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藤沢和維3

場の空気が凍った。

凍らせたのは、今まで誰よりもピンクオーラを放っていたミヤ兄だ。

奈央さんをみると、隠しているつもりだろうけど動揺している。不安そうだ。

健人と翔兄が場を明るくしようと頑張っている。その役目は俺には向いてないので、健人達に任せておく。

香織さんは心配そうな表情を浮かべたけど本人達に任せると決めたみたいで、いつも通りに戻った。

母さんは呆れた顔をしてミヤ兄を見ている。

…母さんは何か知ってる?ミヤ兄の方に原因があるのか?

母さんと目が合う。携帯を取り出して俺に向けて振るとエプロンのポケットにしまった。

…電話をする?メールをする?どういう意味だ?わからん。


台所へ行った母さんが戻ってこない。

玲奈がデジカメを出して俺達の黒歴史を公開した。これで奈央さんが少しは元気になるならと、諦めて笑われ役になる。

俺は『なんて友達想いのいいヤツなんだ』と心の中で自画自賛した。


餃子を焼き始めるとメールが届いているのに気付いた。母さんからだった。



『件名//ゴメン。お母さんやっちゃった』


タイトルを見て顔がひきつる。本文を読む。


『本文//雅のアレ、お母さんが原因作っちゃったと思うの。

多分、雅、ヤキモチ焼いているのよ。

ナオちゃん彼氏いたことあるみたいなの。

ナオちゃんに八つ当たりなんて、まだまだコドモね。ウフッ★後はお願いね』


何が『後はお願いね』だ。『ウフッ★』が超ムカつく。

俺は『了解』とだけ打って返信した。




ミヤ兄が席を離れてから戻ってこない。追いかけようとする奈央さんを留め置いて、俺が行った。




ミヤ兄が泊まる部屋をノックする。返事はない。でもドアを開けてみる。

ミヤ兄が畳の上で座布団の二つ折りを枕にして寝ていた。


「ミヤ兄」

「何?」


眠っているわけではないみたいだ。ズンズンと近付く。振り回されるのに腹が立っていた俺は、枕にしている座布団を蹴った。


「~~!何すんだ、よっ!」


枕にしていた座布団を投げつけてきた。俺はその座布団を受け止めると、それを敷いてあぐらをかいた。ミヤ兄は、酒が入っている上に相手が俺なので苛立ちを隠そうともしない。カリカリ音がしそうだ。


「んだよ。お前ムカつくなぁ」

「ムカつくのはミヤ兄だよ。奈央さん無理してたじゃん。健人達だって、ミヤ兄に気を遣っていただろ」

「何言ってんの?奈央ちゃんお前達と楽しそうにしてたじゃん」


奈央さんの事は否定したけど、気を遣われていたのは気付いていたようだ。そりゃそうか。本当は奈央さんの事だって気付いていたんだろう。

いや違うな。俺達は目に入ってなかっただけか。離れてみたけど気が気でなかったと。


「頭冷やせば?大人げないよ」

「たかだか20才やそこらの学生なんて大人じゃないんだよ」


すました表情が剥げきって子供みたいになっている。

ミヤ兄の頭にチョップした。手加減無しだ。俺の手が痛い。


「~っ!!」


効いたらしく、涙目で俺を見てくる。でも反撃はしてこない。


「ミヤ兄だってさ彼女いたことあるじゃん。ミヤ兄なんて、とっかえひっかえだった事だってあるじゃん。

自分のことは置いといて、どの程度の付き合いだったかも分かんない元彼に嫉妬するなんてアホくさ。それで自分の好きな女に当たるなんてバカじゃないの?」


俺は続ける。


「ミヤ兄。奈央さんさ、見た目は大人っぽいけど、俺や健人と同じ、まだ15・6才の高校生なんだせ?しかもまだ恋人ですらないんだろ?

それなのに苛立ちぶつけてさ。何甘えてんの?勘違いしてるんじゃない?

俺達だって受け止められる程大人じゃないんだよ」


思うところがあるのか黙ってきいている。


「早く頭冷やして謝らないと嫌われるかもね。奈央さんモテるから、ミヤ兄以外を選ぶかもよ」

「知ってる。告白されているところ、何度も見た事あるし。男と腕組んで歩いているところも見た事ある」


俺は驚いた。前から知り合いだったのか?顔に出ていたのだろうか。


「見た事があるだけだよ。回数みかければ顔くらい覚えるだろ?

話したのはDVDの時が初めてだよ」


ミヤ兄は座り直して壁に寄り掛かった。


「奈央ちゃんは付き合った男とあんな事やこんな事したのかなぁとか。

そんなのを勝手に想像して腹立てるなんて、ホント情けないと思うよ。

でもさー、ほっぺにチュッとかしても恥ずかしがるだけで嫌がらないんだよね。耳舐められてビクッとかする姿みたらムラムラするし。

早くオレのこと好きだと言えって思うんだけど…言わないし。

和維達は学校始まれば、毎日一緒だろ。

オレは会えないじゃん。お前達羨ましすぎ。

他の男が言い寄る事とか考えると焦るんだよ」


俺の頭の中にビックリマークが10個並んだ。


「ミヤ兄!奈央さんに何やっちゃってるんだよ。そんな事してたのかよ」


うなだれているミヤ兄に再びチョップする。今度は軽くだ。


「とりあえずさ、話して少しは頭冷えただろ。ちゃんと謝れよ。

それから、香織さんの躾と玲奈の守りで、奈央さんの身持ち固いと思うぜ。

そ・れ・と!香織さんと玲奈にさっきのチューや耳の話、他にも言えない事してんだろ。そういう話は絶対にするなよ。

あと、ミヤ兄キムチクサい。歯に唐辛子と青海苔付いてるから、歯磨きしてから来いよ」


俺は部屋を出ようと立ち上がる。歯磨きセットを持ったミヤ兄が隣りをすり抜けた。あっという間に廊下を走って階段を駆け降りて行った。

2階の洗面台を使えばいいのに。


「俺の方が大人なんじゃね?」


と言葉がでたが、否定されない気がした。

俺も玲奈と共にガードにまわった方が良いだろうと思ったのは当然である。

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