第35話 練習試合を応援しよう
そんなこんなで二週間後の日曜日を迎える。私は海斗のお父さんが運転する車で、海斗の練習試合を見学に向かうことになった。
車に揺られること一時間。ようやく練習試合の相手の高校までやって来た。
「め、めちゃくちゃ遠いじゃないの……」
「これでも同じ県内だよ。端から端までに近い移動だから、まあ仕方ないな。日曜日ということもあって、ちょっと混んでいたしな」
海斗のお父さんは笑いながら説明してくれていた。
それにしても、海斗のお父さんは久しぶりに会った気がする。忙しくて家によくいないことは覚えている。覚えているけれど、何の仕事したかはさっぱり覚えていない。うん、困ったものね。
でもまあ、それは今は気にすることじゃないから、ひとまずは前世同様、仲良くさせてもらいましょう。
……と言いたいところなんだけど、その海斗のお父さんに隠れて、真鈴ちゃんが私のことをじっと睨みつけている。いや、本当に私、何かしたかしらね……。
気にしても仕方ないから、今日は海斗の応援に集中しましょう。
「ここって、そんなに強豪チームなのかな?」
「ああ、国体にも出るような学校だからね。次の大会に向けての肩慣らしだろう」
「なるほど……」
つまりは、格下相手に楽勝して弾みをつけようっていうわけか。
相手の高校も三年生が引退して新しいメンバーでの試合になるだろうし、そういうことも必要なのかもしれないわね。
だからって、わざわざこんな遠くの学校を呼びつけなくてもいいと思うんだけどな。まったく、よく分からないというものだわ。
まあ、それはともかくとして、私たちは海斗の応援よ。
よく見てみると、ユニフォームが四種類ある。どうやら、海斗たち以外にも呼ばれた学校があるみたい。
(あっ、あっちは隣町の高校のだわ。わわっ、あっちもなかなかの強豪校じゃない。うわぁ、海斗たちってば完全にかませ犬ってところだわね)
前世の記憶があるからか、ユニフォームを見ただけでどこの高校かが分かってしまう。
それにしても、この試合は練習試合だというのに、私たちと同じように家族と思われるような人たちの姿が見える。それに加えて、スーツ姿の人たちの姿もちらほらと見える。
家族じゃない人たちは、企業のスポーツチームのスカウトマンなんだろうかな。
外部の人たちに開放する練習試合って、まあまあないわよね?
「お兄ちゃーんっ!」
海斗の姿を見つけた真鈴ちゃんが、手を振りながら大きな声で呼びかける。その声に気が付いた海斗は、私たちの方を振り返りながらきりっとした表情で親指を立てて返事をしていた。
なによ。相変わらずそういう反応するのね。
前世の時のことを思い出して、私はつい笑ってしまった。
「むすっ」
小さな声が聞こえたので、私はちらりと顔を向けると、そこには頬を膨らませた真鈴ちゃんの姿があった。
海斗が私を見ていたから怒っている感じかしらね。
確かに、声をかけたのは真鈴ちゃんだから、真鈴ちゃんを見て返すのが当然だものね。でも、なんで私を睨むのかなぁ。海斗がミスったんだから、海斗を睨んでほしいものだわ。
そうやって見ている間に、いよいよ第一試合が始まる。
海斗たちの相手は、呼び出した高校ではなく、もう一校の強豪校。最初のジャンプボールは、どうやら海斗がやるみたいだ。
「いっけーっ、お兄ちゃん!」
真鈴ちゃんが試合開始前から白熱している。
「真鈴ちゃん。熱心に応援するのはいいけれど、そんなんじゃすぐにばてちゃうわよ」
「だって、お兄ちゃんが目立ってるんだもの。ここは応援すべきでしょ?」
「まあ、確かにそうね。でも、飛ばしすぎないようにね。はい、水筒よ」
「あ、ありがと……」
私が持ってきていたお茶の入った水筒を渡すと、真鈴ちゃんはすごく複雑そうな顔をしながら受け取っていた。恥ずかしかったのかしらね。
真鈴ちゃんの珍しい表情を見て、私はついくすくすと笑ってしまう。
やがて、海斗の練習試合の第一戦が始まる。
ジャンプボールは……海斗が取った。
チームメイトに向かってボールを叩き落として、相手チームのゴール目がけて仲間がドリブルで進んでいく。
バスケットボールは5対5の戦い。狭いコートの中を十人があちこちに移動して、相手のゴールにボールを叩き込むというゲームだ。
目まぐるしく変わる攻守に息をのむけれど、気がつけば私は、ずっと海斗の姿を追ってしまう。
「むうう……。なかなかお兄ちゃんにボールが回らない」
「仕方ないわよ。相手にパスを読まれてしまっているみたいだし。でも、強豪校相手によく失点を防いでいると思うわ」
「……よその世界から来たとか言ってたくせに、ずいぶん詳しいわね」
「あ」
真鈴ちゃんの指摘に、私は思わず真顔になってしまう。
そっかぁ、冷静に考えると確かにおかしいわよね。こっちの世界にやってきてからひと月ちょっとだもん。詳しいわけが、ないわよねぇ……。
このまっとうな指摘に、私はまったくもって切り返すことができなかった。
私はその後しばらく、黙ってコートの中を走り回る海斗の姿を追いかけ続けた。横にいる真鈴ちゃんの視線は痛いけれど、やっぱり私は海斗のことが好きみたいで、どうしても姿を追ってしまう。
私たちがじっと見守る中、海斗たちは相手に一方的ともいえる点差で敗北してしまったのだった。
うん、相手が強すぎだったわ。




