作戦始動
宇宙歴20年、3月6日午後、安全な場所
ルードフは、総合指令室にいた。
作戦開始まで、あと1時間。
ルードフ:「避難は完了したか?」
音声:「現在の避難状況は96.5%です。
およそ1時間で避難完了予定です。」
ルードフ:「そうか。
作戦に変更はない。」
音声:「作戦開始まで、59分です。」
ルードフ:「作戦開始10分前に知らせてくれ。」
音声:「作戦開始10分前にお知らせします。」
ルードフは一通り指示を出し終わると、
昨日のゼロスとの会話を思い出した。
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ルードフ:「お前は、魔獣は不死身だと言った。
しかし、神の槍の攻撃で消滅したではないか?
これでも不死身だと言うのか?」
ゼロス:「それは、人間の考える不死身ってことだよね。」
ルードフ:「人間の考えるとは、どういう意味だ?」
ゼロス:「そうだ。
一つ質問しよう。
人間は、肉体を失ったらどうなる?」
ルードフ:「死ぬに決まってるだろう。」
ゼロス:「そう、それが人間の考える死だ。」
ルードフ:「まさか、魂とでも言うのか?」
ゼロス:「ふーん。
まさか君からその言葉が出てくるとは思わなかったよ。
君も見たよね?
黒い霧の中から生まれる魔獣を。」
ルードフ:「まさか、、、。
あの霧が魔獣の正体だとでも言うのか?」
ゼロス:「うーん。
半分正解で、半分不正解かな。」
ルードフ:「・・・」
ゼロス:「君達の言葉で言うと、あの霧から生まれた。
かな?」
ルードフ:「生まれた?」
ゼロス:「教えられるのは、ここまで。
そうだ、特別にあと1つだけ教えよう。
あの霧は人間も生み出している。
つまり、人間がいる限り、
全てを消し去ることはできないんだ。」
ルードフ:「どういう意味だ?」
ゼロス:「どういう言う意味って?
そのままの意味だよ。
そうだ、一つ昔話をしよう。」
ルードフ:「・・・」
ゼロス:「君達の歴史が始まる遥か昔。
そう、人間と魔獣の間で最後の戦いが行われたんだ。
6人の英傑が魔獣の王の城に乗り込み、
見事に魔獣の王を撃退した。
そして、巫女達の力によって封じ込められた。」
ルードフ:「巫女?」
ゼロス:「そう。
巫女のみが魔獣の王を撃退できるんだ。
しかし残念ながら、もう巫女はいない。」
ルードフ:「なんだと。
魔獣の王とやらは、
もう撃退できないとでも言うのか?」
ゼロス:「そう慌てる必要は無いよ。
僕が巫女の代わりをしよう。」
ルードフ:「何の戯言だ。
貴様がこの災いを招いたのではないか。」
ゼロス:「僕は人類の滅亡を望んでいる訳では無い。
さっきも言ったように、これは救済なんだ。
この星の人類を少しでも長く存続させることが、
必要なんだ。」
ルードフ:「なるほど。
我々は囮と言う訳か。」
ゼロス:「やっと理解したようだね。」
ルードフ:「貴様が何を企んでいるのかは分からん。
しかし、貴様の手を借りるつもりはない。
我々のみでこの窮地を乗り切って見せる。」
ゼロス:「それは、残念なことだよ。」
ルードフ:「最後にひとつ聞かせてほしい。」
貴様は何者だ?
神か悪魔か?
それとも別の何かなのか?」
ゼロス:「僕かい?
僕は全能ではないよ。
全能であったなら、こんな回りくどいことはしない。
君達と何も変わらないんだ。
ただ一つ違う事は繋がっていることかな。」
ルードフ:「繋がっている?」
ゼロス:「残念ながら、これ以上は答えられないんだ。
最後に忠告をしておく。
魔獣王の城の攻撃は止めた方がいいよ。
それは人類の寿命を縮める事にほかならないからね。
まあ、こんなところかな。
また会えることを楽しみにしているよ。」
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ルードフ:(奴の目的は一体何なんだ?
それに奴の言っている事は事実なのか?
:
奴の提案を受け入れるべきなのか?
:
いや、それはまだだ。
ただ一つ言えることは奴を処刑することは出来ない。
:
まさか、それが目的か?
:
いや、あの言動、死を恐れているようには思えない。
それよりも、もう少し情報を引き出す方が得策か。
:
)
音声:「居住ドーム04の駐留部隊から報告です。
423部隊6名が避難誘導中に未確認飛行生物と
接触した模様です。
報告によると、体長は2m程度。
胴体は人間と同様に四肢をもち、
背中には蝙蝠のような翼を有しています。
頭部は、犬のように鼻と口が飛び出しています。
体毛は長く身体中を覆っています。」
ルードフ:「なるほど。
(異世界で見た生物とほぼ同じか。)」
音声:「作戦開始まで、あと10分です。
避難状況は99.9%になりました。」
ルードフ:「あぁ、もうそんな時間か。
作戦フローの確認。」
音声:「作戦開始、1分後にミサイル発射。
10分後に神の槍射出。
着弾は15分後となります。」
今回の作戦は、神の槍と核による同時攻撃である。
同時といっても完全に同時ではなく、発射位置の違いによる
時間差が発生する。
ルードフ:「未確認建造物の衛星からの映像を映してくれ。」
映し出された映像は、古代の城のような建造物だった。
その上空を魔獣が、まるで蚊柱のように空を埋め尽くしていた。
:
:
:
音声:「作戦開始、5分前です。」
ルードフ:「・・・」
音声:「居住ドーム04の駐留部隊から報告です。
423部隊6名が避難誘導中に未確認飛行生物1匹と
交戦した模様です。」
ルードフ:「それで?」
音声:「ハンドレーザーで応戦しましたが、
死者3名、重症2名、軽傷1名です。
未確認飛行生物は無傷の模様です。」
ルードフ:「ハンドレーザーが当たらなかったのか?」
音声:「最高出力で135発命中しましたが、
体毛を焦がしたのみのようです。」
ルードフ:「体毛の覆われていない部分への
命中は無かったのか?」
音声:「7発の命中が確認されていますが、
行動を阻害するほどの傷を与える事はできませんでした。」
ルードフ:「そうか…。
(やはりハンドレーザー程度では、
役に立たないという訳か。)
:
(これ以上戦力を消耗するわけにはいかない。)
:
全兵士に緊急通達。
交戦は禁止する。」
音声:「全兵士へ交戦禁止を通達しました。」
:
:
:
音声:「作戦開始1分前です。
作戦中止は10秒前まで可能です。
カウントダウンを開始します。
50,49...」
ルードフ:(この作戦で一掃する。)
音声:「10,9,8,7,6,5,4,3,2,1,作戦を開始します。
なお作戦中止はできません。
:
未確認建造物の発光を確認。
急激に光量が増加しています。」
ルードフ:「映像を。」
映し出された3D映像には、魔獣の城を中心に6つの塔らしき
建造物が映し出された。
各塔の最上部がうっすらと光を帯びていた。
その光はルードフの見ている間にも徐々に光量を増していった。
魔獣達は光を避けるように移動している。
ルードフ:「あの光は?」
ルードフは、その光に目を奪われた。
光は強く、そして大きくなっていった。
最終的には、魔獣の王の城、6つの塔を包み込んだ。
それは幻想的でもあったが、不安と恐怖も呼び起こした。
ルードフはゼロスの言葉を思い出した。
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最後に忠告をしておく。
魔獣の王の城の攻撃は止めた方がいいよ。
それは人類の寿命を縮める事にほかならないからね。
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ルードフ:(まさか、神の槍や核攻撃をも防ぐとでもいうのか?
ありえん。)
:
:
音声:「神の槍の射出カウントダウンに入ります。
30,29,28,...,3,2,1,射出。」
ルードフは射出映像を眺めながら静かに呟いた。
ルードフ:「人類は決して負ける事は無い。」
:
:
ルードフは、魔獣の王の城の映像を見ていた。
しかし、正体不明の光に包まれ、
その実像を見る事は出来なかった。
音声:「着弾まで、10,9,8,7,6,5,4,3,2,1,着弾。」
ルードフ:「???」
音声:「ミサイル着弾します。
5,4,3,2,1,着弾。」
ルードフ:「なんだ?
一体なにが起こった。
何故何も起きない?」
音声:「正体不明の光が急速に減光しています。」
魔獣の王の城を包んでいた光は、すぐに消え失せた。
魔獣の王の城は何事も無かったように今もそこにあった。
音声:「アポロ01からの通信が途絶えました。
現在調査中です。」
アポロ01、それは神の槍を発射した軍事衛星だった。
ルードフ:「なんだと!!
直ぐにアポロ01の映像を表示。」
直ぐに映像が切り替わった。
しかし、そこにはアポロ01の姿は無かった。
ルードフ:(消滅?)
音声:「アポロ01は、何者かの攻撃により破壊された模様です。」
ルードフ:「破壊だと!!
一体どうやって?」
音声:「破壊時の3D映像を再生します。」
再生された映像は、突然爆発したようにしか見えなかった。
音声:「解析の結果、
高速で高温の棒状物質が衝突した模様です。」
ルードフ:「高温の棒状物質!?
まさか。。。
本作戦に参加した全ての基地の映像を表示。」
表示された基地映像を見てルードフは驚いた。
ミサイルを発射した基地の上空に
巨大なキノコ雲が映し出されていた。
HDDが故障し復旧に時間がかかってしまいました。




