第39話 港湾都市ダイコウ
お待たせしました、完結まで毎日更新!
どうか最後までお付き合いくださいませ。
「見えてきたね」
鼻に感じるのは漂う潮の香り。
港湾都市ダイコウ…アルファベットのCの様な形に連なる山脈に囲まれた盆地。
そしてCの開いた部分には、大きな港が広がる。
そこから豊富な海産資源に加え、異国の物が入ってくるそうだ。
長い身分確認待ちの行列の果てに…
「ようこそダイコウへ!」
俺たち4人は門を潜るのだった。
「活気がありますね」
「うんうん…祭りでもやってるのかなって感じ」
「ダイコウは昔からこんな感じだぜ?」
確かに人は多い…流石に竜王祭の時の決闘都市ズィッペリンほどではないけども。
でも久しぶりの潮の香りや、異国情緒溢れる…例えばターバンを巻いた人だったり、ミーアキャットみたいな動物を肩に乗せた人だったり。
そんな人達はズィッペリンでは見かけなかった。
やっぱりこういう異文化共生がダイコウの魅力なんだろうか。
実際屋台一つとっても、メニューが全然違うし。
あの店なんか黒焼きにされたヤモリみたいなのがぶら下がってるし…黒魔術にでも使うのか?
バラエティで海外の市場が紹介されたりしてたけど、まさにあんな感じだ。
見た事ない魚が…果物が、山の様に盛られている。
「おいおい、ねぎまもあんじゃねえか!
ダンっ!買ってくれ!」
急にテンションの上がったステラが、こちらの襟をぐいぐい引っ張ってくる。
確かに、彼女の視線の先には串焼き屋があった。
…鶏肉じゃなくて、白身魚に見えるけどあれもねぎまって言うのか?
ちょっと怪しい気もするけど、このままだとこちらの襟が伸び切ってしまう。
「らっしゃい!」
「え〜っと…ラギャン?のねぎま4本で」
「あいよっ!銅貨20枚だ」
そうして代金を支払うと、4本の串が炎の上へと置かれる。
じんわりとその熱は串へ伝わっていき、肉汁が浮き出てはポタンと炭へ消えていく。
その光景をルシェとステラは齧りつく様に見ていた。
「…2人もいると、大変ですね」
後ろでやれやれと言う様なジェスチャーと共に首を振るのはセフィ。
とはいっても、彼女の目線もそちらへ向けられているのは内緒だ。
最後にパラパラと塩が振り掛けられ…
「お待ちどうさん!」
「ありがとうございます」
そうして俺は片手に2本ずつ持ち店を後にする。
ステラに、ルシェに、セフィに…そして俺にとしっかり全員分ある。
順番に配っていったところで、
「いただきます」
勢いよくかぶりつくのだ。
パリッと音を立てるのは白身魚の皮。
炭火によって炙られたそこは、噛むたびに小気味良い音と共にジューシーな肉汁を漏らす。
そんな口の中に、少しだけ辛いネギの緑色部分がいいアクセントを与えてくる。
そう長々語ったけども…
「美味いねぇ〜これっ!」
「魚でもおいしいんですね」
「この街のねぎまは魚なのは知ってたが…ラギャンは初めて食べたな!」
俺も3人の感想と大体同じ。
これは…美味しい!
鶏肉よりはちょっとだけお高めではあるけど、全然出せてしまう。
日本支店を出してもやっていけるクオリティだ。
だけどもバクバク食っていると、あっという間に無くなってしまう。
正直美味いけど、流石にこれ一本だけではお腹は満たされない。
おかわりは…一回したら止まらなくなりそうだしやめておこう。
そうして俺たちの手に握られた空の串はセフィに回収されていく。
…とはいっても、これで終わりはもったいない。
ここには、まだ見た事ない食べ物がいっぱいあるんだしさ。
「じゃあ、他も見て回ろっか?」
そう言いながら後ろへ振り返る。
「おうよっ!」
「ダン…わかってるじゃん!」
「はあ…まあ、今日ぐらいはいいでしょう」
目をキラキラさせた2人と、顔に手を当てやれやれという表情を浮かべた1人。
そんな3人を引き連れ、食い倒れツアーが始まったのだ!
「おい、馬車が通るぞっ!」
「なんだ、なんだ?」
そんな声がかけられ、道を埋め尽くしていた人集りが端へと寄っていく。
俺はそんな光景を、口の中いっぱいに唐揚げを頬張ったまま見ていた。
4人とも…多分おんなじ感じだ。
そして集団も全員右を向いているので、そちらへと首を向ける。
するとその方向には金ピカに光る馬車がゆっくりと動いているのが見えた。
…流石に趣味悪くない?
声に出したらやばいから、言わないけど。
傷がついたら…とんでもない額が吹き飛んでいきそう。
そんな代物をここを通るのだから普段使いしている人間、きっと恐ろしい人だ。
俺の妄想の中では成金の太ったおっさんがワインを片手に、絶世の美女達を侍らせている光景が浮かんでいる。
…まあ、全く見えないしあくまで想像なんだけどね。
でもあの馬車を使う様な人だし、そこまで外れていなさそうだけど。
そんな下世話な会話はこの通り中で起こっていた。
処罰は別にされてないし…いいのかな?
どうやら寛大ではあるらしい。
もぐもぐと口を動かしながら、俺は祭の神輿を見るぐらいの軽い気分で見ていた。
見ていたのだけど…
「止まれ」
「はっ、はい?」
御者をしていた執事のような老人が手綱を引き、その馬車を止める。
気のせいでなければ、中から聞こえたはず。
それに女性の…声?
「おい、止まったぞ?」
「なんかこの辺あったっけ?」
「う〜ん…屋台しかないが?」
ザワザワとした話し声は増すばかり。
そんな中、カランッと音を立てて馬車の扉が開く。
妙に静かになった通りに、
カツンッ…
そんな地面と触れたヒールが音を鳴らす。
姿を現わしたのは赤いドレスを身に纏った女性。
首にはフワフワした、成人式ぐらいしか見た事ないマフラーの様なものを巻いている。
そして何よりも?目につくのはギラギラの光。
その正体は…宝石だ、それも色とりどりで大粒の。
指輪やネックレス、腕輪なんかが光り輝き、それを受けるこちらはまるで夜闇の中、車のライトに照らされてる様な眩しさを受ける。
港湾都市という光を一新に受ける立地のせいもあるだろうけど。
つい眩し過ぎて腕で目を隠してしまう。
そうしてその間も、カツンカツンとヒールの音が聞こえてくる。
じゃあどこかに向かってるのか?そう思いながら、腕をゆっくりと下ろす。
すると……彼女と目があった。
切れ長の目に高い鼻、第一印象はクールビューティーな印象を受ける。
でもそれと彼女の格好は全くマッチしない。
…なんかこっちに来てない?
いや、流石に自意識過剰か…
「いえ、先ほどから彼女の目はダンさんを捉えています」
「…というか、さあ」
「俺の…同族だな」
やっぱ間違ってないよね!?
それにステラの同族って…もしかして、
魔女か。
そうして人の波は左右に分かれ、俺と彼女の一対一となる。
「…何か私にご用でしょうか?」
俺は先に挨拶をすることにした。
それを受けて彼女の規則正しい足音が止まる。
ヒールのお陰で少しだけ見上げるぐらいの身長差。
「ああ、君に用があるんだ」
優雅で、風鈴が鳴った様な涼やかな声。
逆ナンだったら喜んでっ!って感じだけど…今はヒヤリとした汗が頰を伝う。
「ダンさん、ふざけてないで戦闘準備してください」
「天魔融合はいつでも使える様にしておくから」
そして…流れる様に彼女の体が懐に入ってきた。
しまった、なんてことを思っている間に彼女の手は伸びてくる。
その手は…
「私の目からは逃れられないよ。
君の…中に着ているこのシャツ、とんでもない値打ちだろう」
俺の服を勢い良く捲り上げ、公衆の面前へとシャツが公開される。
無地の黒色のシャツ。
それは冬場に大活躍する、日本人の殆どが持っているだろう…ユニク◯のヒ◯トテックである。
そんな馬鹿みたいな出会い、それが…強欲の魔女ヤオとの出会いだった。




