14.side「戦神の鐘」
こんにちは。
久しぶりに書こうと思います。
誤字脱字が酷かったので、2025年11月1日に1話から13話まで修正しました。
夕方。
太陽が西の地平線へと沈みかけ、街に長い影が伸びる。
魔力街灯がぽつり、ぽつりと灯り始め、やがて緑色の柔らかな光が街を包んでいった。
光の帯に照らされる高層ビル群の中に、ひときわ巨大な建造物がそびえている。
まるで「ここが王だ」と言わんばかりの存在感。
それが――
大手ハンターギルドの一つ、【戦神の鐘】本部であった。
空八の考える「日本四大ギルド」といえば、
一つ、【赫聖の羽】。
二つ、【常世の鯨】。
三つ、【呪鹿の印】。
そして最後が、この【戦神の鐘】である。
戦神の鐘は、前ギルト長が15年前に行方不明になったときから、悪い方向に流れてしまった。
ちなみに、その前ギルド長は空八が考えた物語の主人公である。
――さて、その「戦神の鐘」の会議室では。
まるで結界の中のように静まり返っていた。
窓の外では、魔力街灯の緑光がゆっくりと瞬いている。
それが、円卓に並ぶ七つの顔を照らし出していた。
誰もが無表情。だが、沈黙の奥で思考が蠢いているのが分かる。
(……息苦しい)
祇園彩は、背筋を正したまま、指先にわずかな震えを感じていた。
彼女はこの“鐘の七音”の中でも最年少。
戦闘能力はAランク級だが、ギルド内ではまだ“子供扱い”だ。
――だが、それでも言わなければ。
「……仮面の騎士は、敵ではありません。
彼は確かに、私たちを――私を助けてくれたんです」
その声が会議室に落ちた瞬間、重い空気が一層濃くなる。
「助けた、ねぇ」
鼻で笑ったのは、情報局長の真木。
「それが“演出”じゃない保証はどこにある? 君は情に流されすぎだ、祇園」
「演出? 命を張ってまで、そんなこと……!」
「君は知らんのか? “敵を救うことほど、信頼を得る近道はない”ってな」
彩は唇を噛んだ。
確かに、そういう手口はある。
だが――あの時、彼の剣は確かに“優しさ”を帯びていた。
冷徹な殺意ではなく、守るための力。
あれを偽りだなんて、私は信じたくなかった。
「――感情論では判断できん」
低い声が響く。
ギルドマスター、桐嶺宗真。
年齢不詳の男。まるで全ての戦場を俯瞰しているような眼。
「仮面の男の存在は、ギルドの均衡を崩す恐れがある。
赫聖の羽、常世の鯨、呪鹿の印――どの組織も、彼を“先に抱き込む”つもりだろう」
「……抱き込む、ですか?」
「そうだ。力を持つ者は、すぐに“資源”になる」
彩は背筋を震わせた。
“人”ではなく、“資源”――
その言葉に、彼の価値観の冷たさを改めて感じる。
(どうして、こんな人が“戦神の鐘”を……)
ふと、思考が漏れそうになった瞬間、桐嶺がゆっくりと視線を向けてきた。
「祇園。君は現場の責任者だ。……仮面の男を再び見つけたら、必ず報告しろ」
「……報告、ですか? でも、もし彼が――」
「違う動きをした場合は、“保護”ではなく“拘束”だ」
(拘束……?)
一瞬、呼吸が止まる。
桐嶺の瞳には、何の感情もなかった。
ただ、秩序を守るための“判断”としての命令。
その瞬間、彩の中に静かな恐怖が広がった。
(この人たちは、本当に味方なのか――?)
円卓の影に隠れて、誰かがほくそ笑む気配がした。
どの顔が笑ったのか、わからない。
でも確かに、誰かがこの場を“楽しんでいる”。
「了解しました……」
そう答えるしかなかった。
反論すれば、“情に流された無能”と見なされ、任務から外される。
彼女は唇を噛みしめながら立ち上がる。
会議室を出ると、外の空気がまるで異世界のように感じられた。
魔力街灯の緑光がゆらゆらと揺れ、風がビルの壁をなでる。
(――本当に、あの人は敵なの?)
思い返すのは、仮面の男の背中。
あの夜を思い出すと命令を破ってでも、また会いたいと思ってしまう。
だが、その想いがどれほど危ういものか、彩は知っていた。
この街では、信じることほど、危険な行為はないのだから。
そしてその夜――
彼女の個人端末に、匿名のメッセージが届く。
【君も、鐘の裏を知るべきだ】
差出人:不明。
添付されたのは、一枚の監視映像。
そこには――
【戦神の鐘】の幹部のひとりが、【旧館信教会】の関係者と密会している映像が映っていた。
【旧館信教会】――それは、既存の神々を否定し、新たな神を“創る”と宣言する危険な宗派だった。過去にテロ事件に関わった可能性があり、各ギルドが裏で監視対象としてマークしている組織でもある。
彩の鼓動が、ひとつ、強く跳ねた。
「……まさか」
祇園彩の小さな疑念が、この国の運命を大きく揺らす始まりになるとは、
この時、まだ誰も知らなかった。
ブックマークと評価してくれると、うれしいです。




