第62話 節分を前に
あっという間に時間は経っていき、もう二月も迫ってきている。
そんな時、医院に近所の人がチラシを持って回ってきた。
「はーい、どちら様ですか?」
「町内会の者です。神社の催しについての案内です」
「分かりました。受け取りに出ますね」
ポストに放り込んでくれればと思ったんだけど、ご近所づきあいも大事だよねと玄関のドアを開く。
うん、見たことないおばさんだったわ。
「ご苦労さまです。……節分の案内ですか」
「ええ。毎年節分には、神社の近所の人たちから豆をまく人を募集してるんですよ。どうかしら、お嬢ちゃんもやってみないかな?」
「えっと、考えておきます」
「そう。月末までには神社まで連絡下さいね」
「はーい」
チラシを渡して案内をするだけしておばさんは帰っていった。
なるほど、勧誘までするから中に呼び掛けてきたってわけか。
「う~ん、田均命様も知らないわけじゃないから、参加してみようかな」
チラシを持ったまま、私はちょっと考えている。
「おじいちゃんと相談してから決めましょ」
結局一人で決めるのもよくないということで、夕食の時におじいちゃん先生に聞いてみることにしたのだった。
今日の診察も無事に終わり、おじいちゃん先生が家の方に戻ってきた。
「おじいちゃん、お疲れ様。食事もお風呂も準備できてるわよ」
「おお、いつもすまんな、マイ。それじゃ、お風呂から失礼するかの」
おじいちゃん先生は、たくさんの子どもたちを診察した後ということもあって、すぐにお風呂に向かっていった。
私はおじいちゃん先生がお風呂に入っている間に食卓を整える。
それにしても、こっちの世界に戻ってきてからずっと料理をしているせいか、私の料理の腕前もだいぶ上がってきたと思う。
転生前は高校二年生だったけど、家のことはほとんどお母さんがしていたものね。たまに休日に手伝うくらいだったし、私はそこまで家事は得意じゃなかった。
転生後だって、プリンセスだからか何もしなくてよかったもんね。おかげで、その間は何も成長しなかったわよ。
ただ、転生してよかったと思うのは、この魔法の力を手に入れたことくらいかな。おかげで料理を作るにも他の家事をするにも、水をまったく使わなくていいんだもの。
とはいえ、おじいちゃん先生の家は小児科の医院。そこでは普通に水道を使っているから、私の魔法による軽減なんてたかが知れてるわね。
まあ、それはともかくとして、私はおじいちゃん先生がお風呂から戻ってくるのをじっと待ち続けた。
「マイ、待たせてしもうたな」
「ううん。お風呂くらいゆっくり入ってこなきゃ。おじいちゃん、ずっと忙しいんだし」
「すまんな」
おじいちゃん先生が待たせたことを謝罪してくるけど、私は特に気にしていない。
この時期は風邪にインフルエンザがはやるからね。しっかり体を温めておかなきゃね。おじいちゃん先生も還暦前後なんだし、ちょっと心配になってくるわ。
おじいちゃん先生も食堂に座り、ようやく遅めの夕食が始まる。
ある程度食事を進めたところで、私は話を切り出す。
「おじいちゃん、今日こんなものを受け取ったの」
「うん? どれどれ。ああ、これか」
どうやらおじいちゃん先生もこのチラシの内容のことは知っているみたい。
「わざわざ一軒一軒手渡ししておるからわしもよく知っておるよ。さすがに休診日に重ならんと、わしには厳しい話じゃな」
「そうなんだ」
おじいちゃん先生の話では、この豆まきのチラシは全軒手渡ししているらしい。とんでもない話だわね。
「それで、マイはどうするつもりじゃ?」
「ふえっ?」
おじいちゃん先生から話を振られて、私は思わず間抜けた声を出してしまう。ここで話を振られるとは思ってもみなかったもの。
「私は、参加してみようと思う。なじみがないわけじゃないし、私も元この町の住民として、参加してみたいと思ってる」
私は正直な気持ちをおじいちゃん先生にぶつけていた。
まあ、前世で住んでいたこともあるけれど、今はあの神社の神様である田均命とも面識があるものね。だから、ちょっとでも信仰を取り戻すお手伝いをしておきたいのよ。
「分かった。ただ、わしは仕事で動けぬから、自分の足で行ってもらうしかない。それでもよいかの?」
「もちろんよ、おじいちゃん。おじいちゃんは子どもたちを助けるために頑張っているんだから、その邪魔をする気なんてさらさらないわ」
「マイはいい子じゃの」
私がはっきり伝えると、おじいちゃん先生は笑いながら褒めてくれている。
当然だと思っているからそうでもないけど、褒められると不思議と嬉しいものだった。
なんにしても、明日の学校の帰りにでも田均命の神社に寄ってみることにしようっと。
そんなわけで、私は田均命の神社で行われる節分の豆まきに参加することに決めた。学校があるけど、まあどうにかできるでしょ。
翌日の学校の帰りに、私は田均命の神社へと寄り、神社のお守りとか売っている場所へと顔を出す。
神社の人からは保護者の同意書とかいわれたけれど、おじいちゃん先生から事前にもらってきているので、それを渡すとあっさりと受付が完了した。
「それでは、当日はお越しになられたらこちらまでお越し下さい。こちらの案内を保護者の方にも読んでもらって下さいね」
「はい、わかりました」
案内の紙をもらった私は、田均命と軽く話をしてから家路についたのだった。




