ユータロウと祐太郎
ユータロウは手で顔を覆った。
「死んだ……完全に死んだよ……
ヤバイと思ったんだ……でも何も出来なかった……
俺の糞が……」
マクマが心配そうにユータロウを覗き込む。
「どうしましたか……?」
ユータロウは嫌な記憶を振り払うように頭を振る。考えてもしょうがない。今の俺は俺だ、職務を全うするまでと、自分に言い聞かせた。
「ともかく、紅の剣士が今森の上空を飛行中です。頼みますよ」
ユータロウは深く溜息をつき、空へと飛んだ。辺りの風が優しく頬を撫でる。いつもは好きなこの飛び立つ瞬間も、今回はただ重い戦争へ旅立つ儀式に過ぎない。
「アハハハハハ!!」
紅の剣士が上機嫌で高笑いをする。曇り空で灰色にくすんだ森の木々も、笑っているかのように風に吹かれてザワザワと音をたてた。
「マジ!マジうける!告白してきた!日本一モテナサオが告白してきた!」
蒼い閃光が走る。
ユータロウは怒りのままに連撃を繰り出そうとするが、カオリはゆうゆうとそれを躱した。
「畜生オオオオ!あの糞腹黒女にと告るとか、マジで最悪だわ!自殺もんだぜ!マジ自殺もんだぜ!
最低過ぎて二回言っちゃったよ!
この糞女なグボッ」
カオリが懐に飛び込みユータロウの腹に蹴りを入れ、鳩尾にめり込んだ。後方に吹っ飛び、涙目で腹を押さえる。
「一国を担う剣士が、他国の剣士に告白ねぇ……やっぱ彼女居ない歴=年齢はやる事が違うわ」
カオリは冷たく言い放つ。
「この事を蒼国々の方々に知らせたらどうなるかしら……?蒼の国々の方は大混乱かしら……?」
「死ね……」
ユータロウは怒りに身を任せて斬りつけるが、当たる気配は無い。寧ろ集中力が落ち、体には無数の傷が残っていた。
ユータロウは剣を持つ手に力が入らない事に気付いた。恐れているのだ。今現在の、あの世界の体たらくが仲間たちにバレる事に。
「おい糞女、そんな事やっても今の俺と記憶のない世界の俺は俺であっても俺じゃない。そんな事しても意味はない」
苦しみ紛れにユータロウは反論するが、すかさずカオリに論破される。
「そういう性質がある時点で、民という者は簡単に失望するものよ。
あの世界のアンタは確かにアンタで無いけれど、アンタでもあるんだから」
「フェアじゃない。卑怯だ」
「卑怯ね。で?」
絶望で空を見上げた瞬時に、カン!と言う刃音が周囲に響いた。それと共にユータロウ剣が弾かれ、カオリに再度腹に蹴りを入れられ、ユータロウは森へと落ちて行った。
勢いに任せて全力を使ったせいで、身体に力が入らない。
「嗚呼……俺死ぬんだな……」
地面に衝突するその瞬間、景色は変わり、記憶をこの世界に残し再び日常へと帰って行った。




