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出戻りマーメイド  作者: 未羊


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第61話 安心できる場所

 うう、おじいちゃん先生にはいずれ説明しないととは思っていたけれど、こんなところから気付かれるとは思わなかったかな。

 家に帰った私は、おじいちゃん先生と荷物を片付けている。


「マイや、自転車が届いてからでいいからの。食事の支度をするなら、今のうちにしておいた方がいいじゃろう」


「あ、うん。お米の準備だけしておくね、おじいちゃん」


 おじいちゃん先生がかなり気を遣ってくれるので、私はその言葉に甘えておいた。

 洗った炊飯器の内釜でお米を研いで、十分な量の水を放り込んでいつでも炊けるようにセットをしておく。おかずがなくても、とりあえずこれでご飯は食べられる。

 家帰ってきてからしばらく、指定した時間に自転車が届いた。おじいちゃん先生の乗っている車じゃ、乗せられなかったものね。

 私はおじいちゃん先生と一緒に自転車を受け取り、配送の人にお礼を言って見送った。


「これで、ちょっとは移動も楽になるじゃろうて。じゃが、交通ルールを守るのはもちろん、周りには十分気をつけるのじゃぞ?」


「分かってるよ、おじいちゃん。飛び出しとか怖いからね」


「うむ」


 届いたシティサイクルを玄関の中にしまい込むと、私たちは居間へと移動する。

 こたつに入りながら、私はおじいちゃん先生と向き合った。


「さて、詳しい話をしてもらおうかの、マイ」


「うん、正直に話すね、おじいちゃん。とても信じてもらえないだろうけど」


「それは、話の内容によるかのう。人魚のしっぽは一度目撃しておるわけじゃし、マイの話す内容をハナから否定する気はない。安心して話をしておくれ」


 私がかなり警戒していることを感じ取ったのか、おじいちゃん先生は私を安心させようと声をかけてくれている。

 さすがおじいちゃん先生だわ。私のちょっとした変化をすぐに見抜いてきてしまう。だからこそ、私も正直に話をしようと考えたのだけどね。うん、おじいちゃん先生相手だと、本当に安心できてしまうわ。

 だけど、いざ話そうとすると最初の一歩が難しい。私は何度も深呼吸をして心を落ち着かせる。


「よしっ」


 ようやく気持ちが落ち着いたので、私はいよいよ覚悟を決めた。


「おじいちゃん、実は私、もともとこの町に住んでいたの」


 私が第一声としてこう切り出すと、おじいちゃん先生はまったく驚く様子を見せなかった。まるで分っていたかのように、私の顔をじっと見つめている。


「あ、あれ……? おじいちゃん、驚かないの?」


 私の方がどちらかというと戸惑ってしまう。てっきり腰を抜かすくらいに驚くと思ったんだけど、意外な結果だった。


「まあ、分からなくはないというものだ。別の世界から来たと言っておる割には、この世界に詳しすぎるからのう。ならば、一度はこちらを経験していると考えた方が、妥当だからな」


「あ、そこからそう行きつくのかぁ……。おじいちゃんってば探偵か何かなのかな」


「ほっほっほっ。だてに長くは生きてはおらぬぞ」


 私はちょっと呆れたような反応を示すと、おじいちゃん先生はとにかく笑っていた。うん、なんか負けた気がする。いや、勝負してるわけじゃないんだけどね。

 それで、私は自分の覚えている限りのことをすべて話した。それは相当に時間がかかったものだけど、おじいちゃん先生は根気よく私の話を遮ることなく、最後まで聞いてくれていた。さすが小児科の先生だわ。


「ふむ、やっぱりそうじゃったか」


「やっぱりって……。おじいちゃん先生、私の事を分かっていたの?」


「いや、わしとてマイの話にあった内容はすっかり忘れておったぞ。きっかけは、そう……、カルテの話じゃな」


「カルテから?」


「うむ」


 おじいちゃん先生はそんなことを話していた。


「古いカルテを整理しておったことがあったのじゃが、その時に『浅瀬真衣』という名前を見つけてな。一度でも見た子どものことを忘れぬわしが、一切思い出せんということに違和感を持っておったのじゃよ」


「そ、そこから……?!」


「ほっほっほっ。記録というのはなんでも持っておくものじゃのう。浅瀬さんは両親とも気味悪がっておったが、記憶がすっかりなくなった状態で見たからそのように感じたのじゃろうな。わしはマイのことを見ておるし、やけにこっちの世界に詳しいところから違和感を感じておった。その状態であのカルテじゃ。そう考えるのが普通じゃろう?」


「いや、私はそうは思わないんだけどなぁ……」


 私はおじいちゃん先生の発想を思いっきり否定した。あまりには早い私の否定に、おじいちゃん先生は苦笑いをしている。


「まあ、それならそれで、海斗くんに目を向けてしまうのも納得がいくのう。いつも二人は一緒におったからな」


「わわわわっ! お、おじいちゃん先生、気が付いてたの?!」


「もちろんじゃぞ。あれだけ露骨な姿を見せられて、気がつかぬと思っておったか。待合室で一緒になっていた時には、ちらちらと目を向けておったではないか」


「ひゃう……」


 おじいちゃん先生に全部言い当てられて、私は顔を真っ赤にして恥ずかしがってしまう。


「おじいちゃん、あの頃のこと全部思い出したのね」


「うむ。ほころびが来ておったところに、先程のマイの話じゃ。すっかり思い出したぞ」


「……誰かに話すの?」


「いうわけなかろうて。他の誰もが覚えとらんのに、そんなことを言うたらいよいよボケたかと思われるのが関の山じゃよ。さすがに年寄り扱いはして欲しくないわい」


 おじいちゃん先生は笑って私に話していた。


「じゃあ、私はここにいていいんだ」


「もちろんじゃよ。それに、マイは転生した世界に戻りたいのじゃろ? それまでの間であれば、わしがしっかり面倒を見てやるわい」


「ありがとう、おじいちゃん」


 私はこたつに入ったまま移動して、おじいちゃん先生に甘えていた。

 なんだろう。正体を知られてこんなに落ち着いていられるなんて。やっぱり、おじいちゃん先生はどこか安心できちゃうんだな。

 私はしばらくの間、そのままおじいちゃん先生に寄り添ったままでいたのだった。

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