第40話 病気かもしれません
雅さんと仲直りした次の週から、平日週1、2で朝、電話がかかってくる。何で朝なんだろうと思わないでもないが、夜遅くて前日に連絡とれない事もあるから仕方ないのかな。
『今日迎えに行くから、授業終わったら待っていて』
今朝も電話があった。人混みは好まないはずなのに行く所は商店街や大型スーパー、デパートである。行ってもそんなに長居はしないで帰る。本当にぶらぶらとするだけだ。
私は見るだけでもそれなりに楽しいが、雅さんは楽しいのかな?
もう12月も半ばである。周りはいつの間にかクリスマス用に飾り付けをされていた。
「雅さん、クリスマスって何か予定ありますか?」
私の中ですっかり忘れ去られていたクリスマス。ここにきて、漸く連れられている理由がクリスマスじゃないかと思い至った。我ながら遅すぎてドン引きである。
「そういう奈央は?奈央が都合つくなら、オレは奈央と二人きりで過ごしたいけど。家族で過ごすでしょ?」
そう言われて考えてしまう。今までそうだったんだから、きっとそうなるだろう。夜に家を空けるなんて絶対OKがでるわけない。
こういう聞き方をするって事は、私と一緒にっていうのは諦めているという事なんだろうか。
そうだったら理解があり過ぎる。いつも私の事情が優先だ。本当は私も一緒に居たい。寂しいよ。
「そうですね…。私も本当は雅さんと二人きりがいいですけど、多分難しいですね」
うん、やっぱり無理だろうな。言ってみてがっかりが増した。思いの他堪えている。苦しい。
こんなに雅さんと居たいって思っていたんだ。
そう思うと胸に熱さが込み上げた。なんだか心臓が凄くドキドキする。目頭も熱くなってきた。
『離れたくない』
「奈央?……!」
雅さんが私の顔を見て驚いている。どうしたんだろう?
「奈央、顔伏せよう。移動するよ」
私の肩を抱き歩いていく。
「どうしようかな。中途半端に移動するより、このままウチに行っちゃう方がいいかな。奈央いい?」
私は「はい」と答える。私、何か変なんだ。
車に乗り込んだ。運転席に座った雅さんに思わず抱きつく。何でだろう。離れるのが凄くイヤだった。私から唇をねだる。
「オレ我慢できるかな」
ちょっと困った顔した雅さんが応えてくれた。私の気が済むまで付き合ってくれた。
気が済んだと思って離れたけど、まだ何か物足りない。持て余す疼きと感情に涙が出てきてしまう。
私を抱き締めてささやく。
「奈央、大丈夫だよ。側にいるから。運転してる間はちょっと我慢して?」
困った顔のまま私を離すと藤沢家へ向かった。
「先にオレの部屋行ってて。部屋冷えてるから暖房点けて。あったまるまで毛布にでもくるまってて」
きっとコーヒー淹れに行ってくれたんだ。
言われた通り部屋に入ると暖房を点ける。留守にしていた部屋はすっかり冷えきっていた。
毛布を床で使うのが申し訳なかったので、勝手だけどベッドに布団を敷かせてもらい、ベッドの上で毛布にくるまらせてもらった。
スカートがシワになるかなぁ。あったまったらブレザー脱いでも寒くないかな。
部屋が寒かったおかげで、さっきまでの疼きや感情が少し収まった気がする。何だったんだろう。
雅さんの優しさやさっきの困った顔が思い浮かぶ。
「雅さん、大好き」
言ってしまったらまたドキドキと熱くなってきてしまった。
『雅さんに触れたい』
明確に意識できた。その気持ちで一杯になった。
どうしていいかわからなくなった私はベッドに横になって目を閉じた。意識がぼんやりとはしているが、眠ってはいない。
部屋が暖かくなってきた。起き上がるとブレザーを脱いで雅さんの椅子にかけさせてもらった。シワになる事は気になるが、さすがにスカートを脱ぐわけにはいかないので、再びそのまま布団の中に潜り込んだ。
もう本当にどうしたらいいのかわからない。
雅さんの枕に顔をうずめた。
「雅さん、匂いしないと思っていたけど、うん、これ雅さんの匂いだ…」
シャンプーかなぁ、石鹸かなぁ。何だろう。落ち着くなぁ。……嘘。落ち着かない。益々熱い。
すっかりドツボにはまっているとドアが開いた。コーヒーの香りがする。きっと雅さんだ。
「奈央?寝ちゃった?」
コーヒーを置いて近付いてくる。
「奈央?」
顔を上げ辛い。私から離れると上着を脱いで片付けたようだ。クローゼットの開閉の音がした。
枕に顔をうずめたまま声をだす。くぐもるけど聞き取れるだろう。
「…雅さん。私、変です」
雅さんがベッドに腰掛けた。
「奈央、寝るならオレのスウェット貸すよ。スカートシワになるでしょ」
私の言う事スルーですか。せっかく淹れてくれたコーヒーだけど今は雅さんにくっつきたい。
私は起き上がると雅さんに抱きついた。顔を上げて雅さんの顔を触る。雅さんの瞳に熱がこもったのが分かる。いつもなら危険を感じてここで引くが、今の私はそれでも雅さんに触れたかった。
雅さんの表情はちょっとツラそうだ。
「奈央、コーヒー飲んで落ち着こう?」
私を離し立ち上がる。
「オレ向こうむいてるから、スカートこれにかけて、これ履いていて」
ハンガーとスウェットをポイッとベッドに放るとドアの方を向いた。
「上も着替えた方がラクだと思うけどどうする?」
下を借りたなら上も借りちゃえと遠慮せずに借りた。首周りや肩がユルッユルだ。普段、女性のLサイズを着ている私に男性のLLサイズはとても大きかった。




