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藤沢和維5

俺は今黄昏ている。たまにはこんな時間が欲しい。思い返せば、本当に濃い約9ヶ月だった…。


健人のせいで、入学してからしばらくは女に囲まれ散々な目に合った。

健人が奈央ちゃんに携番を聞いたことを起因に残念認定された。

それをきっかけに奈央ちゃんと玲奈と仲良くなれた。本当に友達らしい女友達を得たのはこれが初めてだ。

奈央ちゃんとミヤ兄が出会った時の鑑賞会もいい思い出だ。

プールで彼女達の化けの皮が剥れた。…面白すぎた。

海でも色々あった。あの時は楽しかったけど、精神的には疲れた。

夏休み明けは翔兄も巻き込んで噂に翻弄されたなぁ。

文化祭はあんなに平和だったの初めてだった。

この間は何を血迷ったのか、玲奈が俺達をわざわざミヤ兄達のデート現場へ連れて行き、置いてきぼりにされた。

…今考えても謎だ。あんな恐ろしいことはもうやめて欲しい。


あの人と会って話してみたい。


思い浮かべるのはあの人。俺の記憶に残ったあの人。奈央ちゃんの兄貴だ。

会ったのは1度きりだし、俺は挨拶をしただけだったが印象に残った。…何故かミヤ兄とペアルックだったことも含めて。驚きすぎて笑えなかったが、思い出しても笑え…ない。

玲奈はミヤ兄を『魔王サマ』と呼ぶが、(ちゃんとミヤ兄の前では控えている所をみると、本当に魔王と思っているのかも)魔王とは奈央ちゃんの兄貴の様な人をいうのだと思う。そもそもミヤ兄のアレは奈央ちゃん絡み限定だ。


奈央ちゃんの兄貴の名前…海斗さんだったっけ。

奈央ちゃん経由じゃなくて香織さんからの方がいいかな。

早速香織さんにメールする。


『件名//香織さんへ。お願いがあります。

本文//こんばんは。藤沢和維です。いつもお世話になっています。

突然ですが、海斗さんと話をしてみたいので、ご迷惑でなければ、僕の携番とメールアドレスをお伝え頂くのと、僕が話してみたいと申していた事をお伝え頂きたく思います。

それと、海斗さんから了承を得られるようであれば、こちらから連絡致しますので海斗さんの連絡先を教えて戴ければと思います。お忙しい所恐れ入りますが何卒よろしくお願いします』


送信完了。すぐに返信があった。


『件名//Re:香織さんへ。お願いがあります。了解。

本文//了解。海斗に連絡しておくね。

さっきのメールもそのまま海斗に転送しちゃうよ。

OKだったら海斗のアドレス送るから待っててね』


メール送ったけど何を話そう。話してみたいという好奇心だけで行動してしまったけど…。真面目に困った。

俺、何やってんだろう…。


その日のうちに返信はなく、翌日に返信があった。香織さんからではなく、直接海斗さんから。

都合のいい日が記されていたので、その中から明日を選んで電話をする旨を伝えた。さすがに会いに行くには遠かった。

明日の話なのに今から緊張している。

今日が土曜日で良かった。きっと学校だったら突っ込まれていただろう。


―翌日

約束の時間になった。電話をする。ちょっと手が震えるのが情けない。


『はい、井上です』

「あ、あの、あの、あの、お、俺は、僕は藤っ藤沢っ」


かみかみだ。ううーっ、泣きたい。


『もしもーし、海斗です。和維くん?大丈夫だよ~♪』


何、最初の一声と違うじゃん。軽っ。


「あ~、はい。無駄に緊張してしまいました。すいません。

お久し振りです。お時間頂きありがとうございます。

俺のこと覚えてますか?」

『うん、覚えてるよ。藤沢先輩の家で会ったよね。奈央がお世話になってる…?

もしかして和維くんてアレ?《別荘ブリザード事件》とか《嫁宣言事件》とかの時に居た子?』


そんな『事件』は知らないが、心当たりはある。


「あの、ミヤ兄が絡んでいるやつですよね?」

『うん』

「あー、はい。奈央ちゃん家とウチと玲奈達で海に行った時に俺も居ました」


なんだろう。嫌な予感がする。


『砂山で遊ぶ残念先輩の一人って和維くんだよね?藤沢先輩と一緒に奈央と千里のことよろしくね。もう一人の子にも俺がよろしく言ってたって伝えておいて』


千里か。千里か。千里かぁ~~~~~!!顔が引きつる。


「はい、分かりました。…あの、まるで電話のシメの様なんですが、終わりじゃないですよね?

俺からもいいですか?」


とは言っても、やっぱり何を話したらいいかわからない。

何か言っていれば何か掴めるかも。


「あの、海斗さんは先生達にとって印象深い生徒だったそうですね」

『そうかもしれないね。あの学校の中では成績も良かったし、この顔だしね。とはいえ、要領よく面倒事からは上手く逃げていたから先輩みたいな苦労はなかったけどね』


先生達の言っていた頭の回転が早いっていうのは、そういう事をさしていたのかな。


「夏休み明けに奈央ちゃんに変な噂がたって、その時に社会の先生から海斗さんとミヤ兄の事をほんのちょっとだけ聞いたんです。その時、先生達っていうのは俺が思っていたよりもずっと生徒を見ていたんだなぁって思って」

『ああ、でも、それ多分思っているのとちょっと違うわ。

注目されやすい生徒、気になる言動する生徒、なんとなく残る生徒っているでしょ。あと、対人間だからどうしたって、単純に相性の善し悪しもあるだろうしね。

俺の時は先輩とダブルだったから対比されやすかったし、お互い目立ってたでしょ。

…何?教職に憧れでもあった?』


そう言われてみて、俺の将来の選択肢に学校の先生がぼんやり浮かんでいる事に気付いた。


「そうかもしれません。今まで考えもしなかったけど」


まだハッキリしないけど何か見えた気がした。


『そういう相談ならさ、先生にしてみた方がいいんじゃないかな。俺は商業デザインを勉強したくて今の大学に入ったんだ。先生達にどこの大学がいいかきいてみるといいよ』

「はい、そうしてみます」


いい気分だ。明日、早速湯川先生に話してみよう。


「どんな事言われたか気になりませんか?」

『うーん。オープンマインドよ♪ってよく言われてたなぁ。心を開かないとかそんな所じゃない?』


壁あった自覚あるんだ。うん、やっぱりミヤ兄より何枚も上手うわてだ。


『ところでさ、どうして俺と話したかったの?相談だったらお兄さん達でも良かったんじゃない?』


そう言われると全く以てその通りだ。不思議だ。


「何故でしょう。俺にもわかりません。でも、あの日、一目会った時からずっと話してみたかったんです」

『…悪いけど、俺、ノーマルだから。そういう好意は受け取れないよ?』

「えっと、よくわからないですけど。ご迷惑かもしれないですけど、俺には海斗さんは頼れる兄貴分だと思いました。だから兄貴に近い感じで好きです」

『うん、ありがとう?』


なんだろう。海斗さんのキレが悪い。


「今日はお時間いただきありがとうございました。また何かあったらお電話するかもしれませんが、その時はよろしくお願いします」

『うん、えっと、そっちの世界、BLっていうの?…のことはよく知らないけど、お尻大事にね?』


再びよくわからない言葉を言われて締め括られた。

後日、健人に海斗さんに言われた事について説明を受け、誤解を解く為に電話とメールをするハメになった。

終わりが近付いています。次回からは本編奈央に戻ります。


以前活動報告に書いた男の子は和維だって分かってしまいましたね。


お読みいただきありがとうございます。

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