第九十二話 海の魔物
船旅は二日目になった。
順調に目的地に向け進んでおり、今日中に交易都市群サザにつくようだ。
船が到着する港から一番近い都市は、第一都市となっている。
僕とサクラは、自分達で用意した食事を甲板で摂っている。
周りにも人はおり、家族、恋人同士、一人もの、庶民までいる。更にどこかの貴族なのか、身なりの良い者もいたり、教会関係者と思しき人までいる。
そんな船旅だからこそ、魔物から船を守る冒険者ももちろん乗っている。滅多に襲われないだけで、絶対襲われないわけではないのだ。
時々小さな魚型の魔物がいるようだが、銛で突くか、船でそのまま弾き飛ばすことで何事もなく進んでいた。
しかし、小さな魚の群れが進行方向と逆に進んだ姿が見えた時、目の前に触手が見えた。
「魔物だ~! 乗客は中に入れ! 戦える者は先頭の方に来い!」
そう叫び声が上がると、一斉に人々が船の中に入っていった。
そして甲板には、船長に雇われている冒険者と、魔法が使える数人の乗客が残った。
もちろん僕とサクラも残り、僕達に声をかけてきたあのマッチョも残っていた。
「俺達はこの船を守るために雇われている! 海の上だから魔法が主体だ。おそらくあの大きさはクラーケンだ。ランクは高いが、通常より小さいところを見ると、幼体だと思う。一気に魔法で倒したい。俺の合図で一斉に魔法を撃ってくれ!」
「「「おう!!」」」
と僕も返事をしたが、小声で隣にいる人に質問してみる。
「クラーケンって、弱点と無効な攻撃はありますか?」
「確か水は無効だな。火も海だから……半端な威力の物はダメだったはず。風と土が無難かな。使い手の少ない雷だったか?は効いたような。」
「そうですか。ありがとう。」
そう短く話を終えるとサクラに聞いてみた。
「雷が一番、次が風や土みたいだけど、サクラはどうする?」
「そうね、初めて海の上の戦いだから……。何がいいかな? クラーケンって食べられるのかな?」
「そっか、食べられるなら少し欲しいかな。じゃあ焼けないように火はなしで。意外に凍るかな?」
「凍るだろうけど、その後どうする?」
「そっか、どっちみち倒さなきゃいけないものね。じゃあ風の魔法で切り裂こっか?」
「そうね、それが無難かな? じゃあ二人一緒に打つ?」
「一人でいいんじゃない? それでもう一人は回収役で。」
「わかった。じゃあサクラが倒したら、僕が海の表面を凍らせて、出来るだけ多く回収してくるよ。騒ぎになったらSランク冒険者だって言えば普通だと思ってくれるでしょ。」
そんな会話をして僕達は冒険者に声をかけに行った。
初めは2人でやらせてほしいとお願いした。
少し迷っていた冒険者だったが、時間がもったいないと言うと「じゃあやってみろ」と場所を譲っってくれた。
サクラはやりすぎたゴブリン戦を振り返り、もう少し威力を抑えるイメージで詠唱を始めた。
「空を漂う世界の歯車よ 我が求めに応じ 目の前の敵を切り裂け…………風の刃改!」
詠唱を終えると巨大な風の刃が一つと、その周りに無数の小さな風の刃が発生し、クラーケンに飛んで行った。
クラーケンは魔力を纏おうとしたようだが、間に合わずに全身を引き裂かれた。
そして次の瞬間ラウールが「凍れ!」と魔力を込めて叫ぶと、海は凍った。
凍った海を素早く進み、クラーケンの体が海に沈む前に、クラーケンの後ろから風を吹かせた。
そして海の上に出ていた部分は、氷の上に乗せることが出来た。
船の方を振り返った僕は、必要な部位はあるかと声をかけたが、サクラ以外が口を開けたまま固まっていた。
その後もしばらくは返事がなかったため、魔石と体の一部を持ち、僕は甲板にジャンプしも戻った。
船に戻った僕を見てもう一度ポカーンと口を開けてしまった冒険者だが、何とか持ち直し話し出した。
クラーケンはその身がおいしく食べられるる。しかし大きいため、僕が持てる程度の身肉があれば、そこからいくらか分けて欲しいと言う。
魔石は討伐した僕とサクラがもらって良いこと。クラーケンの残りの部分はもったいないが、貨物船ではないのであきらめると言った。
そこで僕はもう一度クラーケンの元に戻った。
そして身肉を海に落とすふりをして、土の魔法で質量のある物が海に落ちるように見せかけた。
最後にばれないように、アイテムボックスXにクラーケンの身肉をしまう事に成功した。
その後は僕が船に戻るとサクラが「疑似太陽光!」と魔法を唱え、目の前の氷を溶かした。
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一連の出来事を見ていた護衛冒険者は何が起きているのか分からなかった。
だから僕は説明した。
僕達はSランクの冒険者だと。
目の前の冒険者は驚いたが、高ランク冒険者なら、今の目の前で起きた出来事も納得するしかないと言った。
船長も僕達に近づいて来て、被害が全くなかったという事で、食事を提供してくれた。
今討伐したクラーケンの身も焼いてくれ、初めて食べたが味はイカだった……
その後の船旅は順調で、無事に港に着くことが出来た。
ラウールとサクラが船から降りる姿を見ていた冒険者は、いくらSランクでもあれは無理なのでは?と考えていた。
あえてSランク冒険者にそのことは話をしないが……




