第22話 自分へ全額betで
「…なんとなく分かりましたけど、本当にやるんですか?」
「それは…最ッ高に面白いね!
でもダンがそんな冒険するタイプには見えなかったけどなあ?」
2人の評判は正反対だ。
そう、だって負ければどうせ終わり…なら、全額自分に賭けても良くない?という発想で賭けに参加しようとしていた。
別にギャンブルはそんなにしてこなかったけど、ちょっと面白そうだ。
「…やってもいい?」
「良いですよ、でも私は知りませんからね?」
「私はもちろんオッケー!人が破滅するところは…面白いからね!」
…負ける前提なの!?
それが原因で出し渋られるなら、やめとこうかな…。
「大丈夫大丈夫、それはしないから。
でも、今までよりはトリッキーな力だからさ、引き出せないと負けるし…心配してるよ?」
う〜ん…じゃあ、せっかくだしやる?
これで破滅したら、馬鹿すぎるけどね…
「あの、すみません」
「おう、なんだ?
午前の部の賭けは終わってるし、換金は試合が終わってからだぞ」
そんな親切な、賭博のチケットを売っているおじさんへ話しかける。
「いえ、午後の部を買いたいのですが…」
「ああ、もう出来るぜ。 それで誰を買うんだ?『破壊王』のラグナか、それとも『魔弓』のアンデルか?」
買えるみたいだけど…誰、この人達?
なんか強そうな二つ名持ちが出てきたけど、有名人なんだろうか?
「その人達って…誰ですか?」
「おいおい、知らないのか!?
ラグナは自分と同じぐらいのサイズのハルバードを背負った大男だ。
しかも、297回竜王祭でTop8だぜ!?」
「アンデルは、後衛やのに予選を十年連続抜けている猛者や。
コイツは、強さを純粋に比べたら他の選手より遅れを取るだろうが…予選は抜ける。
だから賭けの対象と見た時、一番人気になりやすいんや」
「なるほど…それで貴方は?」
いや、思ったよりおじさんに熱く語りかけられる。
でもそれに負けないぐらいの熱を持ったお爺さんに横から話しかけられたのだ。
「儂はジャグラ、この竜王祭の賭けだけで六十年生きてるもんや」
「あれジャグ爺、試合は見ないのか?」
「ああ、あの試合はもう良い。
ドルンを手にかけれる者はもう残っとらんからな」
そんな賭博の取引所でフランクに2人は喋っていた。
どうやら闘技場の名物爺さんみたいだ。
でも確かに、六十年これだけで飯食ってたら、有名にもなるか。
「そいで、お前さんは誰に賭けるんじゃ?
特別に、儂が見てやろう」
「え〜とですね、まずルール的に出場者が自分に賭けるって出来ますか?」
「ああ、出来るが…お前出場者だったのか!」
「それは、見えんかったな…」
…泣いても良いですか?
でも確かにヒョロヒョロで筋肉も見えない。
見た目だけだったら、道中に見かけた八百屋のおっちゃんの方が強そうだったし…。
「まあ自分に賭ける奴は結構いるぞ。
ただ、勝ってる奴は見た事ないな」
「そうなんですか?」
勝てそうなら、むしろやった方が美味しそうだけど?
銀貨10枚は美味しいけど、そういう人からしたら物足りなさそうだし。
だから勝ち数的には、トントンか…強者は金を持ってるし額的には勝ちになりそうだけど。
「そうやなあ…だから縁起が悪いってんで予選を抜けれそうな奴らもやらんからな」
「なるほど…」
確かに、縁起を重視したくもなるか。
だって運要素も多少なりともあるんだしさ。
…賭けてる奴を妬んで、狙う奴がいっぱいいるから失敗するとかだったりして。
この推察は忘れよう…。
「まあ良いだろ、記念に買ってけ!」
「ちなみに、金額制限ってあります?」
「いや、ないぞ。
好きなだけ…なんなら有り金全部賭けても良いぞ」
…なんか、挑発でもされてるのかな?
まあ確かに、こんな事するの初出場者だけだろうしね。
怒ってはないけど…少しだけイタズラ心も湧く。
別に全財産の半分ぐらいで良いかなんて思ってたけど、
「じゃあこれ全部86番ダンにお願いします」
「おお、本当に有り金全部いく気か?
中々度胸があるな…きんっっ!?」
ドンっと、硬貨の入った袋をテーブルへと置く。
最初はニヤニヤとしていた男も、開いた瞬間叫び声を上げる。
一応まだコロシアムの歓声が上がっているから、かき消えたけども。
そしたら彼は真面目な顔になり、カウンター越しに静かな声で、
「…おい、このお金どこで手に入れたんだ。
まさか…やったのか?」
そんな言葉を低いトーンで話してくる。
「……いやいや、違いますから!
それに盗みだったら大会にも出ませんし、そんなお金を賭けに使いませんよ!」
「はあ……それもそうだな。
俺が悪かったよ、ごめんな」
どうやらその説明で納得してくれたみたいだ。
確かに、こんな大金ポンポン見せてはいけなかった。
金貨が確か53枚…ざっくり日本円にして5300万円という、家が建つレベルの金額だしさ。
持ち歩く方もここまでいくと結構怖いのだ。
「それにしても…お主、どうやって稼いだんじゃ?」
受付のおじさんが数えている間、ジャグラというお爺さんが喋りかけてきた。
「それは…秘密です。
これから試合もありますし。
カラゴ市もここから近いし、少ししたら俺が言わなくても情報来そうだけどね。
でも俺が言わなきゃ、その情報と俺とが結びつかないはず…。
「まっ、それが正しいだろうな。
ほら86番ダンに金貨53枚分賭けといたぞ」
「ありがとうございます」
そうして手続きされた物を受け取る。
その木片の表面に賭けた金額と選手名…そして裏を見ると、冒険者のタグに付いていた様な偽造防止の模様が入っていた。
これが金貨53枚…ちょっと手が震えてきたかも。
絶対に無くさない様、慎重にカバンへとしまう。
「…儂も銀貨1枚買おう」
「おっ、ジャグ爺は誰を買うんだ」
「此奴の番号に銀貨1枚」
そうして立ち去ろうとした所で、そんな言葉が聞こえてしまっては足も止めてしまう。
「…良いんですか、俺にかけても?」
銀貨1枚、別に決して安い金額ではない。
金貨を賭けすぎて頭がおかしくなっているけど、ポンと出すには中々だ。
それに彼らも言っていた様に見た目は強そうじゃないし…。
「ああ、お前さんの心の奥底では負けない自信を持っておるだろ?
それに賭けさせて貰おう」
……当たり。
いや、自分の実力でという訳ではなく、最悪天魔融合すれば勝てるよね?とは思っている。
ただピンチの時、本当に貸してくれるかは知らないけどさ。
『試合終了〜〜!!』
あっ、もう終わったみたいだ。
遅刻しない様に向かわないと…
「では、失礼しますね」
「ああ、頑張ってこいよ!命は大事にな」
「そうじゃな、生きておればまた来年もあるのじゃから」
確かに命は大事だし、肝に銘じておこう。
そうして俺は小走りで、控え室へ向かう階段を降りていくのだった。




