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九話

二人にぼやかした形ではあるがアイテム入手の経緯については話した、納得したとは言い難い感じではあったがそれはまあ当然と言えるだろう。ただの平民のしかも一学生が持つには相当なレアアイテムだからだ。ましてやエルプシャフトなどとは口が裂けても言えない、そこが心苦しい点ではある。このまま隠しつつというわけにはいかないが、今は隠すそう決めたのであった。

 はてさて、ダンジョンでのいきなりのトラブル遭遇というわけでそのことについてというわけでもないが今後に備えて図書館で会議をすることになった。国内でも有数の蔵書数を備えたこの学園の図書館なら色々と学ぶべき点も多いだろうというわけだ。


「ダンジョンの目標は三年間で最低でも三十階層、けど生徒会のメンバーともなればそれ以上先に潜っていると聞くわ。私達もいずれはその領域を目指すわよ」


「まぁレイラさんは目標が大きいですね、私達にできるでしょうか……」


「勿論だとも夢はでっかく、だからな!俺の忍者スキルで宝箱やトラップを解除して資金稼ぎもしたいし……」


「何を貧乏くさいことに行ってるのよ、そのぐらい私が出すわ。トラップの方は……まあ程々に期待しておいてあげる」


 実際のところ懐事情があまりいいわけではない、レイラの家が金を出してくれると言うならこれ程有り難い話はない。俺に関してもクラヤミチェンジャーにおんぶにだっこというわけにはいかないし技術を磨くという意味でも装備が充実するに越したことはないからだ。未来達主人公やヒロイン達に並び超えるには他力本願ではやっていけないだろう、という思いもある。


「任せとけ講義以外にもダンジョンでも取得する予定だからな」


 スカウトとしての役割も当然果たすつもりだ、RTAの一つに最低限敵察知や罠解除スキルは必要とされていた。スカウト単体では火力不足故ヒロインに頼りがちなルートではあったが俺はそれを地でいかなければならない。


「私もいいダンジョンがないか探ってみます、お義母様に頼るのは難しそうですけど……」 


 学園が管理しているダンジョンは基本的には一度踏破されているし定期的な巡回が行われているので安全である。しかしそれでもダンジョンを構成するコアは残っているためモンスターは勿論、装備品などのアイテムを生み出す宝箱を生成する魔力もあるため潜る意味があるのだ、それ以外にもダンジョンはいくつか存在はしている。どういうものであれ学生である俺たちは無断で潜ることは許されいない、そう本来は。俺のように隠れて潜る無法者だっていないわけじゃないしあえてそうして死ぬこともある。もっとも罰があるわけではないし、助けが来るかこないかの違いである。ランダムとはいいつつ禍津人の出現は深い階層のほうが出現率は高い、そう考えると早めに攻略を進めたいところだが…… 


「歓談中失礼いたします、御仏さんをお借りしてもよろしいでしょうか?」


「え、伏竜先輩……?ええ、構いませんけれど」


 図書館の静寂を打ち破るには十分な気配を持って現れたのは伏竜亜々佐さんだった。水菜会長のお付きというイメージが強いが学院でも上位の実力者として知られている。


「わりぃ、レイラ、ルナ。今日はこれで……」


「いいわよ、行ってきなさい。どちらにしても調べ物はあんた抜きでも問題なくできるから」


「御仏様、あまり失礼のないように気をつけてくださいね」


 二人の声を背中に向け亜々佐さんについていく、人気のない部室棟ーーー生徒会に与えられた建物の一室に来てようやく口を開いた。


「御仏さん、お嬢様は貴方の……貴方の持つ力をいたく評価なされています。そこで貴方にはとあるモンスターの大量出現事象の解決を依頼します」


「は、はあ……俺にできることであれば」


「できるではなくやってもらわなければ困ります……コホン、中級種であるゴブリンリーダー、これが大量発生しています。本来であらば上層とはいえ階層ボスである物が湧き出ているのは問題です、これを貴方や必要であればパーティーを組んで挑むのもいいでしょう。成功すれば成績に加点するよう既に手続きは済んでいます、よろしいですね?」


 ゴブリンリーダーは10階層から出現するモンスターで強くもないが決して弱くない序盤プレイヤーを苦戦させるモンスターの一種だ。ゴブリン自体は知能も低く武装も最低限だが突然変異種的なゴブリンリーダーが出現すると統率の取れた動きをするだけでなく魔法を使う個体まで出現するようになるなど非常に厄介な個体だ。本来であれば中盤の雑魚、序盤なら戦ってはいけない相手だ。それを俺に相手させようということは……


「いいですか、繰り返すようですがお嬢様は大変期待しているようです、くれぐれも失敗する等といったことはないようお願いします。詳細は端末に送っておきますので、では」


 言いたい事を言って去ってしまった亜々佐さんを尻目に早速送られてきたミッション内容に目を通す。これもバタフライエフェクトというやつだろうか?ランダムイベントの中にもこんなものはあった覚えがない、ということはやはり俺一人で対処するしかないだろう。しかし嫌な予感がしてならない、こういう時の予感だけは得てして当たると相場が決まっている。とにかく俺は準備をして数日後、早速件のダンジョンへと向かうことにした。


「また君か、せっかくのボクの計画を邪魔しないでもらいたいものだがねぇ」


「な、おま……どうして?!」


 ぶっちゃけていえばゴブリンリーダーの以上発生の原因に即遭遇した。何のことはない黒妖狐姫の仕業だった、だがなぜこんな頻繁に……?


「何を言っているのか理解できないね。ボクはボクの思うように動いているだけさ。こうして体を乗っ取れる時にね」


「ルナの体を返せよ、それにこのモンスターの異常発生……お前の仕業だな?」


「勿論さ、今はこの程度だが……いずれはもっと強力で大規模なモンスター達を発生させる。もっともそれ以前に君に彼等が倒せるかな?」


「倒すさ、こんなの放っておけるわけないだろ。」


「フフフ、今回はほんの顔見せさ。せいぜいボクの実験に付き合って死なないよう頑張り給え。はーっはっは」


腕輪を構える俺に面白そうにな黒妖狐姫はあっけなくその場から消え去った。あいつの思惑は明白だ、あいつはルナの体を使いこなしつつあるのだ。今は入れ替わる頻度も高いが進行すれば完全な乗っ取りが成立してしまう。それは俺の目的以前にルナ・リッター・ズィズィーエという人格が失われてしまう、どちらにしても俺ではあいつを倒せないでは困る。ともあれ今は目の前のゴブリンリーダーを殲滅しなければならない。


「全く面倒だよな、と!」


 先程も少し語ったがゴブリンリーダーはゴブリンに分類される種族の中では上位に位置する存在で知能が低いゴブリンの中でもステータスが高い。知能もあり本来は群れの中に数体いればいいほうだ、図書室で読んだ学術書という名のマニュアルにもそう書いてあったしほぼ間違いないはず、なのだが。黒妖狐姫によってそのあり得ない事態が発生してしまったというわけだ。


「忍法!疾風斬!」


 詠唱を終え刀が緑色に発光し風を纏わせそれを一振りすると向かってきたゴブリンリーダーの首がはね飛んだ。風属性は炎と並ぶ初心者が最初に学ぶ魔法の一つで比較的取得が簡単だ、込める魔力が高ければ中盤までなら通用するのでとてもありがたい。もっともMPの消費が小さいくらいでレベルが上ってきてMPの上限値が上がってくればより威力が高くコスパのいい魔法も増えてくるのでそちらを使えばいいのだが……この体でどこまで覚えられるかは疑問なところだ。しかしその壁を乗り越えなければ勝てぬものも勝てぬのでまずはこの場を乗り越えることにする。

一度、二度、三度。刀を振るう度衝撃で吹き飛び疾風により切り裂かれ体液を散らし倒れていくゴブリンリーダー達、最後の一匹が消滅したのを確認し鞘に納めるとほうとため息をつく、リアルでソロプレイはするものではない、と今更ながら思う戦闘であった。余裕を持って倒せる相手であるとはいえ掛けるチップは己の命である、不完全にせよ黒妖狐姫と現時点でぶつかれば返り討ちにあうこと間違いなしなのだから。これはレイラにもいえることだし、未来や茜もそうだ。まともにやりあえるのは会長や亜々佐さんクラスであればあるいはといったところだが……さて勿論素直に報告するわけにはいかないのであくまで異常発生ということにしておこう。一人で良かったと思えるのはこの一つくらいだ、黒妖狐姫に遭遇しました等とはいえないのだから。




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