第46話 携帯電話も悪くないです
「10時迄って言われてるからってギリギリに送るわけにはいかないから、名残惜しいけど9時前にはウチ出るからね」
「はい」
しょんぼりする私に、
「ほーら、そんな顔しないの。明日バイト昼からだから午前中は会えるから。ねっ」
うーっ、甘えん坊ですいません。自分の容姿に合ってないとは思うけど、基本、お兄ちゃん大好きの甘ったれですから。
8時頃になると和維くんと翔惟先輩も帰って来たのか階段をドタドタと駆け上がる振動が伝わってくる。
帰る時間が近付いているんだなと益々寂しくなった。
「そういえば、携帯持つって言った時、香織さん達何か言ってた?」
言われた事といえば、
「何故かお父さんには内緒って言われました。ケンカでもしたのかお母さんちょっと怒ってたんですよね」
「もう、香織さん達帰ってきてる?ちょっと確認してくれるかな?」
私は自分の携帯でお母さんにかけた。
『あら~?奈央どうしたの?』
「お父さんもお母さんも、もう家に居る?」
『うん、居るよ。何?代わる?』
「ううん、雅さんに二人共居るか確認してほしいって」
『奈央、雅くんに、おめでとう待ってるわって伝えておいて』
「うん。ん?うん、わかった」
お母さんに言われた事を伝えると、雅さんの顔が真顔になった。
「話しておいた方がいいね」
教えてもらったのはお父さんが持ち掛けた賭けの話だった。賭けの対象にされた事は不快だったが、改めて思い返しても携帯を持てと言われた事がないと思い至る。そして、携帯を欲しいと言った時のお母さんの言葉にも合点がいった。
「奈央、ごめんね」
「それは、もういいです。気にしてません。
あの、私がやっぱり携帯要らないって言った時に残念そうにしてたことがあったけど、あれって付き合う前でしたよね?」
「ああ、そんな事もあったね。あの頃は奈央との接点が少なかったから、何とか奈央と親しくなりたくて携帯持って欲しかったんだよね」
スマートに行動してる様に見えていた雅さんがそんな事を思っていたことが意外であり嬉しかった。「でもね、」と続く。
「別になくても、今こうやって隣りに居てくれる。賭けは受けちゃったけど、直ぐに自分が焦っている事やオレがもう高校生じゃないから近くに居られない事への不安だって気付いたから、別に賭けなんてどうでもいいって思ってたんだよね。
でも、昼休みにちょっとした事のやりとりや、毎日寝る前におやすみって言いたいって思ってるから持って欲しいと思っていたよ」
それよりも、本当に私との結婚を考えていて、そんなに早いうちから両親に挨拶に出向いていた事に嬉しさと若干引く気持ちと両方ある。
とはいえ、雅さんは最初からそんな感じだったと思い直す。
「あーあ、今度からはぐれたら困るから手を繋ごうって言いにくいなぁ」
「理由なんかなくても繋いでいたいです」
雅さんが頬をパンパンと叩いて気合いを入れた。
「よしっ。早いけど送るよ。でも、その前に奈央を充電させて」
なんだかんだで充電に30分程費やした。
そして、私の家に帰って来ている。
予想通りだが、2対2で向かい合って座っている。が、何も知らないお父さんは、予定よりも1時間も早く帰ってきた私を見て機嫌良くしている。
私が切り出した方がいいよね…と思っていると。
「今日はご両親の計らいで素敵な時間をいただけた事、とても感謝しています。ありがとうございました」
雅さんがそう言って頭を下げた。そして、お母さんを見る。
「香織さん、先程はお祝いのお言葉を戴きありがとうございました」
「いいのよー。そういう約束だったでしょ。奈央の事、よろしくお願いね」
「はい、任せて下さい」
雅さんが立ち上がる。私も慌てて立ち上がる。
「まだまだ未熟な私達です。今後もご指導、ご鞭撻をよろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
二人揃って両親に頭を下げた。
お父さんだけが何が起こったか分からないって顔をしている。
お母さんと雅さんをみると二人共頷いた。言っていいんだよね。
「お父さん、私、携帯持ったんだ。私の番号登録してね」
赤外線とメールどっちがいいかなと考えながら携帯を出してお父さんにメールを送る。着信音が鳴った。お母さんがお父さんの肩を叩いて「鳴ったよ」と言ってる。
「クリスマスプレゼントにお願いしてお母さんに買ってもらったの。
お父さんにだけ内緒だったわけじゃないよ。
私が携帯持つ事知ってるのお母さんと和維くんだけだったから」
あ、隣りから不穏な気配が…。
「総司さん、私ちょっと怒ってたのよね。っていうか呆れてたというか。
夏に賭けを持ち掛けたのもそうだけど、奈央が携帯欲しそうなそぶりが出始めていたのも気付かないで、『懐の深さをみせてやる。どうせ何もできないんだ。敵に塩をおくってやろう。ハッハッハッハッ』ってバカじゃないの?
雅くんが正面きって来てんのにあなたの態度といったら。
だから奈央に言って総司さんには黙っていたのよ。真っ当な相手とお付き合いしてるんだから、奈央を信じてそっと応援してあげればいいでしょ」
肩を落とすお父さんから私達に向き直る。
「こうは言ったけど、若いうちは特に本当にどうなるか分からないんだから。でも雅くんの奈央を大事に想っている気持ちや誠実さを感じる態度には好感持ってるよ」
お父さんがスッと顔を上げて立ち上がる。
「おとな気ない事をしてすまなかった。私も娘の事になると大分冷静さを欠いていたらしい。仲良くやってくれ。
奈央もたまには家に雅くんを呼んであげなさい」
お父さんは苦笑しながらソファに座った。
この件はこれで終わったのかな?
ホッとしていると、再び隣りから不穏な気配がしてきた。さっき感じたものより強い気がする。
さり気なく移動を試みる―――動けません。肩を掴まれてます。
「奈ー央♪どこ行くの?オレまだ居ていいよね?」
目が笑ってマセンケド、どうなさいマシタ?
お母さんは面白そうに、お父さんは口をあんぐりと開けてこっちを見ている。
「ねぇ?どうしてオレが知らないのに和維が知ってたの?どうしてかなぁ。1番に知らせてくれてもいいんじゃない?
ねぇ、奈央?」
お父さんが「アレは誰だ?」とお母さんに尋ねている。
いつ入ってきたのか千里もいる。助けてと千里を見るが、
「え~、姉ちゃんばっかりずるいもん。オレ知~らない。
オレはむしろ和維さんに同情するね。姉ちゃんのせいで可哀想。南無南無」
「えっ、ちょっと待って千里っ、何で和維くんが可哀想なのよっ」
雅さんがグイッと私の頭の向きを変える。
「ねぇ、オレの事は無視なの?」
ええーっ、誰か私の味方いないの?
雅さん黒いっ。何で?私ナニシタ~~~??
「さぁ、答えて♪」
近いっ、近いっ、コワイっ、コワイっ。
「雅さんに内緒で、雅さんの携帯の機種知りたかったのっ」
ジリジリと追い詰められる。イヤァ~~~!ホント黒い笑顔コワイからっ。
「雅さんと同じ携帯が欲しかったの。和維くんには教えたんじゃなくて気付かれただけだもんっ。
雅さんに送ったメールが1番最初だよ?」
……………………あれ?
「「「「………」」」」
お母さんだけじゃなく、お父さんと千里も面白そうにニマニマしている。
雅さんを見ると、赤い顔で私から目を逸らしている。うわぁ…いいかも。
「青春だねぇ」
「フッ、まだまだ青いな」
おもむろに携帯を取り出してパシャリパシャリと撮る。可愛い雅さんの姿をおさめる事ができた。ラッキー♪
「えっ?あっ、コラ、何撮ってんの!」
慌てる雅さんから携帯を守る。この様子をお母さんが撮っている事に雅さんは気付いていない。後でお母さんから画像送ってもらおう。
お母さんの正面に雅さんを誘導する。雅さんにとびついてほっぺにチュッとする。上手く撮ってもらえたかな?
「「奈央っっ」」
お父さんと雅さんが叫ぶ。
私の不意打ちに再び顔を赤くする。するりと離れ、私は携帯をお母さんに渡す。
ついに捕まって後ろから抱き付かれる。
「奈央、雅くんこっち向いて!」
ピースを作ってお母さんの方を向く。
『パシャッ』
上手く撮れたと携帯の画面を私に向けて見せようとしてくれている。すごくいい顔した私と雅さんが写っているはずだ。
きっと今夜から毎日『おやすみなさい』ってメールを送るんだろう。
寂しい時や不安になった時に何処からでも雅さんの声が聞ける。
会える時間はあまり増やせないかもしれないけど、携帯を開けば直ぐに雅さんの顔を見れる。
あ、玲奈達の内緒話にも入れる。
うん、携帯電話も悪くない。
それを肯定するかのように小指のリングがキラリと光った。
これで本編は完結です。
今後は番外編を本編よりゆっくりペースで書いていく予定です。
ひとまず完結ですが、番外編が始まったら完結を外しますので、またお読み頂けると嬉しいです。
ここまで読んで頂きありがとうございました。
今後も引き続きよろしくお願いいたします。




