第九十話 ラウールのロマン
ラウールは旅に出たかった。
サクラに相談した。
快く一緒に行くと言ってくれた。
僕は長い期間一緒にいてくれているサクラが、いつ「別れて行動する」と言うか不安だった。
サクラと一緒に旅立つことが決まった時には、他に一緒に旅する仲間がサクラに出来たら、別れるつもりだったのに……。今では僕がサクラと一緒に旅をしたいと思っている。
ゴブリンロードを討伐し、Sランクに昇格してからは毎日冒険者ギルドに寄っていた。そのまま依頼をこなすこともあったが、目ぼしい依頼がないときはサクラと一緒に街に出かけたりもした。
キソもSランク昇格を喜んでくれて、一緒に食事をした日もあった。
そして今日も冒険者ギルドの酒場で、サクラと話をしていた。
果実水を飲みながら、僕はサクラの目の前の椅子に座っている。
「サクラ、そろそろ旅に出たいんだけど、次に僕がやりたいことを聞いてくれる?」
「いいわよ、一緒に行く所だから聞いておきたいし。」
そう言ってサクラも一口果実水を飲んだ。
「僕は従魔が欲しい!!」
……
サクラは驚いた顔をした。
「急ね~、なぜ急に従魔なの?」
「最近考えていたんだけど、僕たちは転移の魔法は使えるでしょ? だけど行ったことのないところは無理でしょ? だから……行ったことのない場所を移動するスピードを速くしたいんだ。前に移動馬車で冒険者に聞いたら、魔物に乗っている人も稀にいるみたいな話をしてたじゃないか。馬車を買うことは出来るけど、僕は従魔にロマンを感じた。」
「ロマンね~。私の大鎌と一緒……。んーーーでもどうやって手にいれるの?」
「この前から旅に出たいって僕が言ってたでしょ? その時から情報は少しずつ集めてたんだけど、交易都市群サザで魔物の卵が稀に売っているみたいなんだ。卵が買えなくても、そこにあるダンジョンで稀に手に入れることも出来るらしいんだ。王国にも、共和国にも、皇国にも時々魔物の卵は流れて来るけど、貴族がほとんどを買い占めるみたい。そして、孵化に失敗する……。だからほとんど従魔を見ることがないみたいなんだ。」
「へ~、そうだったんだ。私はてっきり従魔に出来る人が少ないだけだと思ってた。」
「うん、適性もあるみたいで、産まれても従魔にできなくて、結局処分されることもあるみたい……」
「従魔にするのはそんなに確率が少ないんだね……」
「それでも冒険者ギルドには従魔登録があるみたい。だからこそ、従魔を持つことが出来る可能性に賭けたいんだ。僕のロマンの為に……」
「……うん!わかった。私はラウールの傍にいるよ。一緒に行こう! ってどうやって行くの?」
僕は簡単な地図を取り出した。この地図は僕がここに来るまでの情報を書き込んだり、聞いた話で地形を追加している。おおまかな位置はわかるようになっている。
「ここニジュールから南に行くと港がある。そこで船に乗って交易都市群サザに向かう。船は二日程度だし、港までも二日程度だ。」
「意外に近いね。だけど船旅は初めてだね!」
「ねーー船旅も楽しみなんだ。それにサザ全体を旅すると、テザン皇国までは遠くなるけど、転移もあるから一回行った場所に戻るだけならいつでも行けるでしょ。」
「そうね、一回行った場所なら戻るのは一瞬だしね。」
僕とサクラは相談を終えた。
そしてさっそく旅に出るために、街で買い物を始めた。食べ物などはたくさん持っているが、更に追加で買っていく。
便利な魔道具もないか確認しながら店を見て歩き、夕方には宿に戻った。
宿で夕食を食べながら僕はもう少し細かく説明した。
従魔で乗ることが出来ない魔物を手に入れた場合は、今まで通り移動馬車を使うか、馬車を購入する。
一番は従魔を持ちたいこと。移動が速くなると言ったが、移動の速さより、従魔を手に入れることを最優先したい。
サクラは同意してくれた。サクラは今の移動方法でも不満はないと言う。
初めて出会う人との移動も旅の醍醐味だと言い、この世界の人への警戒もだいぶ薄れたと言った。
交易都市群サザについての説明もした。
交易都市群サザは、日本のような統治方法だ。そして、円を描くように都市があり中心に首都機能を持たせた都市がある。時計のような位置関係で、呼び方も第一都市、第二都市となり覚えやすい。
都市ごとに港もあり、それぞれ船を使い交易をしている。
今僕が知っている情報をサクラに説明し、休むことにした。
明日から二日かけて知り合いにお別れを告げて回る予定にした。
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一番初めに勇者に届くように手紙を送った。勇者が僕達の話をしてくれていたおかげで、ファンフートの城の門番に手紙をスムーズに渡すことが出来た。
その後はキソに会いに行く。キソはラウールとサクラが来たときは直接会えるようにしてくれている。
急な出発でキソは驚き、悲しんでいたが、最後は笑顔で送り出してくれた。何かあれば冒険者ギルドを通じて連絡をしてほしいと付け加えておいた。
そしてキソと別れた後は、手紙を受け取った勇者のダイチ、ヒミカ、グンジョウが冒険者ギルドにいた。
僕とサクラが冒険者ギルドに入るとほぼ同時くらいに来たようだ。
勇者はもっと一緒にダンジョンに行きたかったと言ってくれた。そして勇者にも、何かあれば冒険者ギルドを使って連絡をしてほしいことを伝えた。
冒険者ギルドではウールは不在だったが、シトカがいた。シトカにもお別れを告げ、【黒猫】にキソや勇者から連絡を取りたいと言う事があれば、登録先の冒険者ギルドに連絡を入れてもらえるようにお願いした。
Sランク冒険者は、遠くにいても依頼を出したい場合に備えて、遠距離連絡を取ることが出来るサービスがあるのだ。
二日目も冒険者ギルドや街をめぐり、お世話になった人や知り合いの冒険者にお別れを告げた。
【木陰の光】にも挨拶した。現在は活動も再開し元気にしていた。
……そして出発の日が来た。
別れの瞬間がつらいため、出発時間は告げずに僕達の見送りがないように……
僕とサクラは移動馬車に乗り込み、首都ニジュールを後にした。




