救済
宇宙歴20年、3月5日昼すぎ、巫女の神殿
アディス:「今の話だが、パインの書いた本とは
少し違うようだけど、、、。」
アイス:(それは当然の事です。
ここで聞いた話の多くはこの場を離れると
忘れてしまいます。
そして個々が辻褄が合う様に補完することでしょう。
私達に答えを求めてはいけません。
答えを見つけるのは貴方達なのです。)
アディス:「聞きたいことがある。」
アイス:(なんでしょう?)
アディス:「そもそも魔法とはなんなんだ?」
アイス:(科学は物質を利用して様々な装置を作り出しました。
そこから生み出されるものは、昔の人間から見ると、
奇跡でしかありません。
科学は物資を利用し奇跡を起こします。
これは精霊が使う魔法と同等のものなのです。
魔法は自然を利用し奇跡を起こすのです。
つまり、方法は違っても結果は同じことなのです。)
エリス:「それって、科学で実現できたものは、
同様の事が魔法で実現できるってことよね。
また、その逆も可能ってこと?」
アイス:(原理的には可能ですが、人間は3次元に生きています。
それ以上の次元を認識することはできないのです。
それらを利用した魔法、例えば原始魔法と同じものを
作り出す事はできないでしょう。)
:
:
アディス:「次の質問だ。
魔獣の精神体を白く染めると何故封印されるんだ?」
アイス:(精神体が白くなると欲が抑えられるのです。
そのため、自ら人間界へ向かおうと思わなくなります。
さらに、召喚に応じなくなります。
それにより封印しようと考えたわけです。)
アディス:「なるほど、次の質問だ。
神は人間界を創造したと言ったが、
それは滅ぼす事もできるということか?」
アイス:(あなたの聞きたいことは魔獣王や魔王が、
人間界を消滅する事ができるか?
ということですね。
だとしたら、魔王であれば、それは可能です。)
アディス:「この宇宙ごと消し去る事ができると?」
アイス:(その通りです。)
アディス:「やはりそうか。」
アイス:(しかし、それは魔王が望む事ではありませんし、
魔王自身を滅ぼす事にもつながります。)
アディス:「どういうことだ?」
アイス:(人間界を消滅させるほどの魔法は、膨大な精神体を
消費します。
この星の全ての生命の精神体、魔晶石を集めたとしても
遥かに及ばないでしょう。
精霊界、魔獣界は長い戦いによって衰弱しており、
幻獣界は魔獣界の創造によって大きく衰弱しました。
神界、魔界は、精霊界、魔獣界への永続的な補填により
減少し続けています。
つまり、この魔法を発動することができる者は、
限られているばかりでなく、人間界を滅ぼすことや、
新たな人間界を創造することは困難な事なのです。)
アディス:「なるほど。
宇宙ごと消される心配はないということか。
・・・。」
エリー:「それで、船で魔獣が暴れていたりと色々問題が
起きているんだけど、私達はどうすればいいの?」
アイス:(貴方達は、もう何もすることはありません。
ただ生き残る事だけに注力していください。)
エリス:「魔獣がいるとコールドスリープもできないんですが。」
アイス:(まず、魔獣ですが、貴方達が巫女の神殿を出る頃には
魔獣は消え去っているでしょう。
しかし、同時に魔獣の壺からのエネルギーを
取得することは出来なくなります。)
エリー:「まさか、モリー博士の作ったエネルギー生成装置が
動かなくなるってこと!?」
アイス:(その通りです。)
エリー:「!!」
エリス:「それって、まずいよ!!
コールドスリープ装置が動かなくなっちゃう。」
アディス:「その通りだ!!
何とかならないのか?」
アイス:(分かりました。
貴方達が船に戻ったらすぐに、
私が何とかしましょう。)
エリス:「ありがとー。」
アディス:「魔獣の壺とは一体何なんだ?」
アイス:(魔獣の壺は、魔獣界と人間界を繋ぐ道であり
門でもあるのです。
ゼロスが生み出し、ゼロスが管理し、
人間が使うのです。)
アディス:「人間が使うだって?
まさか、人間が魔獣を呼び出すというのか?」
アイス:(魔獣の壺は、召喚条件があるのです。
ゼロスだけでは条件を満たす事はできません。
魔獣を呼び出したいと考える人間が必要なのです。
そこに善悪は必要ありません。)
エリー:「ところで、星に残った人々はどうなるんですか?」
アイス:(彼等は貴方達を生かす為に動いてもらっています。
魔獣界へのゲートを開き、
魔獣と接触してもらいました。
人間に欲が無ければ、
平和に暮らすこともできたでしょう。
しかし、魔獣に見破られ戦いが始まりました。
彼らが魔獣と戦えば戦うほどに、
魔獣の注意を引く事でしょう。
そして、魔獣は戦いに注力します。)
エリス:「まさかそれって、囮ってこと?
ひどい、、、。」
アイス:(ひどいですか。
そうでしょうね。
この船に乗っている者は全て同じことを言うでしょう。
そう考える気持ちがあるからこそ選んだのです。
しかしあの星に残した者は、そうは思わないでしょう。
多よりも個を優先する者達なのです。
人類の存続よりも個を優先する者達なのです。
そして多くの人々によって与えられている力を、
まるで自分一人の力であるかのように考えるのです。
この様な者が指導者となれば星は滅ぶでしょう。
それ故に2つに分けたのです。
星に残った者達には、魔獣との戦い。
ゼロスには出来る限り長い時間、注意を引くようにと
指示が出ています。
手を取り合い魔獣を撃退できれば、
何かが変わるかもしれません。
新しい星へ向かう者にとっては、生存と創造。
形は違うかもしれませんが、
どちらも生き残りをかけた試練なのです。)
エリス:「・・・」
アイス:(さて、これから新しい星に到着してからの話をします。
貴方達は到着した後、巫女の神殿に入る為に
使用した箱を持って行ってください。
地上に降りたら、静かな場所を探してください。
そこに箱を設置し、神殿に入ってください。
なお、場所についてはマルスの判断に従ってください。)
アディス:「マルスは、まだ目を覚ましていないが
大丈夫なのか?」
アイス:(私は、マルスの中に戻ります。)
エリス:「なるほど!!」
アイス:(最後に貴方達のことについて話しておきます。
アディス、エリス。
2人は、パインとアリスの子孫です。)
アディス、エリス:「!!」
アイス:(そして、エリー。
貴方は、シェリル、ジェイルの子孫です。)
エリー:「!!」
アイス:(最後にマルス。
彼は、レミューズの子孫です。
父親は、そうカインと呼ばれる者*1だったようです。
貴方達は、最後に残された人類の希望なのです。)
アディス:「人類の希望?」
アイス:(そうです。
もう巫女は貴方達しかいません。
魔獣と戦う為には巫女は必要です。
いずれ対決の時はくるでしょう。
忘れないでください。
全ての生命は繋がっています。
個であり、そして多であるのです。)
宇宙歴20年、3月5日午後、第10番艦艦橋
クーカ:「あぁ~~~~~。
どうしたらいいんだ。」
クーカは艦長席に座り、頭を抱えて悩んでいた。
丁度そのとき、アディス達が現れた。
クーカ:「おぉ、いいところに。
モリー博士が作ったエネルギー生成装置の出力が
急速に落ちてきている。
何とかしないと、、、。」
クーカがそこまで言った時、警報が鳴り響いた。
音声:「当艦の進行方向に空間の乱れを感知しました。
回避は困難です。
接触まで、およそ60秒です。」
クーカ:「なんだと!!」
顔を上げ、進行方向である方向に目を向ける。
クーカの眼に映ったのは、異様なものだった。
星々の煌めきの中に真っ黒な真円があった。
クーカ:「まっ、まさか!!
ブラックホール!?」
その音声に反応しバトラーが即答する。
音声:「重力場を検知できませんでした。
ブラックホールではないようです。」
クーカは未知のものに対して、
これから起こるであろうことを想像し、恐怖した。
クーカ:「一体何だ?
我々が何をしたと言うんだ、、、。」
アディスがクーカの前に進み出ると、うつむいたクーカの肩に
手をのせた。
無情にもバトラーのカウントダウンが始まった。
音声:「接触まで、5、4、3、2、1、0。」
カウントが0に到達した時、暗闇が訪れた。
:
:
:
:
:
目の前は相変わらず暗闇だった。
どのぐらいの時間が過ぎたのだろうか?
実際には数秒?、数十秒?であったにも関わらず、
クーカにはとてつもなく長い時間に感じていた。
「バチン*2」
遠くの方で何かの機械音が聞こえた。
同時に小さな明かりが灯った。
「バチン」、「バチン」、「バチン」
機械音と共に次々と明かりが灯る。
それは、まるで星々の煌めきのようでもあった。
クーカは別にロマンチシストではない。
どちらかというと現実主義者だろう。
しかしその光景は、あまりにも幻想的に見えた。
星々の誕生。
クーカは、まずその言葉が頭に浮かんだ。
音声:「再起動を開始しました。」
バトラーの声ではない。
それは人間味の無い、無機質な音声だった。
同時に明かりが灯る。
クーカ:「本艦の状態は?」
音声:「艦体に損傷・故障などは一切見つかりませんでした。」
クーカ:「コールドスリープ装置は?」
音声:「一時的なシステムダウンを確認していますが、
現在は正常に動作しています。
蘇生確率は大幅に減少した可能性があります。」
クーカ:「大幅だと!!
一体どれぐらい低下したんだ?!」
音声:「算出不能*3です。」
クーカ:「そうか。
確かにそうだろうな、、、。」
クーカは、単に期待という安心を得たかったのにすぎない。
しかし、それを人工知能に求めるのは間違っていたと
あらためて思い知らされた。
クーカ:「現在位置と進路、航行速度の確認。」
:
:
クーカは、バトラーが即答しないことに驚いた。
それはとても、めずらしい事だった。
バトラーには、様々な測定器が接続されている。
リアルタイムで観測し、そして瞬時に答えを導き出す。
それにもかかわらず、即時で答えを導き出せない。
答えは1つしか思いつかない。
我々の存在している場所が異なる場所だということだ。
空間の移動。
それも巨大な船ごと移動したということだ。
しかし、信じることはできない。
空間転移など、あり得るはずなどないのだ。
音声:「現在位置は、目的とする惑星の近傍と考えられます。」
クーカ:「なんだと!!
近傍惑星の映像をだしてくれ!!」
その声と同時に映像が表示される。
映像を見て、その場にいた全員が驚きの声を上げた。
「おぉ!!」
「きれい。」
映像に映し出されたのは、青く輝く惑星だった。
*1:カインと呼ばれる者
カインとレミューズの子供です。
間違えではありません。
この話は、番外編で書く可能性があります。
*2:バチン
継電器の発する音。
動作スイッチ・物理量・電力機器等の状態に応じ、
制御または電源用の電力の出力をする電力機器である。
*3:算出不能
人工知能にとっては、正確さは全てである。
全ては計算して算出される。
計算に使用できるデータが無ければ導き出す事もできないが、
過去に同様の事象があればそのデータから予測は可能だ。
(予測はあくまで予測であり、100%を保証するものではない。)
今回の場合、そのようなデータはない。
人間の様に、想像や憶測で数値を導くことはありえない。
だいたいとか、たぶんとか、ファジー的な考えは苦手なのだ。
いや、それを実現する事は不可能ではない。
しかし、人間の様に場合によってそれを切り替える事は
不可能と言っても過言ではない。
いわゆる空気を読むというやつである。




