囮(おとり)
宇宙歴20年、3月6日午後、安全な場所
ルードフは、3D映像に映し出されるキノコ雲を無言のまま
見つめていた。
ルードフ:(ありえない。
あの獣が人類に勝るとでもいうのか。)
ルードフはこの時、ゼロスの言った言葉の意味を理解した。
魔獣の王の城への攻撃は、そのまま返されるという事を。
ルードフは小走りに総合指令室を後にした。
向かった先はゼロスの元だった。
ゼロス:「また来たね。
しかし、魔獣の王の城への攻撃は愚策だったね。
忠告を無視した結果だよ。
それと多数の戦闘車両が城に向かっているようだけど、
撤退することをお薦めするよ。」
ルードフ:「あの部隊は地上軍の作戦だ。
私には権限はない。」
ゼロス:「そうか、それは残念だ。
ところであの部隊の映像は出せるかな?」
ルードフ:「バトラー、進軍中の地上軍の映像は観れるか?」
音声:「近・中距離映像は権限不足です。
遠距離映像を映します。」
映された映像を見て、ルードフは驚いた。
ルードフ:「あれはなんだ?」
10台ほどの戦闘車両を多数の魔獣が取り囲んでいた。
魔獣の頭の上には火の玉があった。
その火の玉が次々に戦闘車両に向かって飛んで行く。
火の玉が命中した戦闘車両の装甲は水飴の様に溶けていた。
戦況は一方的だった。
戦闘車両の攻撃は魔獣に全く効いていないように見えた。
ルードフ:「あの火の玉は何だ?
プラズマ兵器なのか?」
ゼロス:「あっ、あれかい。
あれは魔法さ。」
ルードフ:「魔法?」
ゼロス:「そう。
魔法だよ。」
ルードフ:「笑わせるな。
魔法など存在するわけがない。」
ゼロス:「君は勘違いしているようだね。」
ルードフ:「なに!!」
ゼロス:「君は異世界を信じていたかい?」
ルードフ:「・・・」
ゼロス:「君は異世界で何を見た?」
ルードフ:「・・・」
ゼロス:「魔獣の王の城への攻撃はどうなった?」
ルードフ:「・・・」
ゼロス:「1000年前の人々は今の生活を想像できたかな?」
ルードフ:「・・・」
ゼロス:「君達は魔法を捨て、科学を選んだ。
ただ、それだけのことなんだ。」
ルードフ:「一つ聞きたい。
科学でも魔獣の王とやらを倒せるのか?」
ゼロス:「魔法と科学だけど、実は原理は同じなんだ。」
ルードフ:「原理は同じ?」
ゼロス:「んー。
そうだ、いま君はレーザー武器を持っているよね。
そこの壁にでも発射してくれるかな。」
ルードフ:「なんのために?」
ゼロス:「まあいいから、やってみて。」
ルードフ:「この場でハンドレーザーの試射を行う。」
音声:「ハンドレーザーの試射、承認しました。」
ルードフは腰の銃を抜き壁に向けて構えると引き金を引いた。
レーザーは、壁を少し焦がした。
ゼロス:「なるほどね。
良く分かった。」
ルードフ:「???」
ゼロスは、右手を壁に向かって突き出すと何かを呟いた。
ルードフ:「!!!」
ルードフは驚いた。
ゼロスの指先から壁に向かって強い光の線が見えたのだ。
壁を見ると光が当たった部分が真っ赤に溶けていた。
ルードフの顔がみるみる青くなる。
ルードフ:「まっ、まさか、レーザーか?
そんなことができるのか、、、。」
ゼロス:「レーザーとは少し違うけど、似たようなものだよ。
例えば君達のレーザー武器だけど、
あれは、色々な部品を使ってレーザーに必要な状態を
作り出している。
魔法は直接空間に働きかけて同じ状態を作り出すんだ。
プラズマにしても同じこと。」
ルードフ:「まさか、魔獣も同じことができるのか?」
ゼロス:「いや、魔獣が使うのは炎だけかな。
そうだな、プラズマ兵器や火炎放射器をもっていると
思えばいいよ。」
ルードフ:「・・・」
ルードフは少し考えると言った。
ルードフ:「貴様は我々に手を貸すといっていたな。」
ゼロス:「そうだね。」
ルードフ:「ならば、聞かせてもらおう。
どうすれば、魔獣の王とやらを倒せる?」
ゼロス:「ストレートにきたね。
そういうのは嫌いじゃないよ。」
ルードフ:「ならば、教えろ。」
ゼロス:「魔獣の王の城に直接乗り込み、
魔獣の王を追い返すしか方法はない。」
ルードフ:「追い返す?」
ゼロス:「異世界に追い返すんだ。」
ルードフ:「あの通路はもう閉じてしまった。
そんなことができるのか?」
ゼロス:「僕にはその力がある。」
ルードフ:「どうすればいいんだ?」
ゼロス:「それを成す為には、いくつか
やり遂げなければならない事があるんだ。」
ルードフ:「やりとげること?」
ゼロス:「最初に一つ言っておこう。
大軍で攻めてもこの戦いには勝てない。
大軍対大軍ならば、魔法を使える魔獣が圧倒的に
有利なんだ。」
ルードフは先ほどの戦闘車両の戦いを思い出した。
ルードフ:「たしかにな。」
ゼロス:「大軍が無理っていうのは分かったかな?」
ルードフ:「あぁ。」
ゼロス:「少人数で魔獣の王の城に突入して魔獣の王と
直接対決するのが最善かな。」
ルードフ:「なるほど、少人数で隠密作戦ってところか。
だとしたら、人数は5,6人ってところか。」
ゼロス:「いいセンスをしているね。
さすが軍の頭をはるだけのことはあるね。」
ルードフ:「敵の魔法はどうするんだ?
戦闘車両の装甲を溶かす火の玉は防ぎきれない。
特に狭い場所であれを受けたらただじゃすまない。」
ゼロス:「外は別として、魔獣の王の城の中は一部の部屋を
除いて魔法の威力は抑えられている。」
ルードフ:「一部の部屋とは?」
ゼロス:「魔獣の王の玉座の間と門番のいる部屋かな。」
ルードフ:「門番?」
ゼロス:「魔獣の王の城の入口は4つあるんだ。
入ってすぐ部屋になっていて、その部屋に門番がいる。」
ルードフ:「まずその門番を倒さないといけないのか?」
ゼロス:「いや、その必要は無い。
北の入口から入れば門番はいないんだよ。」
ルードフ:「なぜだ?」
ゼロス:「北の門番は遥か昔に排除されたんだ。」
ルードフ:「そうか。
それで、次は?」
ゼロス:「城の中心にある、血呪草を燃やすんだ。」
ルードフ:「血呪草?」
ゼロス:「血呪草は、呪いの力を強化する。」
ルードフ:「呪い?」
ゼロス:「そう、呪い。
代表的なのは石化とかかな。」
ルードフ:「石化か...。
まさに、ファンタジーのオンパレードだな。
もう、驚くことも無くなった。」
ゼロス:「うん、それでいい。
いちいち驚いていては、身体がもたないよ。」
ルードフ:「そうだな。
次はどうする?」
ゼロス:「2階へと向かう。
ここでは、幻影が行く手を阻むだろう。」
ルードフ:「幻影か。」
ゼロス:「異世界でも見たよね。
草原に見えたはずだ。」
ルードフ:「なるほど。
あれは幻影だったのか。
バトラーが正常に機能しなかった訳だ。」
ゼロス:「幻影は僕が防ぐから問題ない。」
ルードフ:「そうか。」
ゼロス:「2階に上がったら正面に部屋がある。
その部屋の中に魔獣の王はいる。
入ってすぐに魔獣の王の最大の魔法攻撃があるはずだ。
それを受けてしまったら全滅だ。」
ルードフ:「・・・」
ゼロス:「安心していいよ。
最初の一撃は僕が防ぐ。
君達が攻撃するのは、その後からだ。」
ルードフ:「一体どうやって?」
ゼロス:「君達はスタンバトンという武器を持っているね。」
ルードフ:「スタンバトンだって!!!。
あれは暴徒鎮圧用だぞ。
殺傷能力などない。」
ゼロス:「分かっているよ。
あの技術が必要なんだ。
あの武器は相手の動きを止める事ができる。
君達には武器を作ってもらいたい。」
ルードフ:「どんな武器だ?」
ゼロス:「剣だよ。」
ルードフ:「剣だって!?」
ゼロス:「魔獣の毛は特殊でね。
もっとも有効なのが切断なんだ。」
切れ味の鋭い剣に
スタンバトンの能力を付与してほしい。
切断と同時に電撃が発動するようにね。
当然電撃の威力はもっと上げる必要がある。
使用回数も1500以上は必要だし、
リキャストも5秒以内である必要がある。
そして、その剣で相手にダメージを与え、
電撃で相手の魔法を止める。」
ルードフ:「魔法を止める?」
ゼロス:「魔法の発動方法は色々とあるけど、
その1つが発声なんだ。
魔獣は発声を使って魔法を発動する。」
ルードフ:「接近戦が有効ということか。
ならば外の敵も倒せそうだな。」
ゼロス:「それは止めた方がいい。
魔法には発動時間の短いものも存在するんだ。」
ルードフ:「ならば、背後から近づき1匹づつ倒すのでは?」
ゼロス:「魔獣は繋がっているんだよ。
1匹の魔獣を倒せたとしても、
それは直ぐに他の魔獣の知る所となる。」
ルードフ:「むぅ~。」
ゼロス:「君達は一度の戦いで勝利を得ることはないよ。
それこそ幾度となく敗北することになるんだ。
君達は人材の育成に勤しまなければならない。
だけど、人材の枯渇は僕の望むことではないんだよ。
そこで、転受の魔法陣を作ろう。」
ルードフ:「転受の魔法陣?」
ゼロス:「そうだね。
君達流に言うと物質転送装置の転送先ってとこかな。」
ルードフ:「物質転送装置だと!!!
そんなものが実現、、、。
いや、これ以上言うのはやめておこう。」
ゼロス:「さて、魔獣の王と戦う決心はついたかな?」
ルードフ:「幾つか尋ねたいことがある。」
ゼロス:「なにかな?」
ルードフ:「魔法とやらは、我々にも使う事はできるのか?」
ゼロス:「うーん。
僕は多くの人を見て来たけれど、魔法を唱えられる
資質を持った者を見つける事はできなかったよ。
高度な魔法は資質も必要なんだ。
そうだね、魔法教育をできる環境を整え、
1000年程の時間があれば、魔法を唱えられる子供が
生まれる可能性はあると思うよ。
だけど魔法の基礎は教えられても、
修得は個人の努力次第だからね」
ゼロス:「・・・」
ルードフは考えた。
話を聞く限り、魔獣は人間よりも肉体的にも技術的にも
遥かに優位な生物である。
果たして本当に人間に倒せるのか?
魔獣の王はいかなる強さなのか?
ゼロスは言っていた。
「君達は一度の戦いで勝利を得ることはないよ。
それこそ幾度となく敗北することになるんだ。」
今の我々では勝つことは出来ないという事に等しい。
これは一歩間違うと人類絶滅もありえる。
ルードフ:「もし我々が滅びた場合どうなる?」
ゼロス:「魔獣は移住先の惑星をいずれ見つけるだろうね。」
その回答にルードフは顔をゆがめた。
しかし恐怖は消えていた。
それは開き直りとも思えた。
ルードフは少し考えると言った。
ルードフ:「最後に尋ねたい。」
ゼロス:「なんだい?」
ルードフ:「貴様は、我々を囮といった。
惑星移住は成功し、人類は生存し続ける。
そう思っていいのか?」
ゼロス:「惑星移住は成功するだろうね。
ただし、そこで生存し続けられるかは
彼等と君達次第かな。
そして君達が長く生き続けられるほど、
その確率があがる事は間違いないよ。」
ルードフ:「そうか。
ならば我々は囮でも構わない。
しかし、我々も黙って滅ぼされるわけにはいかない。
魔獣の王と戦いで勝利を手にするつもりだ。
ゼロス、手を組もう。」
後にこの戦いが
『終わりなき戦い』と
呼ばれることになる。




