第27話 楽しい時間はあっという間です
午後からは、疲れ切っていた私達は早々に帰り支度を始めた。使った備品を片付け、荷物を玄関に運んだところで、
「恭子さん、スンマセン。俺もう眠くてダメです。休んでからでもいいですか……」
体力が限界だったのは皆同じだったようで、中高校生組は全員健人くんに便乗しお願いした。私も、もう、すぐにでも寝たい。
「そうねぇ、じゃ、女の子達が使っていた和室で寝てちょうだい。あの部屋なら雑魚寝できてエアコン代も節約できるわね。
男の子が奥の部屋使ってね。女の子は、体冷やさないように何かかけて寝るのよ」
私達は荷物の中からバスタオルを1枚ずつ取り出すと和室へ行った。
部屋に入ると、あっという間に眠ってしまった。夢に雅さんがでてきたような気がした。
玲奈に起こされた。健人くん達もまだ寝ていたようで玲奈に起こされている。「あーよく寝た」とか「今何時?」とかきこえてくる。
私も時間を確認する。2時間半も経っていた。皆で急いで部屋を整えて慌てて下に行った。
「よく眠れたみたいね。掃除は三人で終わらせたからいいわよ」
「さぁ、帰りましょう。忘れ物無いかよく確認して」
もう一度部屋を確認して回る。廊下で雅さんと一緒になった。夢に出てきたかもって思い出したら照れくさくなってしまった。
私のこの状態って、雅さんから見たら感じ悪いかなって気になってしまい、「ふぅーっ」と大きく息を吐き深呼吸をして、気持ちを落ち着かせた。
落ち着いて改めて雅さんをみると、いつもの大人な感じの余裕やイタズラめいた感じがなく、ソワソワと落ち着きがない。気のせいかもしれないけど、心なしか顔が赤い気がする。
疲れが出てきて熱がある?気になってしまい、雅さんを見つめる。
「あ~、奈央ごめん。あんまり見ないで」
顔を背けられてしまった。ちょっとショックだ。でも、益々顔が赤くなった気がする。
「雅さん、熱でもあるんですか?顔赤いです。大丈夫ですか?」
「違う違う、熱ないから。大丈夫だから」
そう言われても気になって離れられない。あっちに行けという様に手を振っている。追い払われるのが悲しくて涙がにじんでくる。
動けないでいる私に苛立ってしまったのか、「ああ、クソっ」と小さな声で言うのがきこえてしまった。その声ににじんでいた涙は粒になって流れ落ちた。
「ごめん…なさい」
なんとか声をしぼりだして謝罪の言葉をだした。雅さんが大きな溜息をついた。「ごめん」そう呟くように言った声がきこえると、私は抱きしめられていた。
すごくドキドキする。驚いたけど、嫌われたわけではないと感じて安心もした。
どうして雅さんに嫌われることがこんなに怖いんだろう。どうしてこの人の言動に心が揺さぶられるのだろう。
しばらく、ぎゅっと私を抱きしめていた雅さんだったが、大きく息を吐き出すと更に強くぎゅっと抱いた。
また「ごめん」と言って私の目の端に唇をつけた。そして、私の唇にギリギリ届かない所にも唇をつけてきた。
切なそうな顔をしているけど、どこかスッキリとした様にもみえた。
私は漸く、自分の気持ちと雅さんの気持ちと本気で向き合わなくてはならないと覚悟を決めた。
「もう少しだけ待って下さい」
気持ちや意味が正確に伝わったかどうかわからなかったけど、それだけ言った。
「うん、待ってるよ」という返事があった。二人で並んで皆の所に戻った。
帰りは、健人くんは藤沢家の車で送り、玲奈と夕菜ちゃんはうちの車で送る事になったので、ここで解散することになった。
たった1泊2日だったけど、すごく楽しくて、本当に色々あった時間だった。
恭子さんとお母さんに感謝を述べる。
「私も楽しかったからいいのよー♪」
「そうね。亭主抜きっていうのも良いものでしたね」
こうして海水浴は無事に終わった。
恭子さんからもらった下着についてだが、恭子さんは下着メーカーに勤めているそうだ。予想だが、そこそこの地位に就いているのだろう。
勿論、お母さんも恭子さんから一組もらっていて、Tシャツの首を引っ張って「ほら」と上から覗けと見せてくれた。
「お母さん、これはお父さんに見せて下さい」
娘から言えるのはそれ位だ。




