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ノア=トルシア

「先ほど黒本さんが言ってましたが、この世界には魔王が存在するんですか?」

「はい。約百年前にも魔王は現れ、人々に恐怖を与え、人々を苦しめたと聞いております」


 黒本さんが前に資料として教えてくれた話を神官はしてくれた。

 おとぎ話にするには近くて、それでありながら思い出話には遠い、そんな話だ。


「じゃあこの剣を引き抜ければ、勇者って事だな」

「はい。この剣……名をノア=トルシアと伝えられております」


 変わった名前の剣だなぁ。

 しかし……そこまで伝説のある剣となると、確かにこの中で抜ける人がいたら戦力アップになると思う。


「最後のこの剣を抜いたって人は?」

「えー……三百年程前だと聞いております」


 随分と前の話だな。

 異世界人だから抜けるという事ではないみたいだな。

 俺達の中で抜ける奴がいるか非常に怪しい。


「じゃあ……」


 俺達はこの中で一番剣を使いこなせそうな奴に視線が向かう。

 そう、依藤だ。

 依藤は何故か俺を見ている。

 何故俺を見る。


 俺が聖剣を抜いて魔王を倒せと言いたいのだろうか?

 そりゃあクラスメイトに被害が及びそうで、俺が選ばれたなら戦うが、一番剣を使いこなすのはお前だろ。


「依藤」

「やっぱ俺か!?」

「そりゃあそうだろ。お前は自分の能力が何なのか忘れてるのか?」


 剣術の能力者。

 伝説の剣を抜く人物にこれ程適した奴もいないだろう。


「い、挑んでも良いけど、これで抜けなかったら格好悪くないか?」

「まあ……これで他の奴が抜けたら赤っ恥になるのは依藤だよな。剣術が聖剣に選ばれなかったってのは」


 萩沢も辛辣な事を言うなぁ。

 気持ちはわからなくもない


「三百年抜いた奴がいないんだから依藤が抜けなくても別に良いんじゃないか?」


 俺が助け舟を出すと依藤が何度も頷く。


「かと言ってここで見ているだけってのもアレだろ。みんなで挑戦しようぜ」

「そうだな」


 という訳で、依藤を先頭に剣を抜く為の列が出来る。

 最初は剣術にして俺達の中で一番強い依藤が台座に刺さった剣の柄を握って引き抜こうとする。


「あれ? 何か剣の飾りが光らなかったか?」

「そうか?」


 シンプルな飾りの部分が僅かに発光した様に見えるのは……気の所為か?


「ふん!」


 依藤が俺達が見ているのをしり目に引き抜こうとして失敗した。


「はぁ……はぁ……ダメだ。台座に引っ付いてビクともしない」


 強引に台座を壊して抜けそうだけど、それをしないのはマナーなのかな?

 王道的な流れでは壊れない材質、とかなんだろうけど。


「幸成、台座を壊そうとか考えてるだろ」

「ばれたか」

「見た感じ、武器としての表示が発生していないって事は、選ばれた者が抜かないと効果が出ないって事なんじゃないか?」

「まあ……そうなんだろうなぁ」


 そんな裏技的に抜いても効果を発揮しないって事なんだろう。

 他に能力を使って引き抜けないかとか挑戦してる物も出てくる。

 学級委員が植物を操って引き抜こうとして失敗していた。

 やがて、茂信が剣に触れる。


「鍛冶の能力を持っているから何かわかるかと思ったが……ん?」

「どうした?」

「試しに強化とかやってみようと思ったんだが、やっぱり普通の武器じゃないみたい……なのか? なんか似た様な感覚を知っている様な気もするんだけど、よくわからない」

「似た様な感覚か。剣なんだし、大昔に誰かが作ったとかなんじゃないか?」

「まあそうだろうな。とはいえ、一瞬何か見えたような気もしたんだが……」

「ふむ……」


 で、次は実さんが抜こうとして見て……魔力補充までしてみたけど、全く抜ける気配は無い。


「次は俺だぜ!」

「お? ミケがいるのに剣に浮気か?」

「うるせえ!」


 萩沢が意気揚々と剣を抜こうとして茶化される。


「ぐぬぬぬ!」

「ニャー!」


 あ、ミケが抜けるなって祈りを捧げている。

 ミケは萩沢が好きなようだ。

 なんか微笑ましい。


「ガウー」

「ぐぬぬぬぬぬぬぬぬ――」


 萩沢もがんばるなぁ。

 必死に抜こうと試みていたが、剣はビクともしなかった。

 そんなこんなでクラスメイトのみんなが抜く事に失敗した。

 まあ、そう簡単に勇者なんて出る訳は無いか。


「羽橋、お前も見てないでやれよ」


 依藤が俺に挑戦を申し出る。


「さっき触ったぞ」


 抜こうとして抜けなかった。

 抜けそうで抜けない、そんな手ごたえなのが力を入れたくなる。

 ある意味不思議な感触だった。


「そうじゃなくて」


 俺は依藤が何を意図してるのかわかったと同時に茂信に視線を向ける。

 ……マジでやるの?


「悔しいからやってくれないか?」

「それ、抜けても意味ないぞ」


 俺はため息交じりに髪を掻くのだが、抜けなくてみんなして悔しそうに俺に視線を向ける。


「はいはい。これで抜けても何にもならないと思うぞ? というか……抜けるのか?」


 と思いながら再度剣の柄を握って、転移で指定する。

 ……あれ?


「どうした?」

「何かよくわからない」


 転移出来ない訳でもなく……拒否されたような?

 再度、転移指示をすると。


「あれ?」


 先ほどとは反応が異なり、砂時計が出現した。

 俺が剣から手を放すと……依藤、勝利とばかりに拳を前に出すな。

 神官、お前もだ。

 依藤と神官、その数人がネタに走ったか様に勝利のポーズをとってる。

 やがて五分経過すると、俺の手に剣が転移した。


「おおおおおおお!」

「これって抜けた事になるのか?」


 いや、何か違う気がするぞ。

 剣を掲げて装備しようとして弾かれた。

 装備出来ないじゃん。


「はいよっと」


 面倒だったので依藤に投げ渡す。


「振りかぶって見ろ」

「おう! あいて!」


 やっぱ依藤も使えないか。

 抜けなきゃ強引に転移させても同じだろ。


「台座から強引に引き抜いたって感じだな」

「選ばれてないのに強引にってのはやばそうだな。台座に戻しておくか」

「そう……だな」


 という所で、剣が光り輝き、浮き上がった。


「な、なんだ!?」


 剣を中心に衝撃波が発生した。

 も、もしかしてやばかったか?

 魔王を封印しているとか、伝説の剣的にありそうな展開だ。

 俺達は揃って臨戦態勢に入る。

 すると……剣は衝撃波を発生させるのを止め……台座に戻った。


「オートで元の場所に戻る機能付き? やっぱ不正はダメって事だな」

「戻るだけでも凄い機能だな」

「ガウー」

「ニャー」


 クマ子とミケが何か鳴いて頷いている。

 同じ武器として何か感じる物でもあったんだろうか?

 ふむ……どっちにしても、俺達の中に聖剣を抜ける奴はいなかったって事で良いだろう。


「結局は無駄足って事か?」

「そうとも言い切れないわ」


 黒本さんが答える。

 そして台座を指差した。


「さっき羽橋君が剣を抜いた際に、台座に魔力的反応を感知したわ。この中に感じた人もいるんじゃない?」


 すると何名か頷いて手を上げた。

 魔力的反応?


「複雑に封印が施されている様ね。まさか転移で強引に座標をずらされるなんて思っていなかったって感じだったわ」

「そんな事が?」

「ええ、だから剣の位置を正そうと強引に動いた……そんな感じだったのよ」

「じゃあ、その封印を解いて行けば、この剣は抜けるようになるって事だな」

「別にこの剣じゃないと魔王を倒せない訳じゃないだろ?」


 伝承とか紐解くと無くても良い物らしいぞ?

 なのに欲する必要があるのか?

 まあ、足踏み状態なんだから、やってみて悪い話じゃないとは思うけど。

 武器一つで行ける場所が増えるとかゲームではよくある話だし。


「この部屋で見つかった情報を元に、更に調査を続けて見ようと思うわ」


 という事で、俺達の今後の目的として職業神殿に眠る聖剣を引き抜くが追加された。


「じゃあ解散か」

「だな」

「ま、結構面白かったんじゃない?」

「依藤ー次の合宿はいつだー?」


 などとクラスメイトは思い思いにみんなで雑談をしながら職業神殿から出ようとしたその時――。


「大変です!」


 国の騎士が俺達を呼び止めた。


「な、何かあったの?」

「調度良いので職業神殿の小部屋に異世界人の皆さまを案内しろと仰せ使っております」


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