに掛けたんだから当然だ。
「おはようございます、雅さん。あの、和維くんは?」
後ろから「げっ、マジで?」と千里の声がした。
代わってもらおうと思ったら到着したので、「着いたので切ります」と告げて車から降りた。
何故かお母さんと千里も降りて一緒に玄関にいる。私がボタンを押すよりも早く、雅さんが現れた。
とりあえず、雅さんより助けを求めてきた和維くんだ。
「雅さん、おはようございます。昨日はありがとうございました」
そう言って頭を下げる。返事を待たずに雅さんを避けて玄関に入る。
「和維くーん、奈央でーす。大丈夫ですかー?」
返事がない。どうしたんだろう?心配で靴を脱いであがらせてもらう。
携帯を取り出し和維くんにかけてみる。
後ろから着信音がする。
振り返ると気まずそうに雅さんが携帯を取り出した。留守電に切り替わる。
私は受けとると和維くんの部屋へ向かった。和維くんの部屋のドアをノックするが人の気配を感じない。
「和維くーん、奈央です。いませんかー?」
「姉ちゃん、居ないんじゃない?」
「うわっ、千里。驚かさないでよ」
「えーっ。…和維さーん、入りますよー」
千里はドンドンとドアを叩くとノブをガチャガチャとし始めた。別の部屋のドアが開いた。
見ると翔惟先輩が顔を出していた。
「おっ、兄貴いないな。
奈央ちゃん、千里、こっちこっち。和維もこっちにいるから」
こいこいと手招きされて恐る恐るのぞき込むと、少しやつれたようにみえる和維くんがいた。私の顔を見ると片手を挙げて「おはよう」と言ったがぐったりしている。
「大丈夫?」
「大丈夫に見えるなら眼科の受診をオススメするよ」
私の頬がヒクヒクとする。和維くんが玲奈化してきている様な気がする。
「「「……」」」
沈黙を破ったのは和維くんだった。




