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出戻りマーメイド  作者: 未羊


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第63話 冬の夕暮れの中で

 翌日、改めて田均命の神社を訪れる。


『なんじゃ、また来たのか』


 私がやってきたら、なぜか少々邪険な表情をしているわね。


「ええ、昨日はゆっくり話をできなかったからね。嫌なら帰るわよ?」


『誰もそんなことは言っておらん。それで何の話なのじゃ?』


 なので、私はちょっと意地悪を言ってみる。そしたら、慌てて否定した上で、私にそっと近づいてきた。


「今度の豆まきの話ね。この神社だと普通にしているのかな。私、こっちにいた時には聞いた覚えがないんだけど」


『豆まきなら、ずいぶんと長いことやっておるぞ。あれは男連中が頭に変な髪の束を乗せておった頃からかのう……』


「武士のいる時代からってことかぁ。なら六百年とか七百年くらいの歴史があるのかしらね」


『年代のことはよう分からんが、まあとにかく歴史は長い。わしのところはこういう行事などが定着しておるから、こうやって信仰を保って姿を見せられるというわけじゃな』


「ふむふむ」


 初詣もそうだし、秋祭りもそうだし、田均命の神社はかなり人でにぎわうことが多い。なるほど、田均命が気安く姿を見せやすいというわけか。


『じゃが、わしの姿を見て言葉を交わせるのはおぬししかおらん。神主ですら、わしのことが分からんのだからな。昔はそこそこおったというのに、世の中は変わってしもうたもんじゃぞ』


 田均命は人との交流を楽しめていないようで、ちょっとばかり愚痴をこぼしていた。まったく、わがままな神様だことね。

 とまあ、こんな感じで私は田均命との会話を楽しんでいた。神様との会話というのは、私自身経験したことのないことだからね。今は気軽にできるとはいえ、違った話が聞けるので楽しいといえば楽しいわ。


『しかし、そなたが神社で豆まきをすることになるとはのう』


「あら、やめておいた方がよかったかしらね」


 急にあごに手を当てて田均命が唸り始めたから、私はふとそんな意地悪を言ってみる。


『誰もそんなことは言っておらん。長いこの神社の歴史を見てみても、おぬしのような不思議体験をした人物が豆まきに参加するなど初めてじゃからな。どのような風になるのか楽しみだというわけじゃよ』


「そんな期待することかなぁ……」


 なんとも予想外の田均命の反応に、私はつい顔をしかめてしまう。

 確かに私は波にさらわれて異世界転生して、さらに妙な水流に巻き込まれて元の世界に戻ってくるという、自分でも何を言っているのか分からないような体験をしてきたわよ。

 でも、だからといって、何か特殊なことが起きるとは限らないと思うんだけどなぁ。この神様、一体何を期待しているのよ。


『まったく、なんて顔をしておるのじゃ』


「誰のせいだと思っているのよ、まったく……」


 私はつい頬を膨れさせてしまう。


『まあよい。ともかく節分は楽しみにしておるぞ』


「ちゃんと来るから安心してよね。学校があるから遅い時間になっちゃうけど」


『構わん。遅い時間の人のための設定もしてあるのじゃからな。では、また来るとよいぞ』


「ええ、また来るわよ」


 私は田均命と挨拶を交わして、神社を後にしていった。

 人に見られないためとはいえど、あんな奥まで毎度こそこそと行かなきゃいけないのはつらいな。ステルス魔法がなかったら、絶対続かなかったわ。

 私はちょっとばかり不機嫌な様子で、海斗との待ち合わせ場所へと向かっていった。


 そう。実のところ、あれからというもの海斗と一緒にするランニングは習慣化していた。それというのも私の寒がりの体質が、短期間で改善の兆しが出たからよ。厚着なのは変わらないんだけど、それでもカイロが要らなくなっただけでもずいぶんな変化だと思うわ。

 そんなわけで、私は海斗の家の近くまでやってくる。家の前まで行かないのは、真鈴ちゃんと鉢合わせをするのを避けるためよ。

 真鈴ちゃんの性格上、私が海斗と走っていると知ったら、絶対に割り込んでくる。私はそれを回避したいのよ。


 一月末の寒空の下で、私はじっと海斗がやってくるのを待っている。


「よっ、待たせたな」


「あっ、お兄ちゃん」


 やっとこさ海斗がやって来た。ウィンドブレーカーを着込んだ海斗は、なんとも薄着なような気がする。けど、本人はまったく寒くないらしい。すごいわね。


「すぐに音を上げると思ったんだが、ずいぶんと続いているな」


「うん、寒がりは本気で改善したいと思ってるもの。私は頑張るわ」


「うん、えらいえらい」


 私が意気込みを見せると、海斗が頭を撫でてきた。

 ちょっと小ばかにしたような言い回しをしているけれど、私は優しく撫でられてつい顔をほころばせてしまう。正直言って嬉しいもの。

 はあ、やっぱり私ってば、海斗のことが好きなんだろうなぁって思わされる。


「それじゃ、真っ暗になる前に終わらせよう」


「うん、お兄ちゃん」


 私たちは夕やみに包まれた町の中へと走り出していく。

 ずいぶんと辺りは暗くなっていたけれど、不思議と自分たちの周りだけが明るく感じてしまう。

 ああ、この時間が少しでも長く続けばいいな。

 海斗と走りながら、私はついそんなことを思ってしまうのだった。

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