エピローグ(新しき星)
アディス達は、新しい星の上に立っていた。
そこは小高く盛り上がった残丘だった。
見渡す限りの緑。
涼し気な風が頬にあたる
植物の香りが鼻に香る。
それは環境シミュレータではなく自然の恵みだった。
エリスは、大きく背伸びをすると深呼吸する。
エリス:「空気がおいしい。」
エリスの何気ない一言に近くの人々が頷く。
エリー:「ほんとそう。
まさか、空気がこんなにおいしいなんて
知らなかった。」
ヴィヴィアン:「まったくその通りね。」
アディスは、徐に振り返った。
そこには、数多くの簡易テントが設置されており、
その周りには1万人近くの若者が立っていた。
その後ろには、巨大な人工物があった。
降下用軌道エレベータ・バベルだ。
それは黒色の筒状の外観であり、雲の上まで続いていた。
バベルから1人の男が現れた。
そしてすぐ横の台の上に上がる。
クーカ:「皆さんお静かに!!」
その声に一斉に静まる。
クーカ:「投票の結果がでました。
宇宙船は母星に向けて帰還させます。」
皆から安堵の声が上がる。
一部の者達から罵声の声も上がった。
それは、ジェイムス・ミラーの一派だった。
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皆が搭乗していた宇宙船は、大きな選択を迫られていた。
最も大きな問題は、コールドスリープの解凍問題である。
これは魔獣により解凍装置が破壊されたことに起因している。
バトラーの予測は悲惨な値だった。
多くが成功率10%未満の数値をはじき出したのだ。
これは大問題であった。
そして数少ない成功率90%以上の者達を解凍し、
投票で方針を決定する方法がとられた。
その数、およそ1万人。
これは全体の1%にも満たない数値だった。
装置の修理には特殊な素材が必要となるが、
その素材の入手が困難となるのだ。
母星まで帰還すれば大幅に成功率が跳ね上がることは
明白であった。
このため、意見は大きく2つに割れた。
一つ目は、低確率でも解凍すること。
二つ目は、母星まで帰還させること。
一つ目は、当初の計画通りであり、宇宙船を解体し、
素材として利用するというものだった。
しかし、犠牲となる者があまりにも多すぎた。
二つ目は、船を自動航行を母星に帰還させるものだった。
しかし、これも大きな問題を抱える事となる。
まず帰還に成功することができるかということだ。
問題が発生しなければ、帰還できるであろうが、
問題が発生した場合、バトラーのみで対処可能なのか?
場合によっては全滅もあり得る。
この不安が最も大きなものである。
さらに、移民者の環境面の問題もある。
それは、エネルギーの問題である。
宇宙船を帰還させるそれはエネルギーの放棄にほかならない。
原始とはいかないまでも、環境は著しく後退することになる。
食料面の問題もある。
これに関しては、宇宙船の存在の有無に関わらず発生する。
食料枯渇が早いか遅いかの違いであった。
多くの者がこの地から離れなければならなかった。
小さな問題は無数に存在した。
しかし、その全てを解決する方法は存在しない。
試行錯誤で解決していかなければならないのだ。
人々はそれらを前提に議論を行った。
そして最終的に投票で決めることとなったのだ。
=====
それから数日後、早朝
草原にそびえ立つ起動エレベータ・バベル。
その周りに、初期運搬用車両が放射状に配置されていた。
その数、およそ数百台。
車両に乗り込んだ人々は最後の通信を聞いていた。
クーカ:「皆さん、ついにこの日がやってきました。
宇宙船の帰還の日です。
そして我々の門出の日です。
それを記念し、全員の名前を記した金属板を埋め、
石碑を残す事にしました。
石碑には、航海中もっとも活躍した7人の名前を
記したいと思います。
なお、順番に意味はありません。
その7名とは、
Adise
Dors
Anakin
Mars
Eris
Vivian
Elly
です。
さて、同一言語毎にグループは出来ていると思います。
御承知の通り、宇宙船が出発すれば、
ブレスレット端末は機能しなくなります。
本日中に半径100Km圏内から離脱してください。
軌道エレベータ・バベルは、順次爆破解体されます。
皆さん人類の未来に向けて進もうではありませんか。
それでは、グッドラック。」
一斉に車両が動き始めた。
それぞれが、それぞれの未来を求めて。
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音声:「集計が完了しました。
この星の名前は『地球』に決定しました。」
やっと完結することができした。
大きな謎はほぼ回収できたと思っています。
番外編は執筆するかもしれませんが、
本編、続編は完結です。
最後まで読んで下さり、ありがとうございました。




