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続19話. 藤沢奈央です

最終話です。

聞き飽きている雅さんは苦笑するけど、やっぱり転機はあのクリスマスだと思う。

私の壁はあれを機に少しずつ薄くなっていったと思うから。


時間が経って、経験を重ね、多くの人と交流することで新たな発見を得る。

臆病だった。

人を信用する事ができなかった。

裏切られることが怖かったのだろう。

お兄ちゃん程じゃないけど、自分の中の型からはみ出す人と物事を理解しようとすることが困難だった。

認める事が出来る様になったことはは大きい。


でも、どれもあの頃から少しずつ変化していったと思う。

私はそう感じている。


理解を超えた時、「そういうモノ」であるという風に自分の中に設置した。

人はそれを私が「理解し受け入れた」と判断していたのも分かっていた。


私が雅さんと付き合い、お兄ちゃんと藤沢家の付き合いが深まり、私が影響を受けた様にお兄ちゃんも影響を受け変化をしている。

私と似ているから当然の事であるのかもしれない。


そういえば、たい焼きを食べる時、私とお兄ちゃんは二つに割ってから尾側を先に食べていたが、ある日気が付いたら二人とも割らずに尾にかぶりついていた。お互いが影響し合ったのか知らず知らず真似ていたのか、その事に気付いた時、二人で大笑いした。雅さんと同じくらい私に理解があるのは海斗お兄ちゃん。お兄ちゃんが女性だったら雅さんを取り合う敵だったかもしれないなんて思うこともある。…口に出したら二人共ドン引きするだろうから絶対言わないけど。

 

こんな風に、私達夫婦も各々影響を与え合っていることを実感しながら成長していくのだろう。







私と雅さんの携帯電話はスマートフォンに変わっている。

あの時のネコは色褪せる事もほつれることもなく買った日そのままの状態で一緒に有る。その不思議については、始めからそうだったのであるから今更気にならない。

あの日手に入れたイチョウも朽ちることなく在る。




私の次に結婚したのは健人くんだった。皆心から祝福していたけど、私から見たら健人くんとは何か釣り合わず心配だった。さり気なく考え直す事を勧めたが決意は変わらなかった。

最終的にはおめでとうを伝えたけど、同時に「思っている以上に苦労するよ。覚悟してね」と添えた。

それに対して「やだなぁ、そんな先輩風吹かして。大丈夫だって。あ、もう倦怠期?」なんて軽く返されたけど、心配した通り数年で夫婦生活は破綻した。

結局、この時までに健人くんにイチョウの栞のお守りを渡そうと思うことは無かった。




健人くんの後、玲奈にも結婚を意識する相手が現れた。

彼だ!と思った。私は迷わずお守りをあげた。幸せが続く姿が目に浮かんだ。ピンク色が二人を覆っている様に見えた。所謂、幸せオーラってやつだ。

二人の姿は自分の事のように嬉しくて。


「奈央にも認めてもらえた!ありがとう、あたしも奈央に負けないくらい幸せであり続ける!!」

「僕と玲奈を今後とも宜しく」

「はい、勿論!私と雅さんの事もよろしくお願いします」


そうして二人は結婚式も無事に終え新婚生活を送っていた。そんな中、何だか三人目を身ごもる私を不安が襲う。

不安について問うと雅さんも和維くんも同様に心がざわついた。

その頃健人くんは奥さんと上手くいかなくなっていて離婚届を出し、引っ越し支度に追われていた。


悪い予感がする。でも、何が?どこで?分からない。

新婚さんの邪魔しちゃ悪いと思いつつも四人で玲奈の元へ押し掛けた。


「ヤッホー!いらっしゃい。まだまだラブラブな我が家へようこそ」


二人で明るく出迎えてくれた。ここじゃない?違うならいい。

話が弾む。でも、やっぱり拭えない不安が私を襲う。…虫の知らせ?


「奈央?なんか元気ないね。っていうか、皆、ちょっと変?何かあったなら言ってよね」


明るく朗らかな玲奈に笑顔を返す。


「奈央のお腹も目立ってきたね。奈央がお母さんの先輩になるなんて。あたしも欲しいなぁ。いつできるかなぁ。でも、二人での生活も楽しくて幸せだし。あたしがママになったら奈央先輩、色々教えてください!」

「私もまだまだ未熟ですが先輩ママとして助言できることはするね」

「うん!」


何だろう。見えない気付けない何か。


「玲奈は最近どう?」

「どうって?」


私達の会話に男性陣も耳を傾けている。

代表して思い切って切り出す。


「何もないならいいんだけど、ちょっとなんていうか、不安にかられるっていうか心が落ち着かないというか、悪い予感?がするっていうか」

「マタニティブルーなんじゃない?魔王サマ!あたしの奈央を不安になんてさせないでくださいね。もうっ」

「いやいや、そうじゃないから。その辺は心配しないで任せて」

「うん、違うから。俺達揃ってそういう感じがしていたから誰かに…っていうか玲奈に何かあったんじゃないかって心配で来てみたんだよ」

「そ。だから、何も無いならそれでいいんだ。ってことで、大丈夫なんじゃね?」

「かなぁ?…どう思う?気のせいならいいんだけど、まぁ、それなりに用心していれば平気なのかな?」


この中で一番年上である玲奈の旦那さんが優しい声で伝えてくれた。


「玲奈の友達は思いやりがあるなぁ。いい友達持ったな。そんな奥さんを持てた僕も幸せものだなぁ」

「あたしの奈央は素敵でしょ」

「俺だって素敵だろ!」

「自分で素敵って…恥ずかしくないのか?」

「ノリだよ、ノ!リ!」

「相変わらずねぇ」

「だな」

「うっせ!」

「健人、汚い言葉遣いは胎教に悪そうだからやめてね」

「…ハイ、魔王サマ」

「君達さぁ、いい加減、オレを魔王サマって呼ぶのやめてくんない?子供達の前でそう呼んだら…解ってるよね?」

「「ハイ」」


小さくなる二人に皆が笑った。


「玲奈の友達は明るくて心強いなぁ。頼りにするよ」

「おい、玲奈!もう頼られることが決まっているのか?」

「いいじゃない。何か?健人も和維も独身だし融通きくでしょう?」

「玲奈が甘やかされて女王サマみたいに偉そうだ」

「だな」


皆の笑いに紛れて旦那さんが言った。


「うん、大丈夫だ。奈央さん、これからも玲奈を宜しく頼みます」

「ええ、勿論」

「玲奈は一人じゃない。…笑顔が輝いているでしょう?」

「すっごい惚気でしょうか?」

「君達ほどではないでしょう。僕の方が随分と年上だ。どうしても先に逝ってしまう。でも君達がいるから安心できます」

「たった10歳の差でしょう?」

「たった、と言ってくれますか。ありがとう」

「玲奈を一人にしないで下さい」

「ええ、勿論。約束しますよ」


玲奈と健人くんと和維くんは変わらず三人で騒いでいる。旦那さんと私と雅さんはどこかしんみりとその様子を見ていた。



臨月にはいる頃、その知らせが届く。



真っ青な顔をしている玲奈と家族。


即死だったそうだ。


悲痛な叫び声。すすり泣く音。


打ち合わせ先の会社にもうすぐ着くという所で車同士の事故で片方の車がスピンしながら旦那さんに衝突したそうだ。背を向けていたので気付く事も避けることも出来なかったそうだ。

それでも咄嗟に頭を守ろうとしたらしく顔はきれいなままで、眠っているといわれればそう思ってしまいそうだった。

普段は社用車で行くのだが、その日に限って全て出払っていてバスでの移動だった。車だったら出遭わなかったであろう事故だった。


悪い予感はこれだったのか。


亡骸に縋りつき泣きじゃくる玲奈の横に寄り添うことしか出来なかった。





月日が流れる。

玲奈は「片桐玲奈」に戻り実家住まいだ。あまりに憔悴してしまった玲奈は実家に戻された。まだ若いからやり直しなさいと、幼子のように嫌だとだだをこねるのを向こうのご両親が半ば強引に。それがあちらの愛情であることは誰の目にも明らかだった。


「愛してくれてありがとう。玲奈さん、忘れなさいとはは言いません。むしろ忘れないでやってください。でも、前を向いて立ち上がりなさい。新しい恋をして、幸せにおなりなさい。いつかあなたの子を見せてちょうだい。籍は抜けても娘同様なのは変わらないから」


そんな風に送り出してくれたと泣き笑いの顔で教えてくれた。


子育てで忙しい私に代わって寄り添う時間が長かったのは健人くんだった。


元々気が合い、魂が欠けてしまったもの同士の二人が恋愛状態に変わるのは早かった。

ある夜、夢を見る。

小さな子が私にお願いをしてきた。


「すいませんが、玲奈ママのお腹に入りますので、早く健人パパにプロポーズさせて結婚させて下さい。許しを得てからじゃないとママが罪悪感で不安定になってしまいます」

「妊娠したから結婚しますじゃダメってことね?」

「はい」

「亡くなった旦那さんとの間に生まれる予定だった?」

「はい。あの時本来は」

「うん、わかったよ」

「ありがとうございます。お願いします」


元々玲奈と健人くんの二人は赤い糸で繋がっていなかったと思う。

でも、新しくご縁ができた。

私は健人くんにイチョウのお守りを渡し、尻を叩く。

その日のうちに全て用意し、翌日にはプロポーズさせた。ムードがとか言い訳が酷かったが黙らせて決行させた。

その後の最初の休日に片桐家にご挨拶。そしてトントンと運び。

妊娠が分かる前に入籍することができた。

胸をなでおろす。

二人共再婚なので、身内と極親しい者だけでお祝いを行った。

バタバタしていたから月経が遅れていたと思っていた玲奈が妊娠に気付いたのは日を改めて撮った二人だけの記念写真が出来上がった後。



◇◆◇


おばあちゃん先生は私がどうしても駄目な時、風邪とか学校行事とか。そういう時だけ指導している。

幸いな事に私達と玲奈達だけでなく、藤沢家も井上家も子宝に恵まれた。

私達は二人目が生まれた後、藤沢家に入っている。

恭子さんが孫娘を可愛がりたいと仕事を辞めた。恭子さんは仕事が大好きで、産休明けで仕事復帰する時は家族に「私が仕事をしたいので許してください。ご迷惑をおかけしますが家族みんなの協力をお願いします」と頭を下げる。そこまで仕事が好きなのに「孫娘」が生まれたら辞めたのだ。

その恭子さんは勿論、薙くんがお兄ちゃんのように可愛がって面倒を見てくれている。


なので、私も甘えさせて貰い仕事を続けている。


大人の夜の部は週1回だ。あとは平日の午後、土曜日だけで主婦としては働きやすくて助かっている。


スマホのアラームが鳴った。

今日は今年度生が初めて揃う日だ。後はそれぞれ都合の良い日が選ばれる。

ここは私が幼い頃から小学二年生からしか受け入れていない。だから、今日来る子達の殆どが小二だ。

わくわくと緊張と興奮と。様々な表情に頬が緩む。


「はい、静かにしましょうね」


私の声で注目が集まる。


「皆さんこんにちは。私がここで指導している藤沢奈央です」

「あ~!瑠奈ちゃんのママだ!」

「薙さまのお姉ちゃまだよ!」

「マオーヒだってレイレイとケンケンが言ってたよ?」

「マオーヒって何?」


…おい!!!

すっかり騒がしくなった教室。

お母さん直伝、背中に般若を背負う。


「藤沢先生でも奈央先生でも、呼びやすい方で呼んで下さいね」


藤沢奈央の人生は充実しています!


「まだ携帯電話は要りません」完結です。

ここまで読んで下さりありがとうございました。


和維は湯川先生の長女と結婚します。

玲奈と健人はくっつけない予定でしたが、こうしました。


もう続編の予定はありません。

気になる所は想像で補ってくださいませ。


最後までお読み下さり、本当にありがとうございました。



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