第2話:不確かな境界線
第2話となります。
この世界のルールと、“煙”に関する仕組みが少しずつ明らかになります。
まだ断片的ではありますが、違和感ごと楽しんでいただければ幸いです。
「……煙ったいな」
頭の奥で、誰かが呟いた。
人の声みたいで、人じゃない。
その感覚をかき消すように、無機質な音が空間に広がる。
『おっと、これよりルール説明を開始します』
鉄の仮面をつけた“清掃員”(スイーパ)たちが、等間隔に並んでいる。
動かない。呼吸もない。ただそこに“在る”。
『一 本ゲームは、プレイヤーが一人になるまで継続されます』
ざわめきが走る。
『二 貴方たちの能力は喫煙により発動します』
誰かが火をつける。
小さな火なのに、空気の質が変わる。
『三 喫煙は寿命を消費します』
ポケットの中のライターを取り出す。
透明なタンクの奥で、どす黒い液体がゆらりと揺れていた。
説明されていないのに、それが減るものだと分かる。
そして、なくなればThe End。
『四 ライターの共有・譲渡は禁止されていま、』
「ふざけるな……!」
誰かが遮るように叫ぶ。
恐怖を押し返そうとする声。
だが、その反響はすぐに消える。
男が、隣のライターに強引に手を伸ばした次の瞬間。
男の輪郭が、崩れた。
そこにいるのに、形が定まらない。
「……は?」
崩れる。
遅れて、黒煙が立ち上る。
床には、ライターだけが残る。
誰も動けない。
黒煙が、ゆっくりと広がってくる。
避けきれない。
吸い込む。
「っ……」
喉の奥に、何かが沈む。
吐き出せないまま、残る。
『よろしいでしょうか、改めて進めさせていただきます。第一関門の目的は生存です』
『清掃対象との不要な接触は推奨されません』
『なお、清掃員への攻撃行為は制限されていません』
『――想定される結果については、各自で判断してください』
その言い方だけが、妙に意味深であった。
『五 一定時間喫煙を行わない場合、生命活動は低下します』
呼吸が浅い。
吸わなければいけないと、体が理解している。
『それでは、第一関門を開始します』
清掃員が動いた。
最初の悲鳴は、途中で途切れた。
赤い箱の男が、火をつける。
深く吸い込む。
「あああああ!!」
体が膨れ上がり、血管が浮き出る。
そのまま突っ込む。
一瞬だけ、効いたかのようにみえた。
だが、続かない。
動きが鈍り、踏み潰され、黒煙となる。
逃げる音。
壊れる音。
息が詰まる音。
「……」
手元の箱を見る。
歪んだロゴ。
黒く潰れたような文字が、判別を拒んでいる。
一本、抜き、吸ってみる。
「、、、、!!」
肺に入った瞬間、視界が揺れた。
世界の輪郭が、一瞬だけ薄くなる。
「……?」
清掃員が近づいてくる。
反射的に、煙を吐く。
黒煙が、広がる。
その中で、自分の境界だけが曖昧になる。
清掃員が、止まる。
そのまま、横を通り過ぎる。
「……なんだよ」
一歩、動く。
来ない。
もう一歩。
やはり、来ない。
確信はない。
が、それでも、生きている。
背後で悲鳴が聞こえたが、俺は振り返らない。
潰れる音。
黒煙。
息を整える。
喉の奥に残ったものが、消えない。
また吸う。
時間の感覚が、少しだけズレる。
静寂が訪れる。
どれくらい経ったのか分からない。
『第一関門、終了』
『生存者――12名』
数字だけが落ちる。
『ここからが本番です』
誰も動かない。
視線が交差するが、すぐに逸らされる。
長く見れば、何かが起きると分かっているみたいに。
言葉にはしない。
それでも、理解している。
自らの運命を。
黒煙が、ゆっくりと漂っていた。
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※この作品には喫煙に関する描写が含まれます。
喫煙は20歳になってから。
読んでいただきありがとうございます。
主人公視点で物語を進行しています。能力の詳細は次回での開示を予定しております。
ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。
また次回お会いできれば幸いです。




