第34話 進展なしは息がつまる
私の調査にはまったく進展がなく、さらに日数が過ぎていく。
そのせいで、私の中には少しずつ焦りのようなものが募り始めていた。
そんなある土曜日のことだった。
「マイや、ちょっといいかな?」
「なんですか、おじいちゃん」
食事の席で、おじいちゃん先生が私に声をかけてきた。
「最近、どうも思い詰めておるようだからな、海斗の家族とどこかに出かけてきてみてはどうかの」
「お兄ちゃんの家族と?」
思わぬ提案に、私はびっくりしてしまう。
「うむ。マイは海斗に対して懐いているようだしの。思い詰めた時はこうパーッと遊ぶに限るというものじゃよ」
「えーっと……。それはそうかも知れないですけど、おじいちゃん、そういう余裕があるの?」
おじいちゃん先生の提案に対して、私はちょっと心配する声をかけてみる。
ところが、おじいちゃん先生はにっこりと笑って答えてくる。
「子どもはそういうことを心配せんでもいいんじゃよ。それよりも、やりたいようにやっていればよい。明日の日曜日、多分買い物で鉢合わせをするじゃろうから、その時にでも声をかけてみるとするよ」
おじいちゃん先生はそう言うと、夕食を黙々と食べ始めた。
一方の私は、ちょっと悩ましく感じていた。
おじいちゃん先生は笑っているようだけど、こっちの生活がどういうものかはよく分かっている。決して余裕があるとは思えない。
だからこそ、私はおじいちゃん先生の懐具合を気にしてしまうというわけだった。
だけど、にこにこと笑うおじいちゃん先生に余計な心配をさせたくないと、私は黙ってその日の夕食を片付けたのだった。
翌日、朝の開店時間を狙って、私はおじいちゃん先生と買い物に出かけることにする。
「時にマイ」
「何、おじいちゃん」
「食べたいものはあるかな。今日はマイの食べたいものを買ってこようと思うからの」
どうやらおじいちゃん先生は、私を気遣って好物を食べさせたいらしい。
多分、最近の私の落ち込みを知っているってことなんだと思う。なんだかんだ言っても、大人っていうのはこういう勘が鋭いからね。
「私は、何でもいいよ。強いて言えば、魚はちょっと敬遠かな」
「ほう、どうしてかな」
私の答えに、おじいちゃん先生はさらに質問してくる。
「マーメイド族って、結構魚を食べるのよ。住んでいる場所が海の中だから。だから、ちょっと飽きたかなってところなの」
「ふむ。分かった、それ以外で考えるとしよう」
私の言葉を、おじいちゃん先生は真剣に受け止めてくれていた。
おじいちゃん先生の運転する車が、ショッピングモールの駐車場に到着する。
私が車から降りると、よく知っている声が聞こえてきた。
「げっ」
よりにもよって真鈴ちゃんのその声である。うん、「げっ」てなんだろうね。
「おい、真鈴。会うなりそれはないだろう」
「ご、ごめん、お兄ちゃん」
海斗がすぐに叱ると、真鈴ちゃんは素直に謝っていた。……海斗に。
「俺じゃなくてこっちだ。悪いな、マイ。どうもお前のことが苦手みたいでな」
「あははは、気にしてないからいいですよ。真鈴ちゃん、こんにちは」
「こんにちは……」
海斗が代わりに謝ってくれたけど、私は特になんともないので笑って答えておく。でも、挨拶をしたらめんどくさそうに返されたわ。私、嫌われてるんだろうなぁ、これは……。
私は本当に気にしてないので、とりあえず軽く流しておく。
海斗たちの家族と一緒になりながら、私たちは楽しく買い物をしていく。
その買い物が終わって、いざ車に荷物を載せて帰ろうとした時だった。
「渡さん、ちょっといいでしょうか」
「なんでしょうか、波白先生」
おじいちゃん先生に声をかけられた、海斗のお母さんが反応する。
「うちのマイを連れて、ちょっと遊びに行ってもらえませんかね。今からじゃなくて、来週くらいにでもお願いしたんですが」
「ええ、そのくらいなら構いませんけれど。いいんですか?」
海斗のお母さんが、おじいちゃん先生に問い返している。
「ええ。わしではなかなか相手をしてやれませんのでね。なので、面識のある渡さんがちょうどいいのではないかと思ったのですよ」
「分かりました。それじゃ来週の日曜日でいいでしょうかね」
「はい、お願いします」
そんなわけで、あっさりと話はまとまってしまった。
ところが、これに難色を示したのは海斗だった。
「悪いけど、俺はパスかな」
「えっ、なんで?!」
私は驚いて声を出してしまう。
「いや、練習試合とはいえ、三年生が引退して最初の試合だからな。いい試合がしたいんだよ」
そういえばそうだった。
海斗はこれでもバスケットボール部に所属している。毎日のようにジョギングをしているのもそのためだ。
「そ、それじゃ……」
私は思い切って、別の案を提案してみる。
「お兄ちゃんの試合、応援に行ってもいいのかな」
「それはいいけど。ちょっと遠いぞ?」
「平気平気。お兄ちゃんが頑張っているところ、私も見てみたいもん」
私がこう主張すれば、海斗はずいぶんと考え込んでいるようだった。そんなに悩むもの?」
「だったら、私も一緒に応援に行くわ」
真鈴ちゃんも負けじと名乗り出てきた。
ああ、これかぁ……。海斗が警戒していたのは。
「好きにしろ。ちなみに再来週だからな、試合は」
「構わないわ」
私たちの反応を見て、海斗はやれやれという顔でため息をついていた。
そんなわけで、私たちは再来週、海斗が参加するというバスケットボール部の練習試合を見に行くことになったのだった。




