最終話 幸福なカメラマン 骨皮すじ男 その4
我々はそのまま新宿の線路沿いへ逃げた。線路は幽霊でごった返していた。スタバのタンブラーを持った若い幽霊が、私を見ると「猫ちゃん、猫ちゃん」と言って血に濡れたスマホを片手に寄ってきた。私たちはやっとのことで、幽霊も人もいない駅ビルの工事現場へ逃げ込んだ。
私はしくしくと泣き、涙に濡れる太郎吉を、責め続けた。
「お前のせいだよ。お前があそこで妹の挑発に乗らなければよかったんだ。おかげで計画は全部おじゃんになった」
「だけど僕は妹には逆らえないんだ、あいつはね…あいつこそは、『エラバレシ狸』なんだよ!」
「エラバレシ狸?」
「そうだよ、あいつはなにをやらせたって一等なんだ。あいつはきっと、神様に選ばれた狸なんだ。だからなんでも持っているんだ…」太郎吉は声を詰まらせた。「あいつは自分でもそれをわかっていて、僕に向かってこういうんだ…にいちゃんは、選ばれなかった狸なのね、って」
私の心に、さざ波が立った。トラックの荷台へ詰め込まれた猫たち。選ばれなかった猫たち。ガス室へ運ばれていく…
「聞いているの?」
太郎吉に尻尾を引っ張られて、我に帰る。
「聞いているよ」
すると太郎吉は胸に積もり積もった鬱憤を晴らすかのように、喋り始めた。「どこへ行っても比べられるんだ。タヌ子はできるのにねえって、言われてさ。タヌ子はこんなに点数がいいのに、タヌ子は何にでも化けられるのに、タヌ子はあんなに器量よしなのにって」
「器量好しだって?」私は鼻で笑った。「どこがだね?」
太郎吉はそこで泣き止むのをやめた。「妹は、ミス美狸コンテストで一位をとったんだよ。そしてそのメダルを得意げに、首から下げてるんだ…」
「安心したまえ!」私は精一杯心を込めて言った。「君の妹はブサイクだよ」
「本当かい?」
「ああ、言っておくけどね、太郎吉、狸の目なんか節穴なんだから、あてにならないんだよ。」
「だけど僕も狸じゃないか!」太郎吉はそれに気づくと、またわんわん泣き始めた。これだからガキは困るんだ!私は仕方なく、彼のそばへ寄り添って、尻尾で頭を叩いてやった。「つまり私の言いたいのはね…太郎吉、君はいち狸から脱するべきなんだ、猫のように広い視野を持ってごらん、いかに狸や、人間どもが、ちっぽけだかわかるから。」
「だけど僕は狸だし」
「君がもし、猫の視野が欲しいってんなら、私が特別に、教えてやらんこともないしね。」
「本当かい」
「うん。その代わり、たんと協力するんだよ。猫ってのは、もらった恩は忘れないんだ。きっかり借金は返してからじゃないと、死ねないからね。」
太郎吉はそこで、私をじっと見つめた…そして、「そうしたら、タヌ子に勝てるかい?」と言った。私は尻尾で思い切り撫で回してやって、「もちろんだよ!」と言った。すると太郎吉は何か感動したような、熱く潤んだ瞳で、私を見つめた。私はその暑苦しい眼差しに耐えきれなくなって、目を背けた。




