第1話
これは――
失われた王国の影を追う旅
異族同士の友情が世界を繋ぐ冒険譚。
灼熱の太陽と、果てなく続く砂の海に囲まれた古代の大地を、目的も知らぬまま彷徨う遊牧民の一族がいた。
彼らは「忘れたものを探すまで地を踏みしめよ」という古い歌に従い、自らの歴史も旅の理由も失ったまま、砂漠を漂い続けている。
族長の娘スミは、強く、誇り高く、風に削られた大地で生き抜く少女。
しかし砂漠の民は街では異端と見なされ、交易では侮られ、時に搾取される。スミも例外ではなかった。
そんな彼女を救ったのは、街の随一有力な商家から見放された跡取り息子の青年・アル。
計算や商売には不向きだが、古代語と歴史に深く通じる――彼こそが一族が探し続ける「忘れた過去」を解き明かす、唯一の手を持つ青年だった。
風は、砂の匂いを運んでいた。
冷たく乾いた空気の中、果てしなく続く砂の海が、音もなくうねる。
遠く、陽光を反射して白く輝く岩山が、空の端に刃のように突き立っている。
その境目を、黒い点がひとつ、またひとつとゆっくりと動いていた。
そう、馬だ。馬と、人影。
先頭を行くのは腰まである黒髪を革紐で束ねた少女。背筋は弓のようにまっすぐで、手綱を握る指は、迷いを知らない。
名はスミ。
理由も知らずに彷徨う遊牧民の一族、その族長の娘。
またその中でひときわ大きな影が進んでいた。全身を太陽色の外套に包み、砂漠の風を裂くような眼光を持つ男。
スミの父、族長アジャン──砂の海を渡り歩き、民を束ねる者。
その背は娘よりずっと大きいはずなのに、不思議と気配は静かで、揺らぎのない岩山のように存在していた。
彼が馬上で微動だにせず進む姿を、一族の者たちは“砂を導く影”と呼ぶ。
そんなスミを見守るかのように慈愛の目で彼はスミを追っていた。
彼らの一族は、昔から歩みを止めない。
どこへ向かうのか、なぜ草原を渡り歩くのか、誰も知らない。
ただ、古い歌にこうある――「忘れたものを探すまで、地を踏みしめよ」と。
だが、歌が示す“忘れたもの”が何なのか、歌い継ぐ者すら覚えてはいない。
だから彼らは今日も、目的そのものを探すために移動し続ける。
また家畜が死に耐え、食料が尽き、飢えれば、街を襲う。奪った荷を別の街で売り、生き延びる。
大地を棲み処としながら、その生は、いつも隣に刃の光を置いていた。
砂を蹴り上げながら進む集団の中からひとつの影がふっと前へ飛び出した。
それは、迷いなく街へ向かって駆ける少女――スミだった。
「……もうすぐ、あの街だ」
スミは馬の首筋を自身を勇気づけるが如く軽く叩いた。
乾いた風に混じり、遠くから土煙と、焼けた肉の匂いが漂い始めていた。おそらく彼らは生きるためによその街から物を拝借したのかと考えられる。
彼女の目線の先の砂の向こう、陽炎の奥に、城壁と塔がぼんやりと浮かび上がってきた。
――そのとき、脳裏に父の声が浮かんだ。
「スミ」
群れから馬を寄せてきたアジャンの影が、砂煙の中に揺れていた。
スミは振り返り、胸を張って言った。
「アジャン。三日分で満足してくれ!」
細い体からは想像できないほどの力を持った声。
その声は一族の皆が気づくほどだった。
アジャンは深い皺の間から微笑み、静かな目で娘を見つめた。
「構わないよ、スミ。街の言葉を話せるのはお前 だけだ。――今回も頼む。」
その声はどこか族長の厳しさよりも、父親としての温かさを帯びていた。
スミはうなずき、力強く答えた。
「あぁ、任せてくれ。
できるだけ多くの食料を得て戻るから。」
アジャンは手を挙げ、一族に合図を送った。その後一族は腰につるされた湾曲した刀を太陽へ掲げた。まるで彼女に勇気を授けるように。
それこそスミが街へ向かう準備が整ったことを告げる、静かな合図だった。
スミは瞬きをひとつし、意識を現在へ戻した。
砂漠の風が頬を切り、街からの喧騒が微かに届く。
(任務は私一人の役目……しくじるわけには絶対にいかない)
一つの黒い影が街へと吸収されていった。
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