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《ラグナロク・リビルド》〜黒歴史から始まる黙示の物語〜  作者: ライオンの書
壱章 黒伶騎士(クロレキシ)の爆誕
13/19

13.新たな日常

2025年11月1日・修正

朝7時。

とある家の二階、薄暗い部屋に響くのは――なぜか昭和の頑固親父みたいな声だった。


『ピコン。朝7時だぞ。早く起きろ、馬鹿たれが!! 朝7時だぞ、早く――!!』


重たい布団の中から、俺――満永空八は、片手だけをズルズルと伸ばし、スマホを掴んでアラームを切った。


妙にクセのあるアラーム音を選んだのは、過去の俺だ。

……いや、マジでなんでこれ選んだんだ俺。寝起きに罵倒されるとか拷問だろ。


「うるせぇ……」


布団の中で小さく悪態をつく。

朝からオッサンの怒号を聞かされるとか、どんな精神修行だよ。

まぁ、でも、このアラームだから、すぐ起きることができる。


それでも、スマホを放り投げるころには、少しだけ意識が浮上してくる。

昨日の疲労感が、じんわりと体に残っていた。


配信を終えて帰宅したのは夜中の二時。

風呂入って、軽く反省会して、やっと布団にダイブしたのがその時間だった。

それでも“初配信をちゃんと終えた”という達成感が、どこか胸の奥に残っている。


「ふぁ〜……ネム……」


まだ寝ていたい。心からそう思う。

でも起きないと、妹の朝ごはんが作れない。


(妹>睡眠)

兄としての義務は、案外めんどくさい。


仕方なく、布団のぬくもりを振り切り、ゾンビのように起き上がる。

目を擦りながら部屋を出て、階段を降りた。


キッチンから、なにやら香ばしい……いや、ちょっと焦げくさい匂いが漂ってきた。


(この匂い……まさか……カレー?)


恐る恐る覗くと、制服の上にエプロンをつけた妹――満永亜友が、真剣な顔でキッチンに立っていた。

おたまを振る姿だけ見ると、なんかできる女子っぽい。見た目だけは。


「あ、おはよう、お兄ちゃん!」

「おはよう……。なにしてんの?」

「カレーパンを作ってるの!」


元気いっぱいな声。

だが俺はその言葉に、心の中で警報を鳴らした。


(おいおい……お前、料理できたっけ?)


亜友の成績は優秀だ。

が、唯一の汚点が家庭科。


特に“伝説のリンゴジャム事件”は、今でも我が家の黒歴史である。

あのとき、台所中に広がった腐った卵のような匂い……。

母さんは泣き、父さんは無言で窓を開け、俺は魂が抜けた。


「む! 私だって料理できるもん!」


ぷくっと頬を膨らませる妹。

その言葉に、俺は“地雷”の予感を覚えたが、あえてスルーを選んだ。


「……そ、そうか。じゃあ、俺は弁当作るわ」

「ん。お願いね〜♪」


(軽いな……命懸けの朝食なんだけどな)


包丁を握って人参を切りながら、昨夜のことを思い出す。

妹にはまだ言っていない。俺が配信を始めたことを。


モクモク(配信仲間)から「家族バレだけは絶対にNG」って念押しされたからな。

隠しごとがあるのは落ち着かないが、それでも――少しだけワクワクしていた。


……そんな時だった。


「……なんか、腐った卵の匂いしない?」


鼻をひくつかせる俺に、亜友はやけに早口で返した。


「き、気のせいだよ!」

「いや、明らかに気のせいじゃない匂いなんだけど……って、お前、なんで目そらすの?」


亜友はわかりやすく動揺していた。


(はい、犯人確定)


「どれどれ? 亜友さん、料理は順調ですかね〜?」

「ちょっ! 見ないで! 変態!!」

「へ、変態って!? 兄だぞ俺!?」


突然の濡れ衣に、包丁を落としそうになる。


「くっ……顔が濡れて、力が出ない……!」

「どこのアンパンヒーローよ! 顔は乾いてるでしょ!」


朝から漫才だ。

ちなみにこのあと、カレーパンは本当に“腐った卵の再来”だった。

開けた瞬間、家中が地獄絵図に。


当然、ゴミ箱直行。

妹は「心が傷ついて、力が出ない〜!」と二度目のアンパンヒーローを演じていたが、俺は黙って朝の支度を続けた。


学校に着くと、2-1の教室はすでに半分ほど埋まっていた。

朝の光が差し込み、ざわめく声が心地よい。

……俺以外には。


誰とも目を合わせず、無言で窓際の席に座る。

スマホを取り出して、特に意味もなく画面をスクロール。


(別に孤立してるとかじゃない。……いや、孤立してるけど)


そう、俺はいじめられっ子。

この学園では珍しくもなんともない。


「なぁ、昨日の彩さんの配信見たか? 黒騎士、マジで強すぎだろ!」

「アレだろ、ユニークモンスターを1人で倒したやつ! あんなの普通無理だよ!」


教室の会話が耳に刺さる。

(黒騎士って……俺のことなんだが)


「私、黒騎士と付き合いたい〜♡」

「助けてもらってお姫様抱っこされたいよね〜」

「「「わかる〜!」」」


おい、現実とネットの落差すごくない?


「そういえば彩様が、黒騎士を探してるらしいよ。【戦神の鐘】に入れるためだって!」

「え、マジで!? いいなぁ〜!」


戦神の鐘――。

それ、『My Ragnarok』の主人公が作ったギルドじゃねぇか。


しかも、その設定ガチめにやばい組織なんだが。

物語の最後に主人公が行方不明になると、そのギルドが裏でテロとか陰謀とかいろいろ好きにやってしまう、バッドエンドルートのやつ。

そのとき、教室のドアが開いた。


「おーい、黒! 昨日の配信見たぞ!」


黒――工月黒が入ってくる。

人気者、イケメン、Aランク冒険者。つまり、陽キャの権化。


「ありがとう。おかげさまでAランク昇格だ」

「マジかよ! おめでとう!」


教室中が拍手に包まれる。

……が、次の一言で空気が変わった。


「そういや、配信に“奴隷”いなかったよな?」

「え? あぁ、アイツ? 追放した」

「やっぱり! よかったな! お荷物いなくなって!」


笑い声。視線。俺。


(あー……はいはい。そういうパターンね)


以前の俺なら俯いて、息を殺してただろう。

でも今は違う。

俺の実力は、もうAランクどころじゃない。


「おい、奴隷! お前、追放されたんだってな!」

「マジかよw ざまぁ!」


俺は彼らを見返すように目を細めた。

無意識に拳が握られる。


(……殴ってやりてぇ)


けど、すぐにその手を緩めた。

暴力で返すのは、黒たちと同じレベルに堕ちるってことだ。


(俺は違う。俺は“見せて”やる)

(この力が、どれだけ遠いところに行ったのかを)


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