第二話 覚えた魔法はまだ少し
ショートソードを片手で振るい、追い打ちに魔法を放つ。
いい加減に、その行動は身体にしみついてきた。
今の僕が使える魔法は、回復魔法の『キュア』、攻撃魔法の『ナインズソード』、『ブレイブバスター』の三つだけ。
しかし、一応攻撃魔法は属性を二つ持っているので、それぞれ二種類の属性を付加させられるから、細かく言えば五つとも言える。
そして、今使っているのはナインズソード。
操作系の魔法で、一回使うと魔力供給がなくなるか、爆破させない限り消えたりはしないから、意外と使い勝手がよさそうなんだけれども、実際は1個ずつマニュアル操作をしないといけないから、むしろ扱いが難しく、常時動かすのはせいぜい二つぐらいだ。
他の七つは、僕のそばで待機させている。
まあ弱い敵ならこの魔法で一撃なので、量を倒す時には一斉掃射をすることがあるし、今も敵の数は多いが一体ずつは弱いからこの術だけで十分ではある。
逆に、もう一つの魔法のブレイブバスターは、ナインズソードと違って中威力のビーム魔法で、威力はナインズソードを上回るけれど少しだけ魔力をためないと使えないからタイムラグがあるし直線状の敵しか倒せない。
『ブレイブバスター』
魔力をためるための一瞬のタイムラグの後、魔法を放つ。
直線上の敵は、あらかた消えていた。
多少使い勝手が悪いが、使わないわけにもいかない。
使って自分の身体にしっかりと覚えこませれば、タイムラグは短くなる。
今だって以前の半分程度で同威力の魔法が使えるようになった。
周りを埋め尽くしてた敵をあらかた片付けると歩を進める。
あくまでもまだ道中で目的地にはまだ距離はある。
今回の依頼は、オズワルドの森の泉のほとりで咲く、ブルーフローレンスという花を五つ摘んでくること。
ただ、依頼と言っても訓練でしかない。
オズワルドの森というのは演習用の森で、出てくる魔物も弱く、入ってきたばかりの弱い人間でも倒せるレベルの魔物でしかない。
そして、この訓練が最後の訓練でもある。
もちろん、周りのほかの同時期に入った人たちは、とっくの昔に、終えている。
当然同時期の人間では、僕が最後で周りから笑われてしまった。
悔しかったし、焦ってしまいそうだったけれども、うまく使えない魔法を引っ提げて危険を冒すよりかはましだと思うと、どうしても二の足を踏んでしまい、時間をかけてしまった。
それを臆病者だと言われたけれど。
でも、臆病者と言われようとも、危険を冒して、あっさりと命を落とすよりかは、絶対いい。
ゲームみたいな世界だけど、ここはまぎれもない現実の世界で、ゲームのようにリセットボタンなんかなく、一つでも選択を失敗すれば、あっさりと死んでしまう。
別に結果的に死ぬのはかまわないが、無駄に死にに行く気はない。
けもの道を抜けると目の前には湖が広がっていて、ブルーフローレンスが咲き誇っていた、というか置かれていた。
訓練用の依頼なのだから、一輪も咲いていなかったということになるわけにはいかないし、むやみやたらに訓練用と行って摘んでいかれるのも環境問題的にどうかということで、模造品要するに造花が使われている。
そういうところも、やたらと現実的というか魔法があって魔物がいるところ以外は、ほとんど現実とは変わらない。
最初に出会った男の人が言ってた通り、あくまでも日常の裏側でしかない。
五つ摘んで終わると、来た道を戻る。
訓練用の道なので、当然のように敵は出てくるが、それを手際よく倒してゆくと、街中へと入ったころには、空は赤く染まっていた。
赤く染まる街並みを歩く。
買い物帰りの親子がいたり、仲よさそうに腕を組んでるカップルもいたりする。
やはり、それはどこまでも現実と変わらない。
変わらないけれど、それがひどく助かる。
こうして今までとは全く違う世界に来て、もし何もかもが全て違っていたら、たぶん僕では環境の変化に対応することなんてできなかっただろう。
マンガや小説のように、簡単じゃない。
一からいろんなことを覚えなおしてからのスタートだから、稼ぐことなんてできやしなかっただろう。
僕は、赤レンガの建物の入口の前で立ちどまった。
レンガが欠けているところがあったりして、歴史を感じさせる。
その中に足を踏み入れると、ポケットに入れていたカードキーを通す。
『認証しました』
その言葉を確認すると、更に奥へと進む。
ここは、ギルド。
僕が依頼をもらったところだ。
「アキラ・ヒイラギです。依頼の品物を持ってきました」
受付に居た女性にそれを渡す。
「ブルーフローレンスですね。確かに、受け取りました。これが、今回の報酬です」
そう言って手渡されたのは、五百プノーで、日本円にしたら、だいたい五千円ぐらいだから、そこそこの稼ぎではある。
「これで、訓練項目は終了です。ギルドに本登録しますか?」
「お願いします」
「それでは、手続きのほうをさせていただきますので、おかけになってお待ちください」
そう言った彼女は、パソコンにデータを入力し始めたので、大人しく席に着く。
これが、出るときに遅くなったという理由。
今まで、訓練用の依頼をこなしてきた僕は、一応ギルドには登録されていたけれど、それはあくまでも仮登録だった。
右も左もわからない人間に無理をさせないための対応策で、一定の訓練用の依頼をこなして初めて本登録され晴れてギルドというかユミールの住人として認められる。
そのため、いろんな手続き等があって意外と時間がかかるらしく、いつものように早い帰宅は無理なのだ。
「ヒイラギさん、システムリミットを外しますので、こちらに来てください」
「あ、はい、分かりました」
受付に居た人とは別の女性に呼ばれて、そのあとをついていく。
入った部屋には、一見すると怪しげな機材がずらりと並んでいる。
「貴方のコアクリスタルを出してください」
「これです」
僕はそういうと、懐に入れておいた、白と黒のマーブル模様の石を渡す。
これが、コアクリスタルで、僕が魔法や剣を使うために必要なもの、というか、このコアクリスタルが剣に変化する。
「はい、確かにお預かりいたしました。リミットのほうをシステム解除いたします」
「お願いします」
僕のコアクリスタルを受け取ったその女性は機械の中にそれをそっと入れると、端末に何かを入力している。
まあ、訓練用に出力を落としていた僕のコアクリスタルの出力をあげるための設定を組んでいるんだろう。
訓練中の未熟な人間に、いきなり全ての力を解放させるのはやはり危ないから仕方のない処置だろう。
とはいえ、なんにしても暇だ。
初めてみる機材ばかりで、興味は湧くけれど、機械オタクというわけでもないので、食いつくほどのものでもないし、ずっと経ちっぱなしというのもしんどい。
できれば、ロビーで呑気に座っていたい。
「ロビーのほうでお待ちになっていただいて結構ですよ?」
それがどうやら表情に出ていたらしく、彼女はそう言って、入口を指す。
まあ、それとは別に、彼女にとっては仕事の邪魔になるからなのかもしれないけれど、渡りに船というのはこういうことだ。
「あ、そ、そうですね。そうします」
その言葉に頷くと、ロビーへと戻る。
相変わらず受付の女性はパソコンとにらめっこしていて、他に人の姿はない。
テレビなんていうものはあるにはあるけど、電源が入っていないから、見るに見れない。
「寝るか」
多少疲れもあるし、少し仮眠を取るのもいいだろう。
僕はゆっくりと目をつむった。




