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30歳から始まる魔法生活  作者: 霧野ミコト
第一章 紐解かれる神話
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第一話 おっさん、始動!

遅くなりました。

もし、待っていた方がいたらお待たせしてすみません。

とりあえず、キャラがぶれ気味で、不安定ですが、それが彼なので、ご理解を。


薄汚れた床と染みだらけの壁紙はところどころ小さな傷やひどいところには拳大の穴があいていて、お世辞にもきれいとは言えない。


だけど、ここが僕のホーム。


ユミールの来たばかりの人間は、国が管理している施設の宿舎に泊まることになる。


僕のほかにも、たくさんの来たばかりの人間が、ここに住んでいる。


「すみません、今日はちょっと遠出しますんで遅くなります」


折り目正しく挨拶をする。


何事も礼儀が肝心。


こちらに来てから随分と経ったが、まだまだ日の浅いには違いない。


「おお、新入りか?頑張れよ」


けれど、それはちょっと場違いじゃないかとも感じるのも正直な話で、いつも豪快な返しをされてしまっていると、もう少し砕けた感じの方がいいんじゃないのかと思わないでもない。


「あの、そろそろ名前で呼んでいただけませんか?」


というよりも、気になったんだけど新入りというのはやめて欲しい。


ここに来てから、日が浅いとはいえ、それでもしばらく滞在している。


もうそろそろ名前を覚えてくれてもいいと思う。


何より、三十を超えたおっさんだ。


どうしても、新入りと言われるたびに違和感を覚える。


「アキラ・ヒイラギ、いや、お前さんの国ではヒイラギ・アキラだっけ?」


「そうです」


「分かったよ、覚えておこう、新入り」


「……はあ」


どうやら、呼んでくれるつもりはないらしい。


ここで、何回か他の住人たちとの話を聞いているが、彼が名前を呼ぶ時には一定のルールがある。


それは、彼が認めること。


彼が認めてくれるだけの結果を出すこと。


とはいっても、ここは新人が集まる場所であり、強力な力を持った人間はいない。


だけど、今の僕はその中でも結果なんて出してない。


今までやってきた戦闘経験だって、たいしたことはないどころか、いまだに実践練習から抜け出せないレベルだし。


確かに僕は願った通り、特別になったが、それはあくまでも、普通の人に比べると特別なだけで、本当の特別ではなかった。


最初から分かっていたことだとはいえ、少々辛いものがある。


「そう言えば新入り、そろそろ、新しい魔法は覚えたのか?」


「今の魔法が練習中ですから、まだですよ」


「おいおい、他の魔法使いの連中はとっくに二桁は行ってるぞ」


「まぁ、そうなんですがね」


確かに周りに居る僕と同じ魔法使いの人たちは、僕の倍以上は軽く覚えている。


だけど、これだけは、どうしようもないのだ。


ユミールに来ると決めた時、まず、戦闘タイプを決めることから始まった。


その時は思わずネットゲームみたいだと思ってしまったけれど、実際のネットゲームとは違ってかなり幅広い選択肢があり、僕は魔法剣士を選んだ。


まあ、あくまでも戦闘タイプが魔法使いで持っている武器が剣だっただけだが。


ただ、武器を選ぶときに言われたことがあった。


『剣を選びましたか。確かに杖よりも剣のほうが扱いやすいですし、攻撃性にも富みますから、攻撃のパターンは増えます。杖ではどうしても魔法頼りになってしまいます。ただ、剣にすれば攻撃のパターンは確かに増えますけれど、その分考えることは多くなりますし、魔法を覚えるだけでいいわけでもありません。剣では杖よりも魔法に対する補助は弱くなってしまいますし、剣と魔法とどちらかに集中することもできません。習得にはひどく時間がかかります。どちらか一方を覚えてから、新たに選択肢を探す方がいいのではありませんか?』


確かに、言うとおりだとその時は思ったし、現実にやってみたらその通りだった。


もともと、僕が魔法使いで剣を使うという方法を選んだのは、ソロで行動したいからだ。


知らない人間といきなり手を組むことができるほどのコミュニケーション能力はない。


社会人として、上っ面の部分で感情を隠した交流は確かにできるけど、自分の命を預けるかもしれないと考えるとなると、深い交流がいきなりできるとは思えなかったからだ。


剣だけでは、逆に魔法だけでは戦えない相手がいるかもしれない。


怪我をしたらその場で治療もできず、誰かを頼らないといけない。


誰かに借りを作るかもしれない。


その借りのせいで自分の望まぬ道を歩まなければいけないかもしれない。


それが嫌だったからそれを選んだ。


結果として、当然一人で行動できるように、剣と魔法をどちらも実践レベルで使えるようにしなくてはいけないんだけど、そうしようとするとかなり手間取って最初はどちらか一方しか使えなかった。


今はようやく慣れて、魔法もタイムラグなしで、使えるようになってきた。


「まぁ、周りに流されずに頑張れや」


そう言った彼は苦笑交じりだった。


言ってて無理があると感じているんだろう。


「分かりました。じゃあ、行ってきますね」


それをできるだけ笑顔で返すと、内心で溜息をもらしつつ外へと出た。


いい加減見慣れた町並みは、僕が普段よく目にしてきた町並みとそんなに変わりはなかった。


まあ、あくまでも日常の裏側なだけで、世界が変わるわけじゃない。


多少の文化の違いはあっても、全く別物というわけでもない。


だからそれは当然なのだが、どうにも違和感がある。


ゲームのしすぎなのかもしれないが。


そのゲームも、ここ最近はしょっちゅうやっている。


会社勤めの時は朝早く起きて夜遅くまで仕事していて、休みの日は身体を休めることが基本だったから、ゲームをする暇はさほどなかったが、こっちに来てからは自分の好きなように時間が使える。


まあ、遊び過ぎていると生活もできなくなってしまうが。


依頼をこなさない限り、お金は手に入れられないわけだし。


全ては自分次第で、自由な分だけ、それだけの責務がある。


まあ、それでも、向こうに居たころよりかはましだけど。


自由な時間ができても何かをする体力どころか考える気力すらなかったわけだし。


そう考えれば、この選択は僕には正しかったのかもしれない。


ただ、そこにたどり着くまでは多少の悶着はあった。


ユミールに来ると決めると、まずは日常に戻った。


日常の裏側に入るための準備だ。


日常とつながっている以上、とりあえず身辺の整理はしておかないといけなかった。


何も告げずにいきなり消えてしまえば、失踪だ何だと騒がせてしまい、会社や実家に迷惑をかけてしまう。


立つ鳥跡を濁さず、というわけではないが、後始末ぐらいはしておかないといけないと感じて、準備をした。


とはいっても、独身でしかも彼女がいるわけでもない僕は、会社に退職することを伝えたうえで、仕事の引き継ぎと借りていた会社の寮の荷物を実家に引き揚げる程度のことで、だいたい一月もかからずあっさりと終わってしまった。。


そういうと、非常に楽に見えるが、時間としては余りかからなかったが、精神的には結構辛いこともあってそのうちで一番大きかったのが、会社からの引き留めだった。


意外と僕のことを評価してくれたみたいで、かなりひきとめてくれたけれど、逆にそれが辛かった。


自分勝手な都合で、そうやって評価してくれる人を裏切るわけで、しかも理由だって本当のことが言えない以上、嘘を吐かないといけない。


やはり気持ちいいものではなかった。


なんとか理解してもらい、退職させてもらった後は、本格的にこちらでの生活をするための準備を始めた。


まあ、生活雑貨を買ったのと、住む場所と自分の属性を決めたぐらいだ。


そういえば、属性を選ぶときにずるというか、ひねくれたことをして、あの案内人の人に苦笑されてしまった。


どうしても、一つの属性を選べなくて、思いついたように、


『月がいいです』


そう言ってしまったのだ。


もちろん、考えなしに言ったわけではない。


『一つに絞らないといけないですか?』と聞いたときに『一つの属性を言って、二つの属性を手にした人もいますよ』そう言われたから考えてとりあえず言ってみたわけなのだ。


ただ、考えても考えてもどうにも出てこないので、なんとなく、月ならば、光と闇のどちらでもありそうな気がしたので言ってみたのだ。


光を浴びれば輝くし、光がなければ暗いし。


ただ、言ってみたのはいいけれど、属性として月はありなのだろうか、と恥ずかしくなってしまったが。


いや、普通に考えれば、完全に属性とは言えないんだろう。


『月、ですか。確かに、月の属性はありといえばありですね』


だけど、彼はそれを否定しなかった。


ただ、苦笑してはいたけれども。


『ほんと、ユニークな方ですね』


『やっぱり、おかしいですか?』


自分がおかしなことを言っているのはわかっていた。


『そんな顔をしないでください。私はむしろ感心しているのですよ。ユニークな発想はユミールで生きていく上では大切なことですからね』


そう言ってやさしい目で見てくれた。


思わずしゅんとしてた僕を見かねての言葉だったんだろうが、一応僕の答えを認めてくれていたみたいなので、ほっとしたものだ。


まあ、いい年した、しかも恰幅のいいおっさんがしょげている姿は、旗から見ていてげんなりするものではあるだろうけれども。


ただ、そのおかげで僕は、魔法使いなのに剣を持ち、属性は光と闇の二つを手にしたちょっとだけ特殊な職業になったわけだ。


まあ、それが原因で演習が終わらず、自分よりも後から来た人間にはどんどん抜かれてしまったわけでもあるが。



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