ユータロウとカオリ
何分たったであろうか。時計を見ると、10分しかたってない。祐太郎はついでに、横目で転校生を確認した。
隣の転校生はなにやら焦っている。筆箱を忘れたのだろうか。ノートだけが机の上に置かれ、何も書かれて居ない。
「筆箱無いなら、俺使わないから貸してやるよ」
祐太郎が転校生もといカオリに言うと、なにやら困惑している。
ちょっとお近付きの印に、祐太郎はギャグを言った。
「あ、英語じゃないとわからなかったか……えーっと、ウジューワントなんだっけ」
さらに困惑した表情でカオリは、
「あ、あった。ううん、見つかったから、大丈夫だから、ありがと」
そう言い放つと、カバンからペンを見つけ出しノートを写し始めた。
渾身のギャグをスルーされてブルーになった事を口実に、祐太郎は不貞寝をして昨日の夜更かしの補充にかかった。
___夕方
空は赤く染まり、雲を黄色く染め上げた。夏なのにまるで紅葉を見ているようだと、祐太郎はシミジミと眺める。
祐太郎がコウジを待つため校舎の柱によりかかろうとした時、
紅く染まったコンクリートの風景は一転し、白色のレンガ作りの異国風の街並みになり、蒼の旗が翻る都市へと姿を変えた。
「ユータロウ様お帰りなさいませ。戦の準備は整って居ります」
髭を生やした、筋肉隆々の兵士のマクマが跪く。
「いい加減その挨拶はやめてくれよ。俺は偉いわけでもない。てかなんかこわい」
祐太郎、この世界でのユータロウは怪訝そうな目でマクマを見る。
「にしても慣れないな。記憶が一気に戻って来るってのは。一瞬混乱する」
マクマはうんうんと頷く。
「あなた方の世界の記憶は持ってこれても、ここでの記憶はお預けですからね」
この世界に来て3年、祐太郎は同じ事を何回も繰り返して来たが、未だに記憶の断絶性には辟易していた。なにせ記憶は持ち戻れないのだから、一気に数年分の記憶が脳内に割り込んで来るのだ。
「そんな事より戦況はどうだ」
ユータロウが聞くと、マクマは真剣な面持ちで説明する。
「蒼軍はカイル峠に待機して防衛をはっています。ユータロウ様が森で紅の剣士を留めて下さったお陰で、領地への侵入は免れました。
農民は避難させ、城内に保護している途中です」
「そうか。俺も今から峠に向う。いつ日常世界に戻るか分からないからな」
塀に脚を掛けると、蹴って空へと旅立つ。マクマもすかさずついてくる。
この世界には最強の剣士が2人居ると言われる。その二人ともこの世界の住人ではない。
片方は蒼軍を率いる蒼の剣士、片方は紅軍を率いる紅の剣士。長年の戦いに終止符を打つべく、二人は戦う。
たった一人でも強力な戦力になる為、この二人が戦局を握っているといっても過言ではない。
片方が死ねば、生き残った国がこの世界を支配するとも言われる。
「転校生……どっかで見たことある気がすんだよな……」
ユータロウは呟いた。
風を切り飛んでるうちに、荒々しく削られた彫刻のような、黄土色の峠が見えてきた。予想通り、紅の剣士もやってきている。まるで地面が燃えているようだ。
黄土色の大地にユータロウは降り立つと、すぐさま紅軍の合間を縫い走り、紅軍の血飛沫をあげながら紅の剣士に斬りかかる。
「……っ!!」
紅の剣士は驚きの表情でユータロウの顔を見つめた。そして表情が何かを確信したかのように、真面目な顔になった。
「やっぱあんた……昼の……」
ユータロウも気付く。記憶が急に戻ってボンヤリしていたが、この声、顔、間違いようもない。
「お前……カオリじゃねぇか!」




