冒第九十八話 魔力を注ぐ人の人生がある?
魔物の卵が割れた……
魔物の卵から産まれた生物は、前世でよく見かけた生き物だった……
このシチランジンと言う世界に転生してから、一度も見たことのない生物……
何故このタイミングで?
前世の記憶からこの生物を無意識に思い浮かべてしまい、魔物の卵の中の生物に反映されて呼び出されてしまったのか?
んーー? もしかしてだけど、魔物の卵に魔力を注ぐ人の記憶が結び付く生物が誕生するのか?
そう……あれは僕が前世でまだ幼い頃……
……何か格好の良いと言われそうな生物を飼いたいと思っていた。
誰もペットにしていない生物とは……
幼い僕は生物が格好が良いと思っていた……
実は賢い生物……隠された能力を持っている生物が格好が良いと思っていた……
僕はその生物と会話できると周囲の人間に言っていた……
なんとなく格好が良いと思って……
そしてその生物に、自分の言うことを聞かせることができると想像してニヤニヤしていた……
予言もできる生物だと思っていた。
僕の中では、最高にクールな生き物だった。
神……
あの生物は孤高であると考えていた。
実際は群れているのだが……
サクラは産まれた生物は過去にペットにしたかった生物だと回想した……
ネット上でギャグのように扱われた生物……
誰かの肩に乗っているその生物……
最高にクールだ。
かの生物は神……
かの生物は予言するもの……
その生物は自由の象徴……
しかしこの世界で出会うとは思っていなかった生物……
この世界に転移し数年がたった。
今までこの生物を見かけたことはなかった。
その生物は小さい。
この先も大きくなるかはわからない。
しかし、心が引かれる生物だろう……
今こそ……その種を証すがよい……
この世界にきっと唯一の存在……
【鴉】
黒い翼を大きく広げ、大空を飛ぶ。
時に地面の虫を食べ、ゴミも漁る……
だが鴉とは違う部分があった……
足が3本ある。
【八咫烏】
それがラウールとサクラが魔力を注いだ結果に産まれた魔物だ……
~~~~~
色々な過去の想い出が映像となり脳内に流れた。
……モフモフやスライム、もしかして龍が産まれるのかと想像していたラウールだったが、この生物には驚いた。
サクラもビックリだ。
普通に鴉が出てきたと思ったら八咫烏。
前世では神……の……
僕はつい言ってしまった。
「良いのかこれは?」
そう僕が言うと、目の前の八咫烏から声が聞こえてきた。
「お父さん?」
いきなり父親か?
僕は戸惑った。
しかし今がその時!
「お父さんだよ! だけどラウールって呼んで。一緒にずっといたいから……親でもいいけど、仲間として一緒に、家族として一緒に……」
目の前の八咫烏は首をかしげた。
「ラウール? お母さん?」
サクラを見てお母さんと言った。
「お母さんと言うより、サクラで慣れて……私達と一緒に旅をしようよ。」
また首をかしげながら八咫烏は聞いてきた。
「ラウール? サクラ? 我は? 我を呼ぶときは?」
僕は考えた。
呼ぶときは?
我?
名前かな?
「名前をつけて欲しいの?」
目の前では首をかしげながら八咫烏が僕を見ている。
「うん……名前? 名前が欲しい? 名前……呼ぶ……我を呼ぶ言葉…… 欲しい……名前?」
僕は感じていた。
産まれたてでここまで流暢に話せる……
頭が良いな。
直ぐに言葉を話す。
状況を理解する。
本当に神の産まれ代わり……遣い……
それでも魔物なのだろう……
解析さんで確認した……
【名前:まだ無い
種族:八咫烏
スキル:?】
とスキルや称号が?で埋っている。
本当に良いのかこんな規格外っぽい生物が産まれて……
……八咫烏から名前を求め続けられた。
何度も求められるので、サクラと名前をどうするか相談した。
その間は八咫烏もじっと待っていた。
んーーー
産まれる魔物の名前候補を色々と考えていたら、もっと楽だったなと思えた。
僕とサクラは考え続けた……
……
……
……
名前を考えている時に僕はあることに気付いた。
「男? 女?」
「男? 女?とは何?」
八咫烏からの質問も返ってきた…の
……僕はいくつか説明してみた。
男女の違いを説明してみた……理解するかは別にして……
その説明を聞いた八咫烏の答えは「それで分けるなら、男だろう。」
うん……だろうなんて男らしい……そんな男らしい返事を聞いて僕とサクラはまた名まえを考えた。
……
……
……
しばらく沈黙してしまった僕は何となく連想された名を口にしていた。
「八咫烏……やた……男……弥太郎。や、たろう……たろうやた。ろう? ロウ! low 、低い?正義? んーー連想失敗!」
そこでサクラも口を開いた。
「カラス。八咫烏。神。黒い。翼、漆黒の翼! ……はラウールだし……黒、ラウールとクロ、クローウ? 語呂が悪い。」
そこからまた僕も連想した。
「クローウ……ただクロウ……クロウは?」
目の前の八咫烏は問いかけられ考えているのか、目をキョロキョロ動かしている。
「クロウ……我の名はクロウ! 良い……クロウ良い!」
……
……
「それはクロウで決まりってことで良いの?」
「我クロウ! クロウ!」
……
……
無事に魔物の名前が決まった。
クロウと今後は呼ぶとしよう……
従魔登録では名前があった方が良いだろう……
珍しい魔物なのだろうけど、地球のカラス程度の大きさだろうけど……おそらくは大丈夫だろう。
そう自分に言い聞かせた……
「じゃあ、明日は冒険者ギルドに行って従魔登録してしまおうよ!」
「そうね! じゃあ私は従魔がいるって宿屋のおかみに言ってくるね!」
そう言ってサクラは素早く移動していた。
……ようやく従魔を手に入れた。
『手に入れた』って言い方は嫌だから、ようやく仲間が増えた。
明日は冒険者ギルドで従魔登録をして、クロウの能力を把握しよう。
そして出来るのなら……どの程度戦えるか把握するために外へ出てみよう!
僕とサクラがいれば、危険は少ないだろう。
ラウールは明日のことを考えているのか、ニヤニヤしてクロウの前に立っていた。




