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30歳から始まる魔法生活  作者: 霧野ミコト
第二章 開かれた神話
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第九話 生き残る意志

穏やかな陽光が降り注ぐ午後の時間。


すぐそばでは、子供たちの楽しそうな声があがっている。


浮かべた表情は満開の笑顔で、幸せな生活を送っているというのが、よくわかる。


でも、その笑顔が咲いているのは、子供たちの幸せが守られているのは、たった二人の女の子のおかげ。


アイシャとミィーナの二人のおかげで、子供たちは無邪気な笑顔を浮かべられる。


彼らは孤児だった。


クエストや災害で親を亡くし、行く先を失ってしまった子供たちで、そんな子供たちに彼女たちは手を差し伸べた。


稼いだお金で孤児院を作った。


決して裕福ではないけれど、それでも生きるに困らない、人として当り前の暮らしを子供たちは送っていて、そのおかげで子供たちは幸せそうな顔をすることができている。


彼女達の実力であれば、孤児達ももっと稼げるし、もっといい生活も出来るだろう。


だけど、決してそれはしなかった。


裕福すぎれば目の敵にされるし、何より彼らの教育にも良くないから。


裕福な生活が当たり前となれば、与えられることが当たり前の生活になってしまう。


自分で手に入れる喜びを知らずに、分からずに大人になってしまう。


だから、彼女達は必要以上に裕福になろうとはしない。


子供たちは彼女たちに生かされている。


彼女のおかげで、幸せを感じられている。


そして、それは僕も同じ。


僕もまた、彼女たちに救われた。


あの時の戦闘から目を覚ました後、僕は彼女たちに、アイシャに救われたのだ。





☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆






目が覚めると、視界いっぱいに広がったのは木目調の天井だった。


「あら、ようやく目が覚めたみたいね」


枕元から声がした。


「うっ、くっ」


身体中が痛むけれど、何とか起こすと、そこにはヴィゼッタさんがいた。


「あの状態の傷を治してからわずか数時間で置き上がるとは意外と根性はあるのね。だけど、今はゆっくりと休んでおきなさい。本当なら絶対安静の入院一か月のけがを無理やり治したんだから、体力はほとんど残っていないのよ」


そう言った彼女は、僕の身体を押すと横たわらせる。


「私の夫が治してくれたの。『AAA』ランククラスの魔法使いで、ヒーラー、回復魔法が得意なのよ」


「どうも」


そういって頭を下げた彼は、ヒーラーとは思えないほど、クマのような屈強な身体をしている。


むしろ、戦士とかの方が合っていそうだ。


「お礼ならいらないわよ。というか、君にしてみれば、私を怨みたいでしょうけど」


彼女の言葉にはっとする。


そう言えば、そうだ。


思わず感謝しそうになったけれど、これはもともと彼女のせいなのだ。


危険と判断したら割って入ると言ってくれたのに、結局彼女は助けるどころか、見ているだけだった。


「でもね、私にだって言い分ぐらいあるのよ」


「……どんな言い分ですか?」


下手な言い訳なら許すつもりはない。


死にそうな目にあったんだから、許せるわけもない。


「ヒューエルから聞いていたし、アイシャやミィーナも感じていたし、私自身も貴方の戦い方を見たら、気づいたわ。貴方、自分のことを大切にしていないでしょう」


だけど、そんな思いは急激にしぼんでいった。


「私はね、私がエンチャントするコアクリスタルに思いを込めるの。このコアクリスタルが、持ち主を守ってくれるものであるように、ってね。でも、その本人が自分のことを大切にしていなかったら、私の思いは全く意味なんてないわ。やるだけ無駄だし、無駄なことをしてあげるほど、私だって暇じゃない。だから、試したのよ。貴方がどれほどまで生に執着しているのかをね」


生への執着。


要するに最後の最後で見せた、あの姿のことを指しているんだろう。


あの姿を見たいがために、あんなことをしていたんだろう。


「私が知っている限りでは、ここに来てからわずかな時間だけど、密度の濃い戦闘をしてきているでしょう。ビギナーでユグドラシルの森で戦って、Eマイナスランククラスでワイバーンと戦い、Dマイナスランククラスで始祖竜と戦った。でも、普通の人じゃ無理よね。よほど才能に恵まれない限り、そんな無茶なことができるはずない。そして、そんな才能、貴方にはない。アイシャやミィーナのように天賦の才なんて持っていない」


この年になるまで、この世界に来ることは出来なかった。


それが明かすことは簡単なことだ。


要するに大した才能なんてなかった、ということだ。


「なら、そんな貴方がどうしてここまでこれたのかしら。アイシャやミィーナの指導の成果?確かに、それも全く関係ないことはないと思う。でも、それだけで才能のない貴方がそこまで強くなれるかしら。私には思えないわ。なら、他に何があるのか。私に思いついたのは、貴方自身の心の持ち方ぐらい。だけど実際に見たらそうだったわ。心のどこかで、君は自分の命を軽んじている。生きることを諦めている。だから、辿り着けるのよ。諦められているから無茶ができる。生と死のぎりぎりのところを踏み越えられる。もともと生きることに執着していないから、死ぬことを受け入れているから」


「……」


それに対して、僕は言い返せない。


反論なんてできやしない。


完全に的を射た言葉だから反論なんて出来やしない。


「でも、そんな人に、アイシャの周りにいてもらっては困るのよ。あの子は、小さな頃にその心をずたずたに引き裂かれるような目にあった。今は、ミィーナがいるから、なんとか前を見ていられるけど、それでもいまだに心に深い傷が残っている。失うことの恐ろしさを誰よりも知っている。そんなあの子の前に、生に執着のない君がいたら、どうなるなんて簡単に想像できるわ。貴方のことを心配するだろうし、もし貴方に何かあったら、れこそ心をズタズタに傷つけられてしまうわ。だから、そんな人をアイシャのそばになんていさせるわけにはいかないの」


確かに、彼女の言う通りなら、僕が彼女のそばにいてはいけない。


僕がそばにいるだけで、彼女を傷つけてしまう。


彼女を苦しめてしまう。


そんなの僕が望んでいるものじゃない。


自分のせいで、誰かが苦しむのは嫌だ。


自分が自分のやったことの責任の上で、どうにかなるんだったら構わないけど、自分のやったことのせいで、他人に火の粉をかぶせるようなことだけはしたくない。


「……分かりました。もう、彼女とは関わりません。彼女を傷つけることは僕の本意ではありませんから」


もう会えない。


そう思うと、ひどく寂しいけれど、彼女を傷つけるよりかはましだ。


それに、もともとアレックス隊長にも言われていたことだし、ちょうどいいと言えば、ちょうどいいのかもしれない。


「早とちりは女の子に嫌われるわよ。別に、私はそこまで言っていないわ」


「え?」


「確かに、前までの君じゃ、一緒にいさせるわけにはいかないと思ったわ。だけど、君はあの時、生きようとして必死にもがいた。必死になって生き延びようとした。まあ、文句なし、というわけじゃないけれど、ぎりぎり及第点ね」


「……いいんですか?」


一人は嫌だ。


寂しいのは嫌いだ。


だから、その言葉は素直に嬉しいけど、頷いていいのか、その言葉に従っていいのか、判断しかねる。


「ちゃんと貴方は覚悟を示したわ。あの時、アイシャは、貴方に叫んだわ。死なないで、と。それに貴方は答えた。もうどうやっても戦えない状態だったにも関わらず、必死にもがいて、そして生き残ったわ。それだけで十分よ。もう自分の命を軽んじることもないでしょうしね」

すがに、あれだけ泣き叫ぶ彼女を見ると、やすやすと死のうとは思わない。


何が何でも生き残って見せる、と思ってしまう。


「それとこれは、その頑張りの成果よ」


「これ、僕のコアクリスタル?」


「そうよ、直しておいたわ」


渡されたのは、ヒビ一つないコアクリスタルだった。


「一応、エンチャントもしておいたわ。貴方に相談もなしでも決めたけど、出力ばかりが高くてバランスが悪いから、制御系統に重点を置いて、防御機能も大幅に上げておいたわ。もちろん、他のところもあげているから、全体的にパワー自体も上がっているわ。ざっくばらんに言うと、今までよりも強い魔法を、自分にかかる負荷を少なく使えるようにしてある、ってところかしらね」


「ありがとうございます」


もし、そうなら願ったりかなったりだ。


これなら、もし、ワイバーンと単独戦闘になった時で、随分と楽に戦える。


「まぁ、私からの話はこんなものかしら。ドアの向こうで、貴方のことが心配でたまらない子が、まだかまだかと待っているから、失礼させてもらうわ」


そう言った彼女は、椅子からすっと立ち上がると、そのまま出て行く。


彼女の夫もそれについて出ていった。



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